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44話 推しからのチョコは嬉しいけど、同時に嫌なフラグも頂きました

「ユーリ! 今ちょっといいかしら?」

 私がセリムに聞いたとおり購買のところまで行くとキョロキョロと辺りを見渡しているユーリを見つけて駆け寄って声をかける。

「あ、ハイネ、よかった、私も探してたんだー」

「え、そうなの?」

 私を見止めたユーリが嬉しそうに笑ってそんなこと言うものだからもう少しで顔の筋肉が仕事を放棄するところだった。

「うん、ほら今日セントハルトデーだから、渡したいものあって」

 ユーリは言いながらごそごそとひとつの箱を取り出す。

 毎年可愛い包装はされているけど今年のは特段可愛い気がする。

 ハートの箱も相まって本命感が強まるけど少し前に友人宣言されたばかりだからぬか喜びはしないように心に誓った。

「私もユーリに渡したいものがあったの、最初に他の人のとこ回ってたからちょうど行き違ったのかしらね」

 私は言いながらチョコレートの入った箱を取り出す。

 お互い探していたのであれば行き違っていてもおかしくない。

 ちなみにこのチョコは勿論本命。

 他の人達の物と中身も梱包も違う。

 まさか箱の形のハートが被ったのは予定外だったけど。 

「ってことは今年も私が最後?」

「……まぁ、そうなるわね」

 渡す順番、さっきセリムに指摘されたばかりのそれをユーリにも指摘されて一気に顔に熱が溜まる。

 まさかユーリにまでそう思われていたなんて恥ずかしすぎる。

 まぁユーリのことだから私の意図には気付いてないと思うけど。

「実は、私も今年はハイネが最後なんだ」

「えっ……そうなの?」

 そんなに私って分かりやすいのかなんて悩んだのも一瞬で、ユーリの台詞に下に向けていた視線をぐっと食いぎみに上げた。

「うん」

「……そう、そうなのね」

 一瞬また勘違いしそうになったけどいつもと変わらないユーリの笑顔にすぐに我に返る。

 止めとけ私、また変な期待してダメージ受けたくないし、むしろ推しからチョコ貰えるだけありがたいことなんだから。

 最近欲張りになりすぎているのは本当に良くない傾向だと思う。

「今年は力作なんだよー、はいどうぞ」

「毎年ありがとう……」

 私は受け取ったチョコレートを胸に抱くと

「……じ、実は、今年は私も手作りしてみたんだけど」

 ユーリの受け取ってくれたチョコに視線をチラチラ向けながらしどろもどろになりながらその事実を伝える。 

「……そうなの? あ、だからキッチン使ってたんだ最近」

 チョコを作る練習の時に何度か何をしているのかユーリに聞かれたことはあったけど宣言するだけしておいて失敗したら目も当てられない。

 だからあえて本当のことは伝えずに今日まで濁してきた。

「……ララお姉さまにも手伝ってもらったしユーリみたいに上手くはいかなかったんだけど、こ、これでも一応頑張ってみたわけで……」

 ユーリにあげる分は一番上手く作れた筈だしララにだってああして手伝ってもらって、時間をかけて真剣に取り組んだ。

 でもユーリは昔からお菓子作りが得意でゲーム内のエンディングによってはパティシエになるルートもある、それを考えれば私のなかの頑張ったっていう自信は音を立てて萎んでいってしまう。

 セリムにも弱気になるなんて私らしくないって言われたのにユーリが関わった途端に私の中の自信は簡単に消失してしまうのだ。

「……」

「……ユーリ? あ、あの、嫌だったら別に食べなくても……」

 私のあげたチョコに視線を落としたまま黙り込んでしまったユーリに私は慌てて声をかける。

 やっぱり、手作りは重かったろうか。

 それともシグナみたいに中身に杞憂しているのか。

「あ、違うの、ただ、ハイネがそこまでしてくれたことが嬉しかっただけで……ありがとうハイネ、大切に食べるね」

 無理して食べる必要はない、そう伝えて返して貰おうと手を伸ばしたけどユーリはそれをヒラリと避けて嬉しそうにまた笑ってくれた。

 さっきよりもユーリが嬉しそうに見えたのは多分、気のせいか私の願望だと思う。

「……うん、私も大切にするわ」

「またそれー、毎年言うけどちゃんと食べてねー」

「勿論分かってるわ、ただの冗談よー」

 そして毎年恒例となりつつあるやり取りをする。

 初めてチョコを貰ったときは本気でどうすれば永久保存出来るか考えたりもしたけどそんな便利な魔法は存在するわけもなく、涙ながらにチョコを噛み締めたことを覚えている。

 私の奇行を知ったユーリに注意されてからはこれはただの言葉遊びのひとつになったわけだけど。

 さっきのせリムとのやり取りにデジャブを感じたのはこのせい。

 多分セリムのあれは冗談のひとつなんだろうけど。

 だって私からのチョコを保存しておく理由がセリムにはない、そんなにチョコに固着しているわけでもないし。

「……でもハイネ、気をつけてね」

「え……何が?」

 一人頭のなかで問答をしていればふと、ユーリがあまり聞きたくない台詞を口にした。

 さっきまでの高揚感はどこへやら私は素に戻ってユーリに聞き返す。

「最近なんだか嫌な予感がするの、私は別に予知系の魔法が使えるわけじゃないけど、変な夢も見るしいい気があんまりしない、だから気をつけて、何かあってからじゃ遅いから」

「嫌な、予感……」

 私はユーリの言葉をしっかりと反芻する。

 嫌な予感、変な夢、これは多分だけど確定であのイベントに入ろうとしている、それが私にはよく分かった。

「あ、本当にただ予感がするだけだから、あまり重く捉えないでね」

「そう、ね、そうするわ、ええ、忠告ありがとう」

 黙り込んでしまった私にユーリは慌ててそう付け加えたけど、そこまで一致してしまったのであればこれは、もう私の杞憂の一言では片付けられなかった。

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