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43話 またあげるからちゃんと食べてもらえますか?

 アニと別れた私は次の一人を探していた。

 ユーリはもちろん当たり前に最後だから今探しているのは必然的にセリムになる。

 え? ジーク・エルメルダ?

 あいつはまぁ、飛ばしていいと思う。

 別にお世話にもなってないし何ならこっちに渡すべき立場だろ。

 それだけ一学期には散々なことをしてくれたんだから。

「……それにしてもセリム、どこ行ったのかしら」

 他の三人とは違って私の騎士でもあるセリムとは一緒に行動をすることが多い、だけどたまに姿を眩ますとそれを見つけ出すのは困難に近い。

 今日も今日とて見つけることが出来ずについ口をついてそんな言葉が飛び出した瞬間だった。

「呼びましたか?」

「っ……あなたねぇ、急に現れるの止めて貰える? 心臓が止まるかと思ったわ」

 後ろからふいにセリムに声をかけられて、大きく心臓が跳ねた。

 私は振り返ると速攻で文句をつける。

 これが一度や二度目なら構わないけど既に何度心臓が止まりかけたことか、気配を消して案外近くにいる、これだけは本当に勘弁して欲しい。

「いやー、歩いてたらちょうど見かけて、オレの名前呼んでたみたいだったので何かご用かと」

 こんなだだっ広い学園内で私のことを何度たまたま見かければ気が済むのか小一時間ばかり問い詰めたいけどそんな時間もないし、何より適当に誤魔化される未来しか見えないので早々にそれは諦めることにして本題を切り出した。

「今日はセントハルトデーでしょ? だからあなたにもチョコレート渡そうと思って探してたのよ」

「あー、そういえばもうそんな日でしたね、どうりでよく声かけられるなとは思ってたんすけど」

「何? あなたも両手に抱えきれないくらいのチョコ貰ったの? みんなモテモテねー、本当に」

 セリムのよく声をかけられるという言葉を聞き逃さずに私は突っ込む。

 アベルもシグナもアニも、流石攻略対象だけあってモテモテだったけど、セリムは攻略キャラじゃないのにそれとかみんなモテすぎな気がする。

「いや、1個も貰ってないですけど」

「……え? なんで?」

 だけどセリムの次の一言で私は素で突っ込みを入れる。

 さっきよく声をかけられるとか言ってなかったっけ。

「いやなんでがなんでですか?」

「だって、あなた入学の時の実力テストでも魔法祭でも大活躍だったじゃない、アベルとシグナはたくさん貰ってたわよ」

 それにアベルとシグナ同様にセリムは入学してから活躍の場が多かったし、何より見た目だって別にカッコ悪くない、むしろどっちかと言えば見目は整っているほうだと思う、幼馴染み補正とか無しにしても。

 それなのに1個も貰えてないなんてそんなことあるのだろうか。

「あー、少し言い方悪かったですかね、渡そうとしてくれる子は結構いたんですけど、全部断ったんです」

「え、なんでよ?」

 私の純粋な疑問に対するセリムの答えはあまりにも理解不能で、つい聞き返してしまう。

 いやだって、学生の時とかチョコどれだけ貰った云々でカースト決まるみたいなところなかった?

 1個も貰えてない、もしくは母からのみ勢の悔しがりかたなんてすごいものだったけど。

「……オレは、貰っても何も返せないし、気持ちに答えることも出来ませんからね、それなら最初から貰わない方が双方傷付きませんよ」

 だけどそんな疑問に返ってきた答えはあまりにも現実的で

「……あなたたまに考え方がシビアよね、じゃあこれも無いほうがいい?」

 そこまで考えている人に簡単にチョコを渡すのも気が引けてしまい一応手元に取り出していたチョコの箱を軽く振って見せる。

 今までは私やユーリからも普通に貰っていたきがするけど、学校に入学して気持ちが変わったのかもしれない。

「そ、れは……チョコですか?」

 だけど、私の手元の箱を見たセリムはあからさまに動揺した様子を見せた。

「一応チョコ、一応手作りの……でも迷惑になるなら――」

「欲しいです」

 動揺するほどに、そんなに迷惑だったろうか、そう思いながら急いでしまおうとした箱をセリムは掴んで止める。

 そして一言、それだけ言った。

「……きっとみんなにも用意してるんでしょうけど、オレは欲しいです、ハイネ様の手作りチョコ」

「……でも今あなた」

「い、今言ったことはとりあえず忘れてください……! ちゃんと大切にするので、ください」

 断っている、そう言っていた、そう突っ込もうとしたけどセリムはすごい勢いでそれを無かったことにしようとする。

「いや、大切にされたら腐るわよ……またいくらでも作ってあげるから、ちゃんと食べるならあげてもいいけど……」

 ここまで欲しがってくれるなら全然あげるけど、大切に取っておかれたら確実に腐る。

 そしてものすごい、デジャブを感じた。

 それはさすがに頑張った私が可哀想すぎる気がする。

 それにお菓子はまぁ、そう簡単にはいかなくても料理ぐらいだったら余裕があれば作ってあげられるしちゃんと食べて欲しい。

「じゃあ大切に食べますから、いただけますか?」

「……元々あなたにって用意したものだからこれでいらないって言われても困るわよ」

 真剣な瞳でこちらを射貫くセリムに少しだけ身を固くしながらチョコの箱を渡した。

 こんな真剣な瞳は、本当にたまにしか見ることがないのでそれを向けられてしまうとどうしてもどきまぎしてしまう自分が未だにいる。

「……ありがとうございます、ちゃんとお返しはしますから」

「セリムにはいつもお世話になってるんだからお返しなんてなくても……」

「オレが、したいんです、ただそれだけで……ダメですか……?」

「…………それじゃあ楽しみに待ってるわ」

 私のあげた箱をしっかりと両手で掴んでそんなことを言うセリムに無理する必要はないと伝えたかったのに、セリムの勢いとその訴えかけるような瞳に勝てなくて最初に折れたのは私のほうだった。

「……はい!」

 そしてその返事を聞いたセリムは嬉しそうに頷いてみせる。

「あ、あの、ところでひとつ聞きたいんだけど……」

「ユーリならさっき購買のところで見かけましたけど」

「……よく分かったわね」

 何となく、気まずくなってしまった私が適当に話題を反らそうとすればその一手先をセリムが行く。

 ユーリを探しているとは言っていないのにそこまで察されると少し怖いくらいなんだけど。

「だってユーリにも渡すんじゃないんですか? 毎年アベルから始まってユーリが最後じゃないっすか」

「それも、そうね、じゃあ行ってくるわ! また明日」

 言われれば確かにその通り、何かにつけてルーティーンを決めてしまう癖は前世の時から直らないけど、それでもやっぱり私の思考を真っ先に当ててしまうセリムはすごいと思う。

 私は挨拶だけ終えるとくるりと踵を返して購買のほうへ足を向けた。

「……はい、また明日」

 後ろでそう言ったセリムの表情までは、私には、分からなかった。

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