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54話 なんで断らないんですか?

「いやぁ、楽しんでいたところ悪いね」

 教室から暫く歩くとまだみんな打ち上げ中で人気のない昇降口前でアダムは立ち止まった。

 いつもの優しそうな笑顔が、今は少しだけ不穏だ。

「いえ、大丈夫です、ララ様だけでなくアダム様までいらっしゃるなんてそれ程の急用でしょうか?」

 内心焦る私とは違ってセリムは至って冷静で、勿論というようにララも普段と変わらない。

 きっと今、私だけがこの場で独り焦っている。

「いや急用という程ではないのだけどね、ララ、説明してあげてもらえるかな」

「はいお父様」

 アダムに促されたララは一歩前に出る。

「今、リューデスハイム家は北方の戦に兵を出しているのだがあまりそこの状況が芳しくない」

「……それをセリムに言ってどうするんですか?」

 リューデスハイム家は公爵家の中でも特に戦には力を注いでいる家で、だから家の兵士達が戦場に出るのは分かる、でも、セリムは私の騎士でそれには当たらない筈なのに、何でセリムにそんな話をするのかが、頭のなかでは理解できていても心では理解したくない自分がいた。 

「ハイネ、ちゃんと説明するからそう焦らないで聞いていなさい」

「……」

 珍しく甘くない声色で私を諭すララに私は何も言えなくなる。

 そしてララは視線をセリムに戻して続ける。

「そこでだ、元々セリムお前には学校を卒業後にいずれ戦場に出て研鑽をより積み重ねてからハイネの近衛騎士になってもらう予定だったのだがそれを少し早めようという話が上がったのだよ」

「それは、つまり……」

「そう、一年生で学校を退学して北方の戦地に赴いてほしい」

 退学、戦地、その言葉に私はヒュッと息を飲んだ。

 そして

「そ、んなっ……急すぎます!! いきなり戦地なんて、セリムの気持ちはどうするんですかっ?」

 気付いたら私は前のめりになって声を粗げていた。

 セリムの気持ちはって言ったけど、多分私の気持ちは、のほうが正しかったように思う。

「落ち着きなさいハイネ、別に無理やり連れていこうというわけじゃないよ、芳しくないといってもそれは早急に対応しなければいけない程のことではない、ただタイミングが丁度いいというだけの話さ、勿論セリムの意思を尊重する、で、セリム、君はどうしたいかな?」

「……セリム」

 熱くなる私をアダムは優しく諭すとセリムに意見を促す。

 私は不安になってセリムのほうを見たけど、その表情からは気持ちは読めなくて、セリムなら行かないでくれるって信じてる筈なのに何故か不安は募っていくばかりで、セリムの名前を呼んだ私の声はいつもよりも弱々しかった。

「……すみません、アベル様、ララ様、少しだけ、考えさせていただいてもいいですか?」

「セリム……?」

 そして、セリムは私が望まない言葉を口にする。

 いつもだったら、多分セリムはなんだって私の望むことに気付いてくれるから、戦地に行ってほしくないっていう私の気持ちにも気付いてはいるんだと思う、それでも、即答で断らない理由が彼のなかのどこかにあるんだ。

 そしてそれを私は分かってあげられていない。

 幼馴染みで、騎士で、ずっと守ってもらっているのに。

「ああ勿論、ゆっくり考えてもらって構わない」

「ありがとうございます」

 アダムの返答にセリムはお礼を伝えて頭を下げる。

「さぁ私達の話はこれで以上、邪魔して悪かったね、みんなの所に戻っていいよ」

 ハイネちゃんはまた家に帰ってきたらメイド服着てねー、なんていういつもだったら突っ込んでいるようなアダムの言葉も今は頭に全く残らない。

「はい、じゃあ戻りますかー、ハイネ様」

 そして話が終わるとセリムはいつもの口調でそう言って、そのまますたすたと歩き出してしまった。

「え、ちょっと、待ってよセリム!」

 いつもだったら私を置いてはいかないセリムの後ろ姿からは、何を考えているのかは読み取れなかった。

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