45話 転生者同士話しておかないといけないことがあります
「ジーク先生ー、ジーク・エルメルダ先生ー、いらっしゃいますか?」
私は伺いをたてながら返事を待つことはせずに魔法薬学準備室のドアを開いた。
「はい、いますよ、貴女から来るなんて何のようですかハイネさん、また何か押し付ける気ですか……?」
手元の本から視線をあげたジークはあからさまに嫌そうな顔をすることを隠そうともしない。
まぁ私もジークにどう思われようと気にしないからいいんだけど。
「いえ、今日は別に何か頼みごとがあるわけではない……っていうか別に何か押し付けたことないじゃない」
それにしてもまた何か押し付けるなんて言い方されると毎回毎回何か押し付けているみたいで心外だ。
「……海の件もうお忘れですか?」
「あなたこそ、私達に恩があるのを忘れたのかしら? あれはそれの恩返しだと思ってたけど」
そのじっとりした瞳に逆に私は明るく返す。
あれだけの事をしでかして、さらにはユーリに魔法欠乏症も治して貰った。
そう考えればあれくらいしてもらわないと困る。
むしろそれでもお釣りが出るくらいだと思うけど。
「……もうそういうことにしておいてください」
「素直でよろしい」
そして私にこれ以上何を言っても無駄だと悟ったジークはそれだけ言うと本から手を離した。
すぐに理解してくれる人は手間が省けてありがたい限りだ。
「……貴女、性格悪いって言われませんか?」
「それはもう、数えきれないほどに」
性格がひん曲がっている、懐に入れた人には甘いけど基本冷めてる、その他諸々、前世でも今世でも数えきれないほど言われてきた言葉達だ。
性格が悪いのは自分でもしっかりと理解している。
「で、わざわざここに来たということは何か話があるんじゃないんですか?」
ジークは言いながら立ち上がると近くにあったポットでお茶をいれ始める。
散々文句を言う割には毎回こうしてお茶を容れてくれるのだから律儀だと思う。
「ご名答、この間のセントハルトデーあったじゃない?」
そんなジークを傍目に私は適当な椅子に座ると件の一件を切り出した。
「……ああ、ありましたね、私とは無縁の話ですが」
「……」
特に気にした様子もなく呟くジークに逆に私が辛くなる。
だってゲーム内ではそのミステリアスな雰囲気も相まって学園で人気の先生で、チョコだって沢山貰ってたのに中身が変わってしまえばこんなことになってしまうのか。
見た目は同じなのに。
「……何か?」
「……いえまぁ、別に何でもないわ」
訝しげに口を開くジークにとりあえず適当に誤魔化しておく。
ジークはけっこう好きなキャラだっただけにジークの改変は刺さるものがあるけどそれを今、この人に言っても意味がない。
「そんなことよりも、あの日ユーリが言ったのよ、変な夢を見る、嫌な予感がするって」
こんなやり取りをしていても一向に話は進まない、そう気づいた私はとっとと本題に入ることにする。
「っ……それは……」
そして、私のその一言ですぐにジークの顔色は変わった。
「やっぱりあんたも分かるわよね」
変な夢、嫌な予感、これはゲームをプレイしたことのある人物なら誰しもがそれだけで気付く程に、大きなイベントのフラグとなっている台詞だ。
「でも、そんな筈ないんじゃないですか、一度は終わったイベントですよ、それに私はもう関与していない」
「……そうよね、あんたがまだユーリに執着する理由がないもの、それは分かってるから話してるの」
ジークは慌てて弁明するがそもそも私は今回の件にジークが関わっているとは思っていない。
史実に基づけばこのイベントの根元にはジークが絡んでくる、だがこの転生者ジークは既に自身の目的を果たしており、行動に移す理由がない。
そう、このフラグは
「……つまりは、またユーリさん誘拐イベントが発生しようとしている、それも私達の関与していないところで、そう言いたいということですか?」
ユーリ誘拐イベントが始まる前に本来なら起きる筈のフラグなのだ。
「本来発生する時期も鑑みたら、そういうことになるわね、少なくとも私はそう思ってる」
ゲーム内よりも早く発生し、そしてゲームと違う結末を迎えたそれ。
だけどまた、そのイベントは発生しようとしている。
今度は本来の時間軸のなかで、そして私達転生者でも分からないところから。
「……なるほど」
ジークは考えるように呟くと一口お茶に口をつけてからゆっくりとこちらに視線を向け、そして言った。
「ハイネさん、実は、私も貴女に話しておかないとと思っていたことがあるんです、タイミングもちょうど良い、少し私に時間を貰ってもいいですか?」




