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47話 彼としてやっていく決意がついたみたいです

 会話を終えるとジークは一口お茶に口をつける。

 そしてそのままこちらの様子をチラリと伺った。

 多分、今私はけっこう酷い顔をしている自信があるからあまり見られたくはないんだけど。

「と、まぁ、散々嫌なことを話しましたが私は別に貴女に変に気を張って生きてほしいわけじゃないんです」

 だけどジークは逆に表情筋を緩めるとそんなことを言いながらコップを机に戻す。

「……じゃあ何の意図があってこんな話をするのかしら?」

 言い方にトゲが孕んだのは自分でも理解していた。

 そしてそれがいきなり沢山入ってきた情報の過多のせいでジーク自体が悪いことをしたわけでもないということも。

「……そうですね、私は別に口が上手い方ではないのでちゃんと伝わるか分かりませんが言うだけ言ってみることにします」

 ジークは考えるように顎に手を添えて一言ずつしっかりと選んで言葉にしていく。

 そして

「私はこれからの人生を、ジーク・エルメルダとして生きていく決意をしました」

 一瞬、真剣な表情を浮かべてそんなことを言いきった。

「ジークとして……?」

 私はついジークの言葉を復唱する。

 この人はジークに生まれ変わったことをあれ程までに毛嫌いして、あそこまでのことをしたのに、今のジークの瞳には悩みも迷いも写ってはいなくて、それが本心だということがよく理解できた。

「はい、以前は前世の自分に執着していましたし、何なら死にかけの身体で毎日つらい思いをしましたが、貴女達がそれを解決してくれた今、意外と気持ちは落ち着いていて、これからはちゃんと新しい自分と向き合えそうなんです、国から犯罪者として探されている事実は変わりませんし傷付けた子達には謝っても謝りきれませんが、少しだけでも贖罪していければとも思っています」

「それはまぁ、よかったんじゃないの?」

 自身の境遇を恨み、良いように利用された奴が少しずつでも前を向こうとしている、それ自体はきっと悪いことじゃなくて、いい気頼だと思った。

 多分ジークの暴挙の一番の被害者は私だと思うけど、それをずっと引きずられてずるずるされるよりも反省して、前を向いて進もうとしてくれるほうがこちらとしてもやりやすい。

「ええ、そして貴女が前世で何歳だったのかは知りませんし聞きません、ですが今の年齢で考えれば私の方が年上で、そして私は貴女達の通う学校の先生です、ですから」

「っ……」

 ジークは言いながら手を伸ばすと優しく私の頭にその手を置く。

 お父様とか、お姉さまとか、セリムにだったらされたことのあるそれも、全くの別人にされると相手があのジークだったとしても少しだけ心臓が跳ねた。

 でもこれは驚いただけで、ときめきではない、断じて違う。

 ローズクォーツの姫君の世界のなかでユーリの次に大分距離は離れているが好きだったのはジークだとか、顔が好きだったとか、そういうことは関係ない。

 私はユーリたん一筋なのに気持ちだけでも浮気なんてするわけない、絶対。

「まぁ、あまり独りで抱え込まずにいつだって頼ってください、同じ転生者として、先生として、ちゃんと役に立ちますよ、だから、どんな困難が目の前に立ちはだかっても気負いすぎず無理はしない、三年しかない学園生活です、学生としてしっかり学園生活を謳歌してください」

 そしてジークはそれらしいことを言いきると私の頭から手を離す。

「……その学園生活をぶっ潰そうとした張本人に言われたくないんだけど」

 一学期の大半をぶっ壊した張本人が学園生活を楽しめとかはっきり言って支離滅裂で

「……そ、それは、まぁ、そうなんですが」

 それを指摘するとあからさまにジークの顔色が悪くなる。

「……なんて、冗談よ冗談、結果としてユーリは無事だったから、今回だけは許してあげる」

 そんなジークが少しだけ面白くて、私は軽く吹き出しながらからかっていた事実を伝える。

 確かに怪我人も沢山出た、校舎も壊れたし、でも死人も後遺症の残った人もいなければユーリに被害も出ていない。

 それならもうこれ以上私が引きずることでもない。

 私は根に持つタイプだけど怒りは長引かないほう。

 まぁもしこれがゲーム同様の大きな事件に発展、例えば死人が出るとかユーリが拐われるとか、そういうことになっていればもっと違う未来が待っていた、だからジークが偶々持っていたなけなしの良心のお陰で今があるということを彼が知ることは一生ないだろうけど。

「そう、ですか……」

「私、次の長期休暇はみんなで遊園地に行きたいなって思ってるの」

 それでもまだ少しだけ浮かれない顔をしているジークにふと、私は話題を変える。

「遊園地、ですか?」

「ええ、だからそのときは、また引率お願いね、ジーク先生?」

 私は言いながら椅子から立ち上がるとジークの肩をポンポンと二回叩いた。

 つまりは海の時と同じことだ。

 王子、公爵令嬢、それからローズクォーツの姫、こんな面々のいるグループの引率を受けてくれる先生なんて早々いないのだからこれからもそういうのはジークに任せるのが多分、一番楽な方法。

 だって攻略キャラ補正もかかるしね。

「……私でよければいつでもお供しますよ」

 ジークはぷはっと軽く笑って空気を吐き出すとずれた眼鏡を指で押し上げた。

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