67話 楽しい時間はあっという間と言いますがこれで最後じゃありません
日も落ちはじめて夕方に差し掛かる頃、沢山遊び回った私達はとあるカフェテリアで休憩をしていた。
「……まだ口のなかが痛いよ」
「だからあれは食べないほうがいいってみんな言ったのよ」
そしてアニは何故か私を指名してカフェテリアの夕日が見えるテラスに呼び出すと何てことのない話をしながら頬を擦る。
だからあれほど食べるなってユーリ以外のみんなが止めたのに、まぁ、その挑戦する勇気は認めてもいいかもしれない。
「でもその後食べたハンバーガーは美味しかったよ」
「ここら辺だと一番有名なお店だしそうでしょうねー」
アニがガイドブックから選んだお店はこの辺りでも有名なお店で、もちろんハズレなわけもなく、こういうアニの慧眼は流石だと私も思った。
「こんな景色もさ、見たことなかったんだよ」
「……そう、で、なんでそれを私に話すのよ」
アニはそう言って夕日に視線を落とすけど、何故そんなセンチな状況の連れに私を選んだか理由が分からないから困惑するしか返すことが出来ない。
確か、ゲーム内ではこの立場はユーリだった。
散策イベントがうまく行くと追加されるアニ視点のサブストーリーのはずだ。
「……別に深い意味はないよ、ただ一番話しやすかっただけ、もし勘違いさせたならごめんね?」
「するわけないでしょ、調子乗らないでくれる?」
その小悪魔みたいにきゅるるんとされた瞳を向けられて私はすぐに牽制しておく。
万一にも勘違いされたら本当に面倒くさい以外の何物でもないし。
まぁ私は主人公じゃないからあり得ないと思うけど。
「……そういう反応されるのが、楽なのかもしれない」
「何で?」
私は純粋に気になって聞き返す。
はっきり言って私のユーリ以外にたいする態度は決して良いほうではないし、それは本人である私が一番よく理解している。
「……家に帰ればボクは伯爵家の冴えない三男、やることといえば勉学に励むか鍛練するかくらいでさ、それでも周りはメイドとか執事ばっかだから親兄弟以外はみんなボクにかしこまる、それが少しだけ……息苦しい時があるんだ」」
アニの語るそれはよく聞いたことがあった、いや、見たことがあるのほうが正しいか。
「だけど学校は楽しかったなぁ、女の子達はみんなボクに夢中でさ、知らない話をたくさんしてくれるんだ」
私が聞きに徹していればアニは何かスイッチでも入ったように語り続ける。
「君たちは君たちでボクより立場の高くない三人も普通に話しかけてくれて、立場が上の二人もそれを笠に着ることもしないどころか魔法祭での一件も今回の件もボクを誘ってくれた」
「……つまりは何が言いたいの? ちゃんと言葉にしないと伝わらないって私に教えてくれたのはあなたでしょ?」
アニは言いたいことだけ言いきるとすぐに黙り込んでしまったけど、こんな遠回しに言われても困るというのが事実だ。
このアニの感情はゲーム内でも聞けたし、詳しくは店舗別の特典キャラ別ショートSSに詳しく記載されていたから私はよく理解している。
それでも自分の口から言うことの大切さを人に解くのならまた、自分もそうするべきだ。
だってそのほうが、自分がスッキリ出来るから。
「……まぁそれもそうか、多分だけど、ボクは寂しいんだと思う、自分でもこんな感情抱いたのは初めてだからよく分からないけど、まだあの学校にいたい」
そして私に促されてポツリポツリと本音を吐露するアニはどこか、いつもよりも年相応に見えた。
かわいい系の見た目でやることは腹黒、だけどその心情は普通の子供と何も変わらないのだろう。
「これは、人からの受け売りなんだけど」
私はどうやったって卒業というひとつの節目を迎えるアニに一言手向けを贈ることにして口を開く。
恋のライバルでは確かにあるけど、こんなときまで突き放すほどに終わった性格はしていない。
「え、なに?」
「来年でも再来年でもまたみんなで城下町に来たらいいのよ、別にこれが今生の別れってわけでもないんだし、女の子達だって会えなくなるわけじゃないわ、OBとしてたまに顔でも出して無駄に黄色い声援あげさせればいいでしょ、あなたはそういう人なんだから」
これは、あの海の日にセリムが私にくれた言葉の真似だ。
この世界はゲームの世界だけど別に私達がゲームの住人なわけじゃない。
卒業しても、ゲームが終わっても、私達の物語は途切れることなく死んでも続く。
それなら自分らしく人生を謳歌したほうが楽しいに決まっている。
「……まぁ、そうかもしれないね」
「何であんた不服そうなの?」
別にそこまで変なことを言ったつもりはないのに私の弁舌を聞いて少しだけむすっとした様子のアニに私は不思議に思って聞き返す。
「いやぁ、だってまた君に負けたからさ、ダメだなぁ、やり返してもすぐにまた君はボクを驚かせる」
「他意はないってことだけはちゃんと頭にいれときなさいよ」
やり返したというのは多分あの助言、そしてアニが魔法祭を負け換算していたことと、今の会話で負けを認めていたことにも驚いたけどそこはとりあえず無視してこっちに釘を刺しておくのは忘れない。
「そんなの分かってるしボクだってオバサンはちょっと、にしてもやっぱり言ってることが変に貫禄あるんだよね君、そろそろ人生何周目なのか教えてよ」
「……あんたのほうが年上でしょ、でもまぁ、変にセンチ入ってるよりそれくらいのほうがアニらしいわよ」
だけど次の瞬間にはいつものアニに戻っていて、オバサン呼ばわりに最近は軽く怒りを覚えるのも、人生何周目なのか教えないのも代わりはないけどあんなセンチ入ってるアニよりはいつものこの人を小馬鹿にしているアニのほうがずっとこの人らしいし、なんというか自然で楽だ。
それをライバル相手に詳しく言ってあげる程私はお人好しではない。
「……そっか」
そう溢して年相応の笑顔を浮かべたアニは多分、気付いていたと思うけど。




