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5話 攻略対象が出てきたけど出番は奪わせていただきます

「……ご無沙汰しておりますわ、アベル様」

 私は出来る限り丁寧に挨拶をして、お辞儀する。

「……どこかであったことが?」

 私の返答に彼は少しだけかしこまって聞き返してくる。

「おや、覚えていらっしゃらないでしょうか?」

 覚えていなくても無理はないだろう。

 彼、このローズクォーツの姫君のメインヒーローであるアベル・ラインハルトはこのラインハルト王国の王族であるラインハルト家の長男であり次期国王候補筆頭である。

 つまるところこの国の王子様である。

 暇を持て余した彼は偶々この日城を抜け出してこの森に来た。

 そしてユーリたんの歌声と天使のような見た目に一目惚れする。

 そして魔法学園でユーリたんと再会した彼はユーリたんにアタックをするようになる、という王道な展開であるルートだ。

 幼少期は幼さのあるあどけない表情や年相応なやんちゃさがある彼だが魔法学園で再開する青年期の彼は単発の青髪に少し切れ長な瞳と端正な顔立ち、そして文武両道でありながら少し自信家という王道さからも人気投票2位の座を冠している。

 ちなみに彼のルートではハイネは大体の場合国外追放されるというのを忘れてはいけない。

 彼が王族である以上ハイネ自身公爵家の人間のため彼の誕生日祝いのパーティーなどには毎年参加している。

 だから面識はあるが彼からすれば沢山いるその他大勢なのだろう。

 そもそも覚えていたとしてこんな泥だらけで擦り傷を作っているような奴が公爵という爵位を持った家柄であると一発で気付けるほうが稀有だと思う。

「残念ながら、いやそんなことよりも! いきなり現れて彼女が歌うのを邪魔しないでもらいたい」

 アベルは少し考えた様子の後に頭を振るとすぐに私に文句を言い始める。

「邪魔なんてそんな恐れ多い、この美しい歌声を何故邪魔しなければならないのです?」

 そう、邪魔するなんてとんだ言い種だ。

 私がユーリたんのする何かを邪魔するわけがないだろう。

「君がドタバタと現れたから彼女は歌うのをやめてしまったじゃないか!」

 まぁ、確かに盛大に登場には失敗したがそれは別に故意にしたわけではない……

 それよりも

「……あら、そんなところから聞き耳をたてていらっしゃったのですか? アベル様ともあろうお方が」

 ゲームの内容からすでにいることは気づいていたがせっかくここまで慌ただしく1日を過ごしてアベルの登場シーンを邪魔したというのにすごすごと現れたことが気に入らず少しトゲのたった物言いになる。

 彼が王子であるとかこの際どうだっていい。

「う、うるさいな! 声をかけるタイミングを見計らっていただけだ! そうしたら君が……」

 ああ、まぁそうだろう。

 だって私が言った言葉はまぁ、実際に思っていることではあるが全て彼が言うべき台詞だったのだから。

 そう、今日はアベルとユーリたんが出会う日であり勇気を出した彼が先ほどの私、とは少し違うにしろあんな風に声をかけるのが彼らの出会いなのだ。

 だが彼、アベルはまたここに来る、と言いながらも城から抜け出したことがバレてしまいそれからここに来ることは一度もなく、魔法学園で再会する、という流れになるわけだが。

「と、ともかく! これ以上邪魔するのは……」

「あ、あの! 話に割って入ってごめんなさい……でも私は別に彼女に……ハイネさんに邪魔されたとかは思ってない、です」

 私に難癖つけようとするアベルと私の間に焦った様子で割って入って来たのはユーリたんだった。

「……」

 やばい、推しが攻略キャラを差し置いて庇ってくれるのニヤけそうになる。

 ユーリたんマジ天使。

「……っ、な、なんだよその顔は!」

「いえ、別に」

 必死で我慢していたがどうにも顔に出ていたようで少し憤慨した様子でアベルが怒る。

「くっ……君またここに彼女の歌をききにくるんだろ! 僕も……また来る」

「……は?」

 アベルの言葉についどすの効いた声が漏れた。

 それはおそらく到底子供の口から発せられるものではない。

 だけどそんなことよりもこいつ今何て言った?

 また、来ると言ったのか?

 いや、アベルはゲーム内でも来ると言ってその後一度も来なかったではないか。

 だから大丈夫。

 私とユーリたんの大切な幼少期ランデブーを邪魔されることはない筈だ。

「僕も、何がなんでもまた来るから、そのときは覚悟しておいてもらおうか」

「いや、来なくていいんですけど……」

 ゲーム内よりも何故か熱量高くそう啖呵を切られて私はそれを即答で断る。

 来られたらユーリたんを一人占めできないではないか。

「いーや、来る、何がなんでも来る、誰が邪魔しても来る」

「なんっで――」

 そんなやる気なんだ。

 そうぶちギレそうになったところをまた止めたのもユーリたんだった。

「ま、待ってください! 私はっ、一人より二人、二人よりも三人のほうが楽しい……かと」

 やだ優しい。

 流石ユーリたんマジ女神。

「……そうよね! ユーリた……ユーリさんが言うならそうね! ユーリさんの言うことに間違いはないもの! それじゃあアベル様、またいずれ」

 私は速攻で自分の顔から不快であるという感情を取っ払って笑顔でアベルに手を振る。

「つ、都合いいな……とりあえず抜け出したのがバレる前に僕は帰るが……君もバレる前に帰ったほうがいいぞハイネ嬢」

「あら、覚えていらっしゃらないのでは?」

「……思い出したんだ、忘れていて申し訳ない」

 アベルは律儀にこちらを振り返って頭を下げる。

「別に、あなたにどう思われても構いませんわ」

「そうか……ってわ!」

 だが私がつい隠すことなく本音で返してしまえば少し苦笑いを浮かべてからまたくるりと踵を返した。

 そして、そのまま木の根っこに足を取られて転ぶ。

「だ、大丈夫ですか……!」

「ちゃんと前を見て歩かないからですよ」

 慌てて駆け寄る彼女に習って私も彼の横まで近付く

「頬っておいてくれ……」

 アベルはあまりにも恥ずかしいのかなかなか顔をあげようとしない。

 膝は上手いこと擦りむいているようでそれなりに痛そうである。

「あのっ、これ――」

「これ」

 そんなアベルにユーリたんはあるものを取り出して渡そうとするがそれを遮って私があるものを無理矢理アベルの手にねじ込む。

「……これは?」

「絆創膏です、貼ってあげたりはしませんのでご自分でお張りになってください……そしてこっちは」

 説明だけした後に手持ち無沙汰になったユーリたんの持っていた絆創膏に手を添える。

「ハイネさん?」

「今になってさっき転んだところが痛くなってきてしまって……自分で傷を見るのが怖いから貼っていただけないかしら……?」

 不思議そうに疑問符を浮かべるユーリたんに向かって私は困ったような笑顔でお願いする。

「それは、構いませんよ」

「ありがとうユーリさん!」

 ユーリたんは嫌な顔ひとつせずむしろ天使のような笑顔で許諾して私の手の擦り傷に絆創膏を貼ってくれる。

 そう、今日屋敷を出てくるときにポシェットに入れたキーアイテムとは絆創膏である。

 元々のゲーム内のシナリオであればユーリたんと出会ったアベルが帰るときに今のように躓いて擦り傷を作りユーリたんに絆創膏を張ってもらう、というものがある。

 そして私の予想ではこの行動をすればアベルは現れないだうと思っていたがそれでももし現れたときのために私も絆創膏を持ってきていたわけだ。

 それがこうして功をそうしたわけだが。

 まさかフラグを奪っても現れてその上スッ転ぶとは思っていなかったが。

「……」

「あらまだ何か?」

 なんとも言えない表情でこちらを見やるアベルに私は勝者の余裕で聞き返す。

「君は……いい性格しているね」

「それはどうも」

「次は僕が上手くやるさ」

「次があれば、ですがね」

 おそらく、いや絶対に次なんてない。

 そう私は断言出来る。

 何故なら彼はこの後城を抜け出したことがバレて城からそう簡単には抜け出せなくなるからだ。

 つまりは私の完封勝利である。

 王子ザマァ。

「絶対に次を作って見せるよ」

「楽しみにしてます」

 どうせ次なんてない、そう思いながら私はひらひらと手を振ってみせる。

「それじゃあユーリ、また今度」

 アベルは今日初めての笑顔で私ではなくユーリたんに手を振るとそのまま駆け出して帰っていった。

「呼び捨て……なんだったんでしょうねあの人」

 ユーリたんのことをユーリ、と呼び捨てにしたことは大変気に入らないがまぁ、相手はこの恋の争奪戦の敗者だ。

 それぐらいは許してやろう。

「さぁ……? でも、悪い人ではなさそうでしたね」

 ユーリたんはそう言ってくすくすと笑う。

「まぁ……それじゃあ私もそろそろ行くわ! またね」

 私はアベルの助言を思い出しながらそれ以上にこれ以上最推しを接種すると生死に関わると判断して早々に森の出口に向かいながらユーリたんに手を振る。

「ええまた!」

 そんな私に嬉しそうに大きく手を振り返してくれるユーリたんはやはり何よりも天使だった。

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― 新着の感想 ―
いや普通に来るなよ王族が一人で来るとか侍従のクビが物理的に飛ぶだろうが
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