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6話 これ嫌なフラグが立ったんじゃないかしら

 私はその日、最早いつもの日課となったそれをユーリたんの横から生暖かい瞳で見守っていた。

「おい! 少しハイネに近くないか!?」

「僕はユーリと話がしたいだけだ! 僕とユーリの間にハイネ嬢がいるだけだろう! それより君こそ毎回毎回何故ここにいるんだ!」

「お、オレは……ハイネの友達としてっ、お前らみたいな変な奴らが何かしないか見張ってるだけだ!」

「ま、まぁ、二人とも……そんなに喧嘩しないでください……!」

 いつもの、私とユーリたんの出会った木の下で、勿論ユーリたんの横を陣取る私とそんな私の横に座って隙あらばユーリたんと話をしようとするアベル。

 そしてそんなアベルを何故かよく分からない理由をつけて私の横から引き剥がそうとするセリム。

 さて、本当に何故こんなことになったのだろうか。

 私はあの日、ユーリたんと出会ったあの後ちゃんとばれることなく自室へと戻った。

 そして数日後また屋敷を抜け出してユーリたんに会いに行こうとしたところでセリムと偶然出会い、ユーリたんに会いに行くことをセリムに伝えれば何故かついてくると言って譲ることはなく、いざユーリたんの元にたどり着いて楽しく談笑していればさて本当に何故か分からないがもう現れない筈のアベルが現れたのだ。

 また必ず来ると言っただろうとドヤ顔と共に。

 それからは来る度に喧嘩を始めるセリムとアベル。

 それを止めようとするユーリたん。

 何故こうなったのかと頭を悩ませる私という構図が完成するようになった。

「……ユーリさん、仲良くしている男子二人は頬っておいてこっちはこっちで女の子同士仲良くお話しません? 私ユーリさんの歌がまた聴きたいわ!」

 最初のほうこそ無駄な小競り合いを止めようと私もしていたが私が会話に入ると何故か話が厄介になることを嫌というほど思い知ったので私は二人を無視してユーリたんに話を振る。

「え、ええ……私は構いませんが……」

「ちょっと待ってくれないか! 僕もユーリの歌が聴きたい!」

 ユーリたんは二人の様子を気にしながらもこちらに顔を向けて笑顔で了承してくれる。

 しかしそう上手くいくものでもなく私たちのやり取りを見ていたアベルが私の肩を掴んでユーリたんのほうへと身を乗り出してくる。

「あ、おい! だからハイネに触るなよ!」

 そしてそんなアベルをセリムが引き離そうと引っ張った結果二人は綺麗に地面に転がった。

 本当に何がしたいんだこいつら。

「君も大概だな! 僕はユーリに……」

「ユーリお嬢様!」

 流石に少し腹に来たのか苛立たしげにセリムに物言おうとしたその声を聞き覚えのある少し高い声変わり前の少年の声が響いた。

「あなたは……」

 私は慌てて声のしたほうを見る

 そこにいたのは慌てた様子でおどおどしている黒髪の少年だった。

「あ、シグナ!」

「え、シグナ……」

 ユーリたんの呼んだ名前につい私は声をもらす。

「皆さん、ご紹介しますね、彼はシグナ、私の幼馴染みです」

「幼馴染みなんてそんなっ……ボクはただのユーリお嬢様の側つきです」

 ユーリたんに幼馴染みと紹介されたシグナは慌てた様子で頭を振る。

「側つきがいるってことは、ユーリもどこかお偉い家柄なのか?」

「セリム!」

 セリムのごく当たり前な疑問に私はセリムの肩を叩く。

「な、なんだよ……」

 何故叩かれたのか勿論分からないセリムは少しだけ焦った様子で私のほうを見た。

 ユーリたん、彼女はゲームの中で一見すると自身の家のことを気にしていないように話すが実は内心ではいまだに貴族であった時代を忘れることの出来ない父のことを気にかけているというのはゲーム中にある条件を満たすことで見れる彼女の独白から知ることが出来るのだ。

「……いえ、私の家は普通の家ですよ、昔は名家だったらしいのですが今ではそんな名残もなく、所謂没落貴族っていうやつです、まぁ私は没落する前のことはあまりよく分かりませんが、シグナのお家は没落した今も我がローレライ家に忠誠を誓って残ってくださった騎士の家系なんです」

 そんな私たちのやり取りにも気にする様子を表には見せずに自身の家、そしてセリムについて紹介してくれる。

 そして私は彼を勿論紹介される前から知っている。

 彼はシグナ・マグナス

 彼女の紹介通り没落したローレライ家にそれでも没落前の地位の低かった自身達を受け入れて騎士として迎え入れてくれたローレライ家に恩義を感じて残ることを決めた父に従い自身はユーリたんに忠誠を誓っている。

 そんな端正な顔立ちの彼は勿論、ローズクォーツの姫君の攻略対象である。

 青年期の彼はその漆黒の髪を後ろで無理矢理縛っていて基本的に寡黙で無愛想だが内心は誰よりも優しい、そんな人物だ。

 そして幼少期は見ての通りおどおどした弱々しい少年。

 ある事件を切っ掛けに自身の性格を見改めるわけだが青年期でも時折現れるヘタレ属性は世の中の女子達の心を射止めたようで人気投票は堂々の第一位である。

 ちなみに彼のルートではハイネは文字通りバッサリ斬り捨てられたりすることが多い。

「そ、そんなことより、ユーリお嬢様! ご主人様がお探しです」

 シグナはちらりとこちらを一瞥するが何も言うことなくユーリたんのほうを向きなおす。

 ユーリたんをお父さんが探している。

 この展開は……

「父さんが……ごめんなさい皆さん、今日はもう帰りますね」

 ユーリたんは少し考えた後にそう言って立ち上がる。

「あ、ああそれじゃあまた」

 何も知らないアベルは少し戸惑いながらもにこやかに手を振る。

「……気をつけて帰ってくださいね」

 私はこれからの行動を頭の中で整理しながらユーリたん自身にも軽い警告をする。

「ええ、それじゃあまた!」

 だがその返事を見た限り恐らく彼女は警告として捉えていないだろう。

 ユーリたんはそのままシグナと一緒にかけていってしまった。

「なんか、陰気臭いやつだったな、ハイネ?」

 ストリートチルドレンとなっても尚明るく努めるセリムからするとシグナの雰囲気と態度があまり好ましくなかったのかセリムがうげえと舌を出しておどける。

「セリム……つけるわよ」

 私はそんな彼の肩に手をがっしりと置くとそれだけ言って勢いよく立ち上がった。

「は?」

「いいから! ユーリさんをつけるの! ついてきなさい」

 いきなりの私の発言に驚いた表情を浮かべる彼の肩を無理矢理引っ張りながら続ける。

 私一人では恐らく、切り抜けることが出来ない。

 だからこそセリムの力を借りたいのだ。

「えー、何だよ急に……別に構わないけど」

 セリムは呆れたように言いながらも付き合ってくれるようで立ち上がりズボンについた土を払う。

 ゲーム内で見られる彼はかなり押しに弱い、ということを知っていたが実際のゲーム内ではこのイベント時にセリムはいないため断られる可能性もあった為に安堵の息を吐く。

 これは、良いほうに原作を改変出来ている。

「おい君たち! いきなり何を言い出すんだ!」

 早速ユーリたん達の後を追おうというときにアベルに出鼻を挫かれる。

 ああそうだ。

 忘れかけていたけどこいつがまだいたんだった。

「この際だからお坊っちゃまは無理してついてこなくてもいいわよ、ただ邪魔だけはしないで、帰るなら大人しく帰ってちょうだい」

 説明する時間も惜しいし何よりも何と説明すればいいのか。

 私は一旦アベルに何かしてもらうことは考えずに邪魔だけはしないように釘を刺す。

「……君が何をしようとしているのかは知らないが、これで頬っておいて何かことが起きてから後悔するのは嫌なのでね、君たちのことを見張らせてもらうよ」

 しかしアベルはそんな私を見て自身もついてくることを選択する。

 これは意外な選択だ。

 しかし

「……数は多いに越したことはないか、それじゃあ行くわよ!」

 私は早々に合点すると二人を連れてユーリたんの後を追った。

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