40話 なんでこの人こんなにチョコ貰ってるんですか?
そしてきたるセントハルトデー当日。
私はあえて朝出会って早々に渡すことは避け、放課後が来るのを待った。
私は探していた一人目を廊下で見つけて声をかけた。
「あ、いたいたアベル……ってあなた何それ……」
声をかけたは良いもののその人が押しているそれを見て言葉を失う。
だって校内で台車押してる王子とか見たことないし、ちなみに台車の中身は山盛りの梱包された箱や袋。
「やぁハイネ、これかい? 今日はセントハルトデーだからって皆がくれたんだけど持ちきれなくてね」
「その台車の中全部チョコってこと……?」
アイドルとかタレントが学生時代に台車に入りきらない程のチョコをもらった、なんて話はバラエティー番組で何度か見たことがあるけどまさかそれを実際に目にすることになるとは思わなかった。
だけど確か、ローズクォーツの姫君のゲームのなかではユーリ以外からは貰えないとかなんとかって全てのチョコレートを断っていたと思うんだけど。
「そういうことになるね、好意を貰えるのは嬉しいけど食べきるのは少し大変そうかな」
「……ああ、なるほど」
そう言って台車の中の色とりどりの箱や袋に嬉しそうに触れるアベルを見て、ここにも性格改変の影響が出ていることを知った。
「どうかしたかい?」
「いや、何でもないわ、まぁそれじゃ」
私の独り言に不思議そうに聞き返してくるアベルを適当にあしらうとそのまま踵を返してその場を去ろうとする。
「あれ、私に用があったんじゃないのかな」
「あると言えばあったんだけど、まぁ必要ないかなって感じね」
呼び止められたけど、確かに用事はあった、さっきまでは。
毎年何だかんだでアベルやシグナ、セリムにもチョコを送っているのでその癖でチョコを今年も用意したけどこれだけあったらもう充分だろう。
「そっか、それは残念だな、ハイネの手作りチョコレート食べてみたかったんだけどね」
「……あんたは何でそれを知ってるのよ」
耳を疑う台詞に私はついアベルのほうを振り返る。
「噂になってたよ、どこかの公爵令嬢が共用キッチンで躍起になってお菓子を作ってるって、そういうことをする人に一人だけ心当たりがあったからね」
後半バカにされているような気がしないでもないけど多分この王子はそこまで考えているわけではないだろう。
それにしても相変わらずの情報通で少しだけ怖くなるくらいだ。
「まぁどっちにしろそれだけあるならいらないんじゃないの?」
私とアベルは別にただの昔からの友達で、私からしてもアベルからしても恋敵、こんなにあるならわざわざ私のチョコなんて必要ないだろう。
私一人からしか貰えない可哀想勢ってわけでもないんだから。
「いや、私は毎年ハイネがくれる友チョコ楽しみにしてたし、今年も楽しみにしていたよ」
だけどアベルはそんな歯の浮くような台詞を躊躇うことなく囁くから
「……そこまで言うならあげるわよほら」
なんか色々気にしていた私がバカみたいで、取り出した一つのラッピングされた小箱をアベルのほうへ差し出す。
「ありがとう、大切に食べるよ、お返しは期待しててくれ」
「その量の全員に返したら破産するわよ」
受け取りながらそんなことを言うアベルに軽く呆れて一応忠告だけしておく。
この台車一杯のチョコ全てにお返しなんてしたら少なからず前世の私だったら破産しそうなものである、しかもこちとら学生だし。
「その点は問題ない、私はこう見えてちゃんとお小遣いは貯めておくタイプだからね」
私の忠告に何の危惧もせずにそう返してくるアベルを見て思い出した。
貯めておくタイプも何もこの人王子だから元々金持ちだということを。
多分これ以上の心配はこいつには必要ない、そう合点すると次の相手を探しに行くことにした。




