64話 来年もまた一緒にこの日を迎えましょう
去り際にセリムが教えてくれたユーリの居場所はまた購買の近くだった。
「ユーリ! またここにいたのね」
探し人を見つけると私は声をかけて駆け寄る。
「あれハイネ、もしかして探してくれてた?」
「ええ、渡したいものがあったから」
「もちろん、私も渡したいものがあるよー」
私達は互いに言いながら二人とも懐を探り出す。
奇しくもセントハルトデーと同じ構図が完成したわけだけどこれにはとあるわけがある。
ゲームの中でユーリはマップ移動の時に基本的にこの購買のある下校口近くの廊下から出発することが多い。
だからここら辺に出没することが多いのはそのせいだと思う。
「……あれ? ハイネそんなペンダント今朝つけてたっけ? その石サントライト?」
一足早く小さな小箱を取り出したユーリは私の胸元で光るペンダントに気づいたようでふと、そんなことを聞いてくる。
「ああこれね、さっきセリムがくれたの、肌身離さず持っていて欲しいなんてもしかしたらセリムはあの伝承信じてるのかしらねー」
貰ったとき明言はしていなかったけど肌身離さず持っていて欲しいなんて言っていたからもしかしたらサントライトの伝承を信じているのかもしれない。
貰ったときも思ったけどやっぱり見れば見るほどにセリムの瞳の色とよく似てる。
「どうだろう?」
「……ユーリもしかして何かあったの?」
一瞬、ユーリの声に違和感を覚えて私は反射的に聞き返した。
いつもと何が違うのかと聞かれれば言葉にするのは難しいけど、何かが、根本的にいつもと違った。
多分私みたいなユーリ一筋人間じゃなければ気付かないくらい、それくらいの小さな違和感。
「え、なんで?」
「なんか、いつもと違う気がしたから、まぁ気がしただけなんだけど……」
でも次の瞬間にはいつものユーリに戻っていたから、もしかしたらユーリ本人も意図して変えたわけではないのかもしれない。
「んー、少し正解かもしれない」
「少し正解?」
「答えは教えてあげないけどね」
「えー、どういうことよー」
ユーリは逡巡しながら少しだけヒントを投げておいてそのまま放置することを選ぶ。
多分だけどこういう時これ以上追及してもユーリは答えを教えてはくれないから私も茶化して早々に諦めてしまうことにする。
「まぁそれはいいとして、ハイネ、左手出してくれる? あと目も瞑ってねー」
「え、はい」
簡単に今の話題を流したユーリに促されて私は言われるがままに目を瞑る。
真っ暗闇の中左手に柔らかい感触がして、それから冷たい何かが小指に通される。
「……これでよし、開けて良いよ」
「っ……これって……ピンキーリング?」
されているときからもしかしたらとは思っていた。
でもそんなわけないと自分の中で自嘲していたのに目蓋を上げた先に私の小指で光っていたのは小さな桃色のストーンのあしらわれたピンキーリングそのものだった。
「そう! しかもお揃いなんだよー」
ユーリは笑顔でそう言うと自分の左手もかざして見せる。
「……つけるほうの手は、間違えてないわよね?」
どくどくと大きな音を立てて鳴り止まない心臓の音と戦いながら私は震える声で聞く。
一学期の時のような勘違いはもうしたくない。
「そっちであってるよ、左手の小指は友達との絆を強くしてくれるんだって」
「あ、そ、そうよね……」
そして、慎重に動いたお陰でダメージは最小限で済んだ。
そういえば恋のチャンス以外にもそういう意味あったんだった。
覚えていればもっとダメージを少なく出来たのにとも思うけど、お揃いのピンキーリングをくれたことは素直に嬉しい。
そこまで私に気持ちを許してくれているんだっていう事実だけで心がぽかぽか暖かくなっていく。
「あ! わ、私からはこれね!」
だけど今日はセントモニカデー、これだけが目的じゃない。
私も慌てて取り出していた小袋をユーリのほうへ差し出す。
はっきり言ってこれの後では見劣りするから出すのは躊躇われたけど。
「これは……砂糖菓子?」
「そう、私の……昔見た本に載ってたんだけど見た目がかわいいでしょ?」
透明の袋から覗く色々な色の不恰好な砂糖の塊達は私の努力の結晶。
このローズクォーツの姫君の世界には金平糖は存在しない。
だからこそ、今この時お返しにと選んだわけで、ヘタレとでも何とでも言えばいい。
「確かに、お星さまみたいだねー」
ユーリは言いながら金平糖の入った袋を楽しそうに軽く振る。
「こんなに良いものを貰っておいてあれなんだけど、一応、一応手作りだから、その――」
「ありがとう! とても嬉しい……大切に食べるね」
「……ええ、そうしてくれると嬉しいわ」
片やそれなりに高そうな指輪と片や手作りで不恰好な砂糖菓子。
見るからに差は歴然なのにそんなこと1ミリも感じさせないくらい喜んでくれるユーリに自ずと頬が緩んでしまう。
やっぱりユーリは、本当に優しい子だ、いつだって。
「……ねぇハイネ、約束しない?」
ふと、金平糖の袋を私の前に差し出しながらユーリがそんなことを言ってくる。
「来年のこの日もまた、一緒に迎えるって」
そして、しっかりと私のことを見据えてユーリはその言葉を口にした。
「……ユーリ」
多分ユーリは、この後起きるであろうことをどこかで感じ取っている。
流石乙女ゲームの中でもポンコツ系ではなく鋭い有能系に分類されるだけあってこういう時も第六感とかが働くのだろうか。
「最近嫌な予感がするって言ったでしょ? だから、このお星さまにお願いしとこうと思って」
だけど、そんな不安もどこかへ飛ばしてしまうような笑顔に私もつい緊張の糸が解れてしまって
「……ええそうね、じゃあお願いしておきましょうか!」
私もユーリの持つ金平糖の袋に優しく手を添えた。
この時気を抜くべきではなかった、その事実に気付くのは、もう少し先のこと。




