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49話 私は絶対にメイド喫茶をやりたいんです

 私はその日、クラスでのアルミア祭の出し物を決める話し合いのなか教卓の前を陣取っていた。

 理由は簡単。

「ということで、まだ私達のクラスの出店は決まってないでしょ? だからメイド喫茶をやりたいと思うのだけど」

 そう、私はこのアルミア祭で、どうしてもメイド喫茶をやりたいからだ。

 一年生アルミア祭イベントでは攻略キャラが誰だろうと劇かメイド喫茶の二択になり最終的には劇が選ばれてしまう。

 私はそれが、とても不服だった。

 だって推しのメイド姿とか、お給仕してくれるところとか、そんなもの、見たいに決まっている。

 それなのにゲームはそれを許してはくれない、だが今この場には私がいる、それなら私が頑張りさえすれば無理やりストーリーをねじ曲げることが出来るかもしれないのだ。

「メイド喫茶……? わたくし達がメイドになるってことかしら?」

「いや、あり得ないだろ、なんでわざわざ俺達が使用人にならないといけないんだ?」

 だけど反応はやっぱりというか何というか、ゲーム内と全く同じ意見が飛び交う。

 それも当たり前、このアルミア魔法学園はほとんどの人達が爵位や高貴な身分を持っている所謂上流家庭生まれの人物達だ、そんな人達からすればメイドは使用人以外の何者でもなくて、私の前世の世界とは訳が違う。

「私はせっかくなら劇をしてみたいわ、だって普段する機会なんてないじゃない――」

「そこのあなた!」

 私は意見を口にした一人の女生徒をびしりと指差す。

「わ、私ですか……? なんでしょう、ハイネ様……」

「待って、まずはそうね、ハイネでいいわ、同じクラスの同士なのだから」

 多分私よりも身分の低い彼女は様をつけるけど、同じクラスの仲間としてそんな敬称は必要ない。

 いつもだったらどっちでもいいけど、今必要なものは、結託だ。

 仲間は多いほうがいい。

「は、はぁ……」

「確かに、劇なんて普段はしないわね、でも、喫茶店もそう行く機会なんてないじゃない」

 私はこの日が来る前から何度もシュミレーションを積んできた。

 もちろんそれはメイド喫茶を押し通すために。

 ゲームでは無理なことでも私は、今までの下調べと下準備を信じている。

「それは、そうですけど……」

 そう、劇も普段はすることではない、だが、この階級の人達が果たして庶民的な喫茶店に足を運ぶのか、それは、否だ。

「朝、日差しを浴びながらカウベルを鳴らして入店するとマスターの挽いているコーヒーの芳ばしい香りが鼻腔を擽る」

「……」

 私が出来る限りの表現力でその情景を語れば女生徒は少しだけ表情を緩める。

 これはあと一押しだ。

「席について出てくるのは香り高いコーヒーとサクサクに焼かれたトースト、もしくは昔懐かしいプレーンのオムライス、そしてデザートには固めのプリンが出てくるの」

 私が語るそれは前世の喫茶店の記憶で、多分この世界の喫茶店とはそれなりに相違もあると思う。

 だけど、逆にそれがクラスメイト達の心を揺らす。

 この世代の子達は自分の知らないものに胸を踊らせる、そう相場が決まっている。

「それを私達がする側になるなんて、そうそう滅多に出来ることじゃないでしょう? むしろ考えてみて、学校を卒業したらそんな機会、あるかしら?」

 爵位や立場のあるお家の子供が多いということはそれだけ卒業後の未来が決められている人達も多いということ。

 つまりは大人になったら喫茶店には行けるかもしれなくても運営する側にはもう一生回れない、ということだ。

「待ってくださいよハイネ嬢」

「何かしら?」

 私の演説を聞いていた一人の男子生徒が挙手して私の名前を呼んだので私はそのまま話を促す。

「確かに喫茶店ってのは悪くないかもしれないですが、わざわざメイドになる必要は――」

「意中のあの子のかわいいフリフリのミニスカメイド服」

「っ……」

 私のたった一言で、男子生徒はゴクリと唾を飲み込んで固まる。

「見たくないなんて、言わないわよね?」

 どの世界でも変わらずこの世代の子達というのは異性に興味がある。

 許嫁のいる子も多いだろうし好きな子の一人や二人いるのも当たり前、そんな意中のあの子のミニスカメイドを見たくない男子なんて存在するのか、これも答えは否。

「でもそれだとわたくし達だけ平等じゃないわ!」

 そして、当たり前のように上がった抗議に対しても私は既に先手を打っていた。

「……誰も女子だけ着ようなんて言ってないわ、いつもはかっこよく制服を着こなしている殿方達のはしゃいだ姿、みたいと思わない?」

 そう、異性のはしゃいだ姿を見たがるのは決して男子に限られたことではない。

 実際に文化祭で女装コンテストを体験した人も前世の世界では多いはず、かくいう私の通っていた高校でもあった。

 そして、はしゃいだ姿を普段なかなか見る機会のない人がするとなればそれはもう大騒ぎだったはず。

「例えば、その人!」

 私はその勢いのままに一人の人物を指差す。

 この学校で一番の有名人であり、そういうはしゃいだ姿を見る機会もないその人。

「え、私かい?」

 そう、この国の第一王子であるアベル・ラインハルトその人だ。

「時期国王が学生時代に羽目を外したその姿、見るなら今しか多分タイミングはないわよ、それからいつもは無愛想な騎士様も、無駄に目立ってる騎士様も例外はなくメイドになるのよ」

 そして次にあげたのは地味に女子に人気があることがこの間のセントハルトデーで暴露した騎士二人。

「っ……ハイネ貴様っ……」

「えー、オレもっすかー?」

 そして憎々しげなシグナの声ものんきなセリムの声も無視して私は畳み掛けるように続ける。

「さぁ、考えてみて、劇をやるとなれば王道の作品に準えることになる、そこで見れるのはいつも通りの格好をして、いつも通りの日常を送る私達よ、一方メイド喫茶をやるとなれば見れるのほ非日常な一日になる、これでもメイド喫茶をやる利点はないと言えるかしら?」

 そして最後の質問は、最後の一押しとなった。

「……意外と、悪くないんじゃないかしら?」

「オレも着ることになるのは憚られるが、だとしてもまぁ、ありか……」

「服はどうしましょう? 家のメイド服を借りてきてもいいけどミニスカではないから――」

 そして私の手のひらから飛び立ったメイド喫茶店をやるという意見は私を通り越して既にみんなの話し合いに進み始める。

「すごいねー、ハイネ皆の気持ちをひとつに纏めてるよ」

「昔からこういう、言いくるめるみたいな時だけは無駄に頭が回るんすよね、うちのお嬢様は」

 やりきった。

 その達成感はユーリの賛辞も、セリムの余計な一言も、余裕で流してしまう程だった。

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