41話 いつでもどこでも断れないヘタレは直ってない様子です
次の相手を探し出すのは存外簡単だった。
「シグナー、一回その鍛練やめて貰ってもいい?」
一人体育館で剣の稽古をしているシグナに少し大きめの声で呼び掛ける。
シグナは集中しているときはあまり人の声が届かない。
「……なんだハイネか、お前まで一体なんのようだ」
律儀に鍛練を止めてこちらを向いたシグナの眉間には既に深いシワが刻まれていた。
「なんだとは何よなんだとは、っていうか私までってどういうこと?」
最近少しだけ、多分お互いのことを理解しあったけどだからといって特段大きく何かが変わったわけではない。
だがこんな出会って早々嫌な顔をされたのは少しだけ久しぶりかもしれない。
「どうもこうもないだろう、そこを見れば分かることだ」
「……あれなんの山?」
シグナが顎をしゃくったほう、体育館の隅に視線を向ければさっきも見たようなカラフルな梱包紙の山が目に移る。
「多分だがチョコレートだろう、セントハルトデーだからな、私に渡すなんて数奇な奴らだとは思うがな」
「これ、断らなかったの?」
心底意味が分からない、というように言いながらタオルで汗を拭うシグナにとあることを聞いてみる。
ゲーム本編内のシグナはアベル同様にすべてのチョコを断っている。
自身はユーリの騎士だから必要ないとそれはもうすっぱりと、なのに貰っている辺りこいつも多分性格の改編のせいであろうってことは察しがついたけど一応理由は知っておきたい。
「……断れるわけがない、せっかく用意してくれたのに気持ちを無碍には出来ない」
あまりにも出来すぎたようなカッコいい台詞だったけど、それなりに付き合いの長い私にはその裏に隠れた断る勇気がありませんでしたっていう台詞までしっかり聞き取れて、相変わらずのヘタレ度を実感しただけだった。
「……あっそう、じゃあその一番上にこれも追加しとくから」
内心面倒くさくなってきた私は言うが早いか取り出したチョコの箱を山積みのその一番上に乗せておく。
「……なんだそれは」
「私の手作りチョコレート、適当に食べて」
「手作り……? それは、食べても死なないか?」
「……こう見えて料理は得意だったんだから、お菓子は少し苦戦したけど」
シグナの台詞に今度は私の額にシワがよる番だった。
確かに何度も失敗をした上にララに手伝ってもらったけど、別に料理下手キャラではやってない。
元々のハイネは、まぁ公爵令嬢だったから確か料理とか全般は出来なかった筈だけど。
「……冗談だ、毎年律儀だな、これでも感謝はしている、一応な」
だけどシグナはそんな私の反応を見ると少しだけ表情を緩めてそんなことを言ってくる。
多分これはからかわれた、シグナのわりにはやるほうだけど、悔しいからそれは教えないでおこう。
「一応ね、一応、じゃあお返しは3倍返しで」
「強欲にも程があるだろう、というかなんで3倍って数字が出てくる……っておい! まだ話しているとちゅ――」
私は前世では定番だった数字を適当に言うとシグナの返事をガン無視してそのまま体育館を出て扉を閉めた。
あまりシグナにだけ時間を使っていては間に合わなくなってしまうから。




