62話 昔みたいに仲直りしたいです、私は強欲なので
「私は、正直に言って最初は何でセリムがすぐに戦地に行くことを断らなかったのか理解が出来なかった」
セリムに促された私は思っていたよりもすんなりと自分の気持ちを口にすることが出来た。
「……ああ」
そしてセリムも何か突っ込むこともせずに合図地だけうってちゃんと耳を傾けてくれる。
「その後も全然私に相談もしてくれなくて、本当に行きたいなら私には止められないし私にはそんな権限もない、でも……本当に行きたいようには思えなかった」
「……」
こつこつと語る私の言葉をセリムは否定することはしない。
だから多分、本当に戦地行きに心の底から乗り気だったとか、そういうわけではなさそうで
「実は信用されてないのかなって考えたり、言いずらいことがあるのなって思ったり、それでも私は……今の関係性を壊したくないからこうしてちゃんと話し合いの場を設けることを、しようとしなかった」
そのまま私達二人の関係性に関わる部分に少しずつ触れていく。
「自分の本心を伝えることも、しなかった」
私が自分の本心を伝えることを恐れた、それが多分今回一番この話が拗れた理由だ。
「……そう言うってことは今は、違うってことですよね」
「そうね、あなたが話そうと思ったみたいに私も、お節介焼きさん達のお陰でこうして伝えようと思えた、今言わなかったら、後悔するから」
確信に触れてきたセリムに私はうなずく。
そして、多分セリムがこうして話をすることを選んだのも誰かまでは分からないけどお節介のお陰だろう。
本当に私達は周りの人たちに恵まれていると思う。
誰も介入してくれていなかったら今も二人とも拗らせたままだった。
「……そうですか」
そう呟くセリムも多分、同じことを考えている。
「だから言うわよ、これは別に騎士のあなたに言う言葉じゃない、幼馴染みとして言うことだから」
そこで一度言葉を途切って、私は一度大きく息を吐く。
「……私は、あなたに戦地に行ってなんてほしくない」
そして、ずっと心の中で思っていた気持ちをそのままセリムにぶつけた。
「それは、何でですか?」
「……あなたが居ないと、多分、寂しい」
「っ……」
セリムの息を飲む小さな音が聞こえた。
この年で言うには少し恥ずかしいことだけど、今ちゃんと伝えておかなければまた同じことが起きるかもしれない。
「せっかくみんな今は一緒なら、一緒に卒業まで学校に通いたいの」
私は、出来ることならこのままみんな欠けることなく学生生活を送って、卒業したい。
本当にセリムが戦場に行きたいだけなら言わなかったかもしれないけれど、そうじゃないから言うこれは、私のワガママだ。
「そう、ですか……」
私から告げられたセリムはずっと見つめあっていた瞳を少しだけ伏せる。
「それにね、私はあなたに、人を殺してほしくない」
そして、これもまたワガママ。
ゲームにおけるセリムの立ち位置は圧倒的な悪役。
自分の人生を恨んで何人もの人を殺してきた。
でも、今のセリムはそんなセリムとは全く違う人生を送っている。
だから、出来ることならその手を血で染めてほしくない、必要ないうちだけでも。
「そ、れは……難しい話ですね」
セリムは私のそんな無茶振りに困ったように頭をかく。
「そうね、それは分かってる、でも……」
難しい話、それは私でも分かってる。
だってこんな戦争のある世界の中で公爵家に仕える騎士なのに何もせずに生きていけるわけがない。
だからこそ、いつかその手を血に染めることに迫られるその時までは綺麗な手でいてほしい。
「学生のうちだけでも、そうやって生きてほしいし、私のために今みたいな無理のかかる鍛練はしないでほしい」
セリムが食事や寝る間も惜しんで鍛練をしていることはアベルやシグナからも聞いている。
それで私のためにセリムが身体を壊したら、私は必ず後悔する。
「……オレがいないと、いや、オレは、ここにいたほうがハイネ様はいいですか?」
「当たり前のこと言わないで」
セリムの質問の意図は読めなかった。
でも、当たり前に答えは迷うまでもない。
「……でもさ、例えばおまえは、オレとユーリが崖から落ちそうになっててどっちかしか助けられないなら、ユーリを選ぶんだろうな、多分……いや、絶対か」
「あんまりバカにしないでよ」
ふと昔みたいな口調に戻ったセリムの邪推に私の口調は鋭くなる。
「……」
「確かに、私はユーリに特別な想いを抱いてるわ、それは友愛では表せない、その点については認める、でもね、どちらかしか助けられないそれだけで私は大切な人を見捨てたりなんて絶対にしない、トロッコ問題なんてクソくらえよ」
その澄んだ赤い瞳を軽く見開いて驚くセリムにさらに追加で畳み掛ける。
「どんな手を使ってでも、死んでも、両方助けるに決まってるでしょ、私ね、知っての通りとっても強欲な人間なんだから」
トロッコ問題、前世の世界にあったこれが私は嫌いだった。
私は、自分の欲に忠実だからどちらかなんて選べるわけがないし、選ぶことはしない。
「……っ、ははっ」
「……何かおかしいこと言った?」
堪えきれないというように吹き出したセリムに私は少し怪訝に問いかける。
「いや、ごめん、さっきの例え話はちょっと前までのオレの考え方で、今は違うよ」
「……それを先に言ってほしかったんだけど」
そしてセリムの説明で自分が恥ずかしいことをしたことを知った。
もう少し早くそれを言ってくれればこんな寒い演説しなかったのに。
「まぁどっちか選ぶみたいなそんなことにはならないだろうけど、なったとしても誰も死なないな」
セリムはそれだけ言うと緩慢な動きで椅子から立ち上がってこっちに向かってくる。
「……何で?」
「オレがお前を死なせないから」
「っ……」
質問に答えながらセリムは私の頭に手をおいてぐしゃぐしゃとかき回す。
「お前がユーリとオレを命懸けで助けてくれたら、お前が死ぬ前に今度はオレがお前を助けてやる、前も言ったけど今度は絶対に」
「ちょっ、髪の毛崩れるっ……」
セリムは良いことを言ってくれているのに頭を撫でられている現状が少し気恥ずかしくて慌てて文句を口にする。
でも
「今だけ許して、明日からはオレはまたお前だけの騎士にちゃんと戻るから」
セリムはいつもよりも優しい笑顔でそんなことを言うから
「……別に、それはどっちでもいいけどね」
とりあえずは訂正だけして、されるままに頭を差し出した。




