50話 悪役令嬢なのにクラスメイト達とも仲良くなってきています
かくして無事にアルミア祭での出し物はメイド喫茶に決まり、主だっては男子が料理担当、女子が裁縫担当で出し物の準備は進められていった。
「ハイネ! これで合ってる?」
「そうそう、流石に上手いわねユーリ、でももう少しきつめに結んでもいいかもしれないわ、途中で解れちゃったら困るでしょ?」
ハイネが言いながら私にかざした装飾用のリボンは綺麗な形に縫われていたが真ん中のリボンを止めるところだけは少し直したほうがいいかもしれない。
雑に扱う人もいるだろうし出来るだけ頑丈にしておくのがベストだ。
「そっか、ありがとー」
「なー、ハイネ様ー、これ味見してくんね?」
ユーリと入れ替わりに今度はセリムがひとつのカップを持って登場する。
「……んー、美味しいけどちょっと酸味が強いかも、抽出する温度を変えてみて」
私は一口飲むと改良するべき点を指摘する。
コーヒーの酸味が少し強い場合は大抵は抽出する温度か豆の挽きかたに問題がある。
「りょーかいです」
「……なぁ、なんで公爵令嬢様があんなに詳しいんだ?」
私達のやり取りを遠目に見ていた男子生徒は近くの女生徒に耳打ちで呟く。
確かあの二人は許嫁っていう関係だった筈。
そして残念だけど地獄耳だからこの喧騒の中でもその耳打ちはしっかりと私の耳にも届いていた。
「バカね、あのリューデスハイム家ですわよ、きっとそういう帝王学を幼少の頃から習ってらっしゃるんだわ」
「な、なるほど……!」
二人で合点がいっているところ悪いけど、本当に悪いけどごめん違うと名乗り出たい。
私は自分から進んで勉強はしていたけどあの父だ、そんな帝王学は習っていない。
裁縫は単純に前世の趣味だっただけだしコーヒーに関しても喫茶店巡りをよくしていただけのこと。
ちなみに裁縫は推し縫いに着せる服作りから、喫茶店巡りは聖地巡礼とコラボカフェ、ポップアップショップに行くために各地に遠征していたからである。
こんなところで役に立つなんて本当にユーリ様々だ。
「……私、行ってみるわ! は、ハイネさん!」
会話をしていた女生徒は何かを決心したように立ち上がるとずんずんと私に近付いてきて名前を呼んだ。
「あなたは、ミラさん、どうかされたのかしら?」
私はそんな女生徒の名前を呼び返す。
ユーリ以外に興味がないからといっても流石にクラスメイトの名前くらいは覚えている、何となくの関係性とかも、まぁ普段は避けられがちだからそれが活躍する機会なんて今までなかったわけだけど。
「……じ、実は、ここが分からないのだけど教えていただけないかしら?」
そう言って女生徒、ミラさんが差し出したのはメイド服のプリーツの部分だった。
「あー、ここは少し難しいのよ、こっちに持ってきて頂戴、一つ目は一緒に進めてみましょう」
私は言うが早いか荷物を置いていた椅子をひとつ適当に空けると座るように促す。
だけど
「あ、ありがとう……!」
「ハイネさん! わたくしも聞きたいことが……」
「あ、オレもオムライスの件で教えてほしいことがあります!」
「ずるいぞ! 俺もー!」
「あ、えっと……」
ミラさんがお礼を言いながら椅子に座ったのを皮切りに沢山のクラスメイト達が私の元へと押し寄せてくる。
確かにやることの殆どが上流家庭の人間からすれば初めてのことが多いのは事実だけど、こう一気に来られては私もパンクしてしまう。
元々そんなに人付き合い良いほうでもないのに。
「はいはい、落ち着いてー、ハイネ様は一人しかいませんから、オレでも分かることは教えてやるから上手い奴で手分けして、覚えた奴から教え合っていこうってことで」
だけどそんな時にいつも助けてくれるのはやっぱりセリムだった。
気付いたときには私の横に現れており群がっていたクラスメイト達に指示を出しててきぱきと捌いていく。
「そうね! ユーリさんここ出来てるみたいだから聞きに行ってみるわ! いきなり押し掛けてごめんなさいねハイネさん」
「……いえ、大丈夫よ! いつでも聞きに来て頂戴」
「……なんか、こういうの初めてっすねー」
そして最初に押し掛けてきたミラさんも捌ききるとセリムは入れ替わりに椅子に腰かけて周りを見渡す。
「そうねー、いつもは距離を置かれがちだから少し新鮮かも」
魔法祭の時は完全に私だけがやる気で周りは引いていたけど今は違う。
みんながみんなちゃんと自分の得意を活かしていきいきと準備を進めている。
こういう場にこうして溶け込めたのは多分、前世を含めても初めてのことだった。
「……オレは、ずっとこうあってほしいんですけどね」
「それはなかなか難しい話じゃない?」
セリムが少しだけ眩しそうに目を細めながらそんなことを言うから私は苦笑いしてそう返した。
多分、今回が少しだけ特別なだけでアルミア祭が終わればまた私は距離を取られる、そんな気がする。
私は別に性格も良くないし、身体は悪役令嬢なわけだし。
まぁそれでもユーリやセリムが居てくれるから寂しくはないんだけど……いや嘘、本当はこの状況が終わってしまうのは少しだけ、寂しい。
「そこは嘘でもそうねって言って欲しかったですわ、でも……」
セリムはそこまで言うと立ち上がって私の前に立って続けた。
「案外これから先はこんな感じでやってけるんじゃないんですか? 一度打ち解け合ったら早いですよ、子供なんて特に」
「……あなたも別に年齢変わらないじゃない」
そんな達観したようなセリムの物言いに私は呆れたように吐き出す。
人生二週目は私のほうなのにこれじゃあセリムのほうが人生二週目みたいだ。
「人間関係に関してはストリート時代に嫌というほど痛感してますから」
「生々しくてなんて言ったらいいか分からないわよそれ……」
だけどすぐにセリムがそう言った理由が分かって、その切り札を出されてしまえばこっちも苦笑いするしかなくなる。
「……ま、ハイネ様がクラスメイトとも仲良くやれそうでオレは嬉しいってことですよ、それじゃあオレはあっちで卵持って嘆いてるシグナ助けてきますわ」
「ええよろしく……ねぇセリム」
言うが早いか駆けていこうとするセリムを私は呼び止めた。
「はい?」
「いつも気にかけてくれてありがとね」
多分、一人だったらまた勝手にテンパって場の空気を乱して、全てを台無しにしていたかもしれない。
でもそれを止めてくれたのはセリムだ。
だから、私はお礼を言葉にしてしっかりと伝えた。
「……まぁ、オレは貴女の騎士なんで」
でもセリムはそれだけ呟くとすぐにくるりと踵を返してシグナのほうへ走っていってしまって、セリムがどういう表情をしていたのかまでは分からなかった。
だから、私は、この時に気付いてあげることが出来なかったことをこの先、後悔することになる。




