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42話 まぁ、この人は変わりませんよね

「あれ、オバサンじゃん、こんなところで何してるの?」

「あら、アニ、そういうアニこそそんなところで何してたの?」

 三人目、アニを見つけるのもそう難しいことではなかった。

 というのも元のゲーム内と同じ挙動をしていたからだった、アニは人気の少ない旧校舎の階段の影にその小さい身体をさらに小さくして隠れていた。

「えー、ボク? そうだねー、隠れてたって感じかな」

「隠れてた……」

 アニの隠れていたという台詞を復唱しながら内心安心する。

 ここまでは元のゲームと全く変わらない進行だ。

「ほら、今日はセントハルトデーでしょ? 毎年困るんだよねー、この季節、みんなボクにチョコレートあげたがるからねー、ボクそんなに甘いもの得意じゃないし何より、何が入ってるか分からないし」

 そう、アニはこんなきゅるんきゅるんな見た目をしておきながら甘いものは得意としない、それなのに貰ったものはしっかりと食べる派で、だからこそこの日は極力人に会うのを避けようとする。

 それにアニのファンクラブの人達の中には恐怖の思考回路をしている人間も多数いるし、確か特典冊子に乗っていたアニのトラウマは一年の時に貰った髪の毛入りのチョコレートだ。

 まぁ本人の行動のせいでもあるけど御愁傷様としか言いようがない。

「……まぁ、大変そうなことね、とりあえずはほらこれ」

「……これは、チョコ?」

「まぁ、一応前期は色々お世話になったからそのお返しってことで、ちゃんとビター系にしてあるからあなたでも食べやすいわよ、多分」

 だからこそ、アニに用意したのは甘くないビターチョコ。

 ビターなら食べやすいだろうしまさか私が何か異物を混入させている可能性なんてアニだって考えないだろう。

「……ボク君に食の好み言った覚えがないんだけど」

「あー、何となく? 察したっていうかなんていうか、まぁそんなところよ、あんまり気にしないでー」

 そういえば私もアニに食の好みを聞いた覚えは一切ない。

 実際特典冊子を読んでいるから知ってるだけだし。

「やっぱり君怪しいね、この人生何周目なわけー?」

「もちろん、一週目ですけどね」

 ニヤニヤといたずらっ子みたいな笑顔で聞いてくるアニを私は軽く流す。

 人生としては二週目だしゲームのクリア回数は数えきれないほど、だけどこのハイネとしての人生は一週目なので嘘は吐いていない。

 これはアニの聞き方が悪かった、残念。

「……まぁ、とりあえずはありがたく頂いておくよ、で、お返しは何が欲しいのかな?」

「別にお返し云々考えてなかったから無くても良いわよ、これお礼だし」

 私からのチョコを受け取ったアニは当たり前のようにそんなことを聞いてくるけどこれはまぁ、魔法祭の時のお礼みたいなものだから元々お返しのことなんて考えてすらいなかった。

「ボクがレディに貰うだけ貰って返さないような矮小な男に見えるかな」

「レディって……こういうときはオバサンって言わないの?」

 アニはいつだって私のことはオバサン呼びなのに急にレディなんて言われてもはっきり言って引く。

 これがファンクラブの子達なら黄色い歓声とか上がるんだろうけど残念なことに相手は私で、あげるとしたら悲鳴とかそういうものになってしまう。

「だってこの後振らないといけないのにこれ以上傷つけるのはさすがに可哀想だからね」

「……間違いのないように言っておくけど、断じて、絶対に、本命ではないから」

 やれやれといった様子で首を横に振るアニに、一応、一応しっかりと釘は刺しておく。

 冗談だって分かっていてもそんな万に一つもあり得ないことを言うのは止めてほしい。

「冗談だって、圧すごいから止めた方がいいよそれ、一応公爵令嬢なわけだしー」

 言いながら一歩詰めた私にアニは気にした様子すら見せずにいつもの笑顔で注意してくるけど

「じゃあそういうことを私にさせないように努めてもらえるかしら?」

 そういう行動をさせたのはアニ本人なわけで。

「えー、約束は出来ないかなー、ボクって茶目っ気あるからー」

 だけど当の本人はえへへ、なんて作り笑いしながらぶりっ子みたいなポーズを決めるだけだった。

 いや、茶目っ気で済んでなかったけどね、あんたのルート。

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