35話 2学期が始まって早々に困ったのは意外な人物でした
「なーんか、長期休暇の後ってやる気でないのよねー」
ホームルーム後早々に私は机に両手を預けてだらけた声をあげる。
朝イチではしゃいでいた割にいざいつもの机に座って先生の長い話を聞いていたらすぐにいつもの自分に戻っていた。
何というか、この経験したことある。
多分前世で学生の時に。
「そんなこと言っても二学期始まったことに代わりないんでしゃきっとしてもらえますか?」
「あなたにだけは言われたくないんだけど……」
そんな私に活を入れるようにセリムはボヤくけどホームルームが始まる前からだらけきっていた奴にだけは本当に言われたくない。
そもそも1学期から授業なんて上の空だったし。
それなのに成績は中より上、本当に羨ましい限り。
「舐めてられるの今のうちだけですからねー、二学期のオレは一味違うんで」
「そういうことを言ってる奴は大体変わらないだろ」
からからと笑いながらそんなことを言うセリムに珍しくシグナから絡んでいく。
「あれー、シグナもしかしてケンカ売ってるか? 買うぜそれ」
シグナの言葉をセリムも珍しく感じたようで、ニヤニヤしながらシグナの肩を小突く。
「もー、みんなやめなよー、もうすぐ授業始まるよー」
「って言ってる君もずいぶんポヤポヤしてるみたいだけどね、そんなところも愛らしいけど」
あ、なんとなく思い出してきたこの感じ。
バカをするセリム、弄られるシグナ、それを笑って見ている天使なユーリとそんなユーリに絡んでいくバカ王子。
「ユーリが授業始まるって言ってんだからとっとと席に着きなさいよそこのバカ王子」
そしてそんなアベルに軽くキレる私。
そうそう、大体毎日こんな感じだったはず。
「ハイネ様ー、もう少し隠してー、ここ学校ですから」
だけど久しぶりなせいで少し言葉が強すぎたのかしっかりとセリムから注意を受けた。
「あら、最初にケンカ売ってきたのは向こうじゃないの」
確かに他の生徒のいる場所で王子をバカ呼ばわりするのはダメだったかもしれない。
でも最初にケンカを売ってきたのはアベルのほう、これは仕方ない。
「私は別にケンカは売ってないけどね」
一方アベルは私の物言いを気にした様子も見せずにそう言っていつも通りの笑顔を浮かべていた。
「私が売られたと判断した時点でそれは売られてるのよ」
スマートさで余計に負けた気がして悔しいけど、前世含めて売られたケンカを買わなかったことは一度もない。
勿論私が売られた、と判断したケンカ全てのことだけど。
「……横暴さに拍車がかかってるな、夏休みに甘やかし過ぎたんじゃないかセリム」
「いや、それオレに言われても、別に保護者ってわけじゃないから」
信じられないという感情を隠そうともせずにシグナはセリムの名前を呼んだけど呼ばれたほうはほうで困り笑いを浮かべるしかなかったようだった。
「いや似たようなものだろう」
「それよりみんなは学期テストの準備は大丈夫なの?」
「え、あれ失くなったんじゃなかったの?」
セリムは幼馴染みだけど別に保護者ってわけじゃない、私の威厳に関わる事柄だったので流石に突っ込みたかったけど、ユーリの一言で私はころっと話題を変えた。
私の威厳よりユーリの言葉のほうが格段に優先度が高い。
アルミア魔法学園の学期テストは1学期の終わりと2学期の終わりにあるけれど、スターダストインパクト事件のせいでなあなあになったはず。
「延期って、先生言ってたじゃないっすか、テスト大丈夫ですかハイネ様……」
「んー、まぁ、長期休みは大分遊びに使っちゃったけど、机の上でするテストくらいなんの問題もないわね」
セリムが覚えてるってことは多分言ってたんだと思うけどあの頃はユーリに嫌われたんじゃないかとか、私の気持ちがやっと通じたんだとか、他に考えないといけないことが多すぎてそんな話全く頭に残っていなかった。
まぁそもそもゲームの記憶を持ってるし、武器になるからと一応幼少から勉学に励んでいた私からすれば実技じゃなくてペーパーテストくらいなら長期休みの間勉強サボってても全く問題はないからいいんだけど。
ちなみになんの問題もないという台詞は前世のテスト期間に使ったことは一度だってなかったけど。
「ハイネは意外と頭はいいからね」
「今のは、ケンカ売ってるって判断でいいかしら?」
アベルが意外と、という言葉を多分、わざとじゃないんだろうけど使ったことでまた私のなかの闘志が燃え上がる。
言動とか行動とか鑑みたら確かに端から見ればバカっぽく写るかもしれないけど、これでも入学試験はアベルに次ぐ二位の座に座っていたのだ舐めないでもらいたい。
あんなに頑張ったのにアベルに勝てなかったのは今でも悔しいけど。
「やめようって二人ともー」
「……そうね、こんな不毛な戦いしても意味ないわね、ユーリは大丈夫なの?」
そしてまた、ユーリの一言で私は即効でこのケンカにケリを付ける。
まぁ怒ってたの多分私だけなんだけど。
そもそも一位と二位が争ってたって多分誰も救われない。
そしてそんなことよりももしかしたらまたユーリに勉強を教える機会を手に入れられる可能性に気付いて軽く心が踊る。
「うん! ハイネに教えてもらったところから紐解いてちゃんと休み中に勉強したから完璧だよ」
「そう、それはよかったわ……」
だけど帰ってきた返事は私の望むものとは真逆のものだった。
いや、嬉しい、確かにテストに困らないならそれに越したことはない、ないけど、本当はもっと一緒に勉強したかった。
そうだった、ユーリたんって基本努力家の上に天才肌だから少しとっかかりさえ分かってしまえばあとは自分でどうにか出来るんだった。
なんか、こう、もっと回りくどく教えるべきだったかな、いや、でもそれも良くない気はちゃんとする。
「あんま嬉しそうじゃないですけどね、っていうか一人完全に沈黙してるけど大丈夫かー?」
「……」
「シグナは別に大丈夫でしょ」
「……は?」
「何よ……」
セリムがふと、何の気なしにシグナに話題を振ったから私がそう言って笑えば正気を疑われるような目を向けられる。
いや、だってゲームの中のシグナは勉強もそれなりに出来る設定だったし、いつもテストの順位は中間くらいに安定してランキングしてた筈だけど。
「それ本気で言ってるんですかハイネ様……こいつの入試筆記テストの結果覚えてないんですか?」
「……いや、えーっと、人の成績にはあまり興味なくて」
セリムの言葉に私は斜め上に視線を泳がせながら笑って見せる。
「人のっていうよりはシグナのって感じがしますけどね」
「……ま、まあ、そこはいいじゃないの、で、どれくらいだったわけ?」
最近セリムの突っ込みに嫌に切れがあるような気がするけど、これってもしかしなくても私のせいだったりするのだろうか。
「……」
「……言いたかったら言えばいい、別に隠してない」
セリムが確認するようにシグナのほうへ顔を向ければ張本人は気にした様子もなくそう言い放つ。
「下から数えたほうが早いくらい、圧倒的に」
「……なんで、そんな悲惨なことになってるのよ」
セリムの呆れた声に私は軽く頭を抱える。
え、待って、何でそんなにゲームと差が出ちゃってるのよこの騎士は。
「私はお嬢様の騎士だ、勉強する時間を作るくらいなら剣の稽古にあてる」
多分、いやおそらくきっとこれシグナの学力が下がったのも私のせいだと思う。
幼少期にあんな扱いしたり発破かけたり、そのせいでただの剣術バカに成り果ててしまったなんて、さすがの私でも少し罪悪感覚えるんですけど。
「……それで赤点とって留年したらどうするのあんた」
私は軽い罪悪感に蝕まれながら一番大切な部分に手をかけた。
ゲーム内でシグナは留年なんてしないわけで、留年されればまた特異点が発生してしまう。
「え、シグナ一緒に学年上がれないの……?」
そして、ユーリの悲しそうな一言が、私の心に火をつけた。
「っ……いや、それは……」
「は、ハイネ様……?」
急に立ち上がった私にセリムは驚いた様子で名前を呼んだ。
「仕方ないわねー、やるわよ」
「……な、何をだ?」
「決まってるでしょ、シグナ、あなたのテスト勉強よ」
そして私はシグナの肩に手を置いて、これから始まる勉強漬けの日々という死刑宣告を下した。




