55話 私は思っていたより幼馴染みの気持ちを知らな過ぎました
「ねぇセリム! ちょっとセリムってば!」
私は男子寮の入り口でやっとセリムを捕まえることに成功した。
あの後教室に戻って打ち上げに参加している間も、打ち上げの片付けの間も、その後もセリムはずっと私を避けているようで今も何も言わずに勝手にさっさと寮に帰っていこうとしていたところを何とか先回りして止めれた次第であった。
「……何ですかハイネ様?」
私を振り返ったセリムはあからさまに嫌な顔こそはしなかったけど多分、良い感情は抱いていない。
それでも私には聞かないといけないことがあった。
「やっと捕まえたわ……! ねぇセリム、何であなた断らなかったの?」
「何をですか?」
何のことかなんて分かってる筈なのに知らないふりをするセリムに軽く憤りを覚える。
「何をって、戦地に行くってやつよ、セリム、あなたが行く必要なんてないでしょ? しかも退学までして」
でもここで私が怒り出しても何も物事は進まない。
だからこそ私はあえていつもの調子で訴えた。
セリムは確かに騎士だけど、私付きの騎士であってわざわざ退学までして戦地に赴く理由はない。
そして何よりも、こうしてゲームとは全く違う環境で育ち優しい青年になったセリムにわざわざ手を血で汚しては欲しくないというのが私の隠された本音だった。
「……いや、行く必要ないってことはないと思いますよ、オレ一応公爵家に召し抱えてもらった身ですし、戦えますし」
セリムの言っていることは確かに一理ある。
「確かにそうだけど、セリムは私の――」
「まぁとりあえずこの話は終わりです、オレこの後用事あるんですみませんけど行きますね」
だけどセリムは私の騎士で幼馴染みだ。
私の近衛騎士として戦地で研鑽を積むにしたってララやアダムの言っていた通り卒業後でも何も遅くはない。
それに守ると言ってくれたのはセリム本人だ、それなのに、何で行きませんと言ってくれなかったのか、言いたいことは沢山、沢山あったのに
「え、ちょっとセリム!」
セリムは私の制止を振り切ってそのまま男子寮へと姿を消してしまった。
「行っちゃった……どうしよう」
「あれ、どうかしたかいハイネ」
私が困って固まっているとふとよく聞き覚えのある声が後ろから聞こえて振り返る。
「あアベル……」
「セリムと喧嘩でもした?」
不思議そうにそんなことを聞いてくるけど雰囲気的に多分すべての話を聞いていたわけではなさそうだった。
「いや、喧嘩ってわけでもないと思うんだけど……」
多分、これは喧嘩とは言わない。
お互いに思うところがあって、セリムは一方的にそれをぶつけ合うことを拒否している。
「まだ消灯まで時間はあるし私でよかったら話を聞くよ」
「えっと、でもそこまで何かあったわけじゃないから……」
アベルはいつもの笑顔でそんな提案をしてくれるけど別にそこまで大事になったわけではない。
セリムが戦地に行くと確定したわけでもないのに、私だけが騒いだってどうしようもない。
「ハイネは何を飲む?」
「話、聞いてた?」
だけどそんな私の言葉は無視してアベルは販売機のほうへとさっさと進んで行くと振り返って聞いてくるから少し呆れてそれだけ返す。
「そこまで何かあったわけじゃなくても、何かあったなら話してよ、私達は友人なんだから大きな何かがなくてもつらかったら話をしよう、多分話せば少しだけでも楽になるよ」
でも販売機のほうに向き直ったアベルは自分の飲み物を買いながら当たり前のようにそんな言葉を口にする。
本当に、アベルの性格はゲーム内とは大分変わってしまったと思っていたけどこういう友達思いなところは変わっていなかったことに少しだけ安心を覚えた。
「……それじゃあ、今回だけはお言葉に甘えようかな」
だから、今だけは恋敵という関係性は一度置いておいて友人という立場から相談することを選んだ。




