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57話 深夜にまた二人で話しているみたいです

「おーい、王子さまー」

 オレはアベルが独りになったタイミングでいつものように声をかける。

「セリムか、どうかしたかい?」

「うちのお嬢様となに話してたの?」

 オレがハイネと別れてすぐにアベルが声をかけているところを見た。

 話の内容は勿論気になったけど多分近くで聞き耳立ててたらアベルは気付くだろうから諦めて、こうして本人に聞くことを選んだ。

「何話してたのか気になるんだ」

「……気になるに決まってんだろ」

 オレがあんな態度を取った後の会話だ、気になるに決まってる。 

「別にたいしたことは話してないさ、自分の大切な騎士が何で自分に何も相談してくれないのかとか、何も分かってあげられてなかったのかとか、そういうただの世間話だよ」

「……オマエ、怒ってんのか?」

 オレはアベルの物言いに驚いて眉間にシワを寄せた。

 さっきからいつも通り変わらず静かで落ち着いた喋り方なのに選んでいる言葉のチョイスが刺を孕んでいてアベルらしくない。

「さぁ、どう思う?」

「……」

 オレのほうを見てにこりとアベルは笑って見せたけどやっぱりいつもと何か違って、オレは様子を見るために黙り込む。

「冗談だよ冗談、本音はね、少しだけ怒ってるかな」

「……ハイネとオレのことで何でお前が怒るんだよ、お前には――」

「関係ないとは、言わせないからね」

 オレとハイネの間に何があったって関係ない、勢いで言おうとしたその言葉はアベルの突きつけた人差し指と言葉で簡単に止められた。

「……言わないよ、だから何で怒ってるのか教えろよ」

 男に口の前に指を突きつけられる趣味はないからとっととその手を払いのけて呆れたように息と一緒に言葉を吐き出す。

 普段アベルが怒っているところなんてはっきり言って殆ど見たことがない。

 それなりに永い付き合いにはなるけど多分片手で数えるまでもない程、それくらいにはレアだ。

「ハイネは少なからず君のことを思って心配してるのに、君は何も彼女に残そうとしないからね」

 だけど聞けば聞くほどにアベルらしい理由過ぎてこいつも変わらないなと呆れてくる。

 オレもだけど。

「……別にオレがいなくてもあいつは大丈夫だよ、ユーリがいるし最近はクラスの奴らとも打ち解けてきてシグナともそれなりによくやってる、それに心配して動いてくれるお前もいるし……ってお前なんで笑ってんだよ」

 アベルが必要以上に気にするからわざわざ説明してやってるのにこの王子は何故か失礼にもいきなり軽く吹き出して見せるから自ずと声色が低くなる。

「いや、ごめんね、別にバカにしてるわけじゃないんだ、あまりにもハイネが自分に振り向いてくれないから諦めて前に言ってたハイネだけの騎士を目指そうとしてるのかと思ったんだけど、まさか他の人とハイネの交流を見て拗ねてたなんて思わなくてね」

 笑いを何とかかみ殺しながらアベルはそんなバカみたいなことを言ってのけるからオレも反論する。

「……別に拗ねてるわけじゃねえし、それに、その考えもわりかし間違いじゃねぇよ」

 オレは別に子供みたいに拗ねてハイネにあんな態度を取ったわけじゃない、ただ、最近はオレがいなくてもハイネは笑って生きてるし、多分オレがついてなくても大丈夫、そう思っただけだ。

 それから、あいつのことを諦めたってのはあながち間違いでもないからそこは肯定しておく。

「え、じゃあ本当に諦めちゃったの? 自分から恋のキューピットに進み出ておいて?」

「……オレが戦場で騎士としての腕を磨けばハイネはこれ以上傷つくことはねぇし、オレなんかよりユーリとくっついたほうがあいつが幸せなのも変わりないだろ」

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔でアベルが聞いてくるからオレは少しだけ詳しく自分の気持ちを吐露してみせる。

 多分、あの日オレを探してくれたこいつじゃなかったらここまで言葉にして伝えようとはしなかった。

 オレはただ、手を引いてくれたあいつに幸せになって欲しいだけなんだ。

「君の本心を蔑ろにしてもかい?」

「オレがどう思おうとオレがどうなろうと、あいつが幸せならなんでもいいんだよ」

 明らかに温度の下がった声でアベルはそんなことを言ってみせるけど、オレの本心なんて何も、あいつが生きていく上で必要なものじゃない。

「元々捨てられてた命だ、それをあいつが拾ってくれた、なら、オレは、あいつが求める未来を願い守る」

 あいつの未来は誰にも邪魔させないし、壊させたりはしない、オレが必ず。

「……君が戦場にいる間は誰が彼女を守るんだ? もう怪我はさせないんだろ」

「怪我をさせないためにも、これ以上に力が必要なんだよ、今のオレじゃまだダメだ」

 確かに学園にいる間だってハイネを守りたい。

 あの日から寝る間も惜しんで鍛練も増やした。 

 でもそこで、自分の限界を感じた。

 これじゃあ守りきれないという焦燥感を覚えた。

 そんなところに戦場で鍛えてこいって声がかかったんだ、渡りに船以外の何物でもないだろう。

「……その大きくて、小さい願望は、いずれ身を滅ぼすかもしれないね」

 アベルはこれ以上話すことはないというようにそれだけ言うとオレの肩を軽く叩いてすぐに何処かへと行ってしまった。

「そんなの、承知の上だよ」

 オレは、誰もいない廊下で独り、誰に言うでもなくただ、呟いた。

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