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幕間 2トラック目 何も事件は起きないけれど、この日を私は忘れない

「あー、帰りたくないなぁ……ほんと」

 私は傾いてきた太陽をぼんやりと見上げながら一人ごちる。

 この世界はローズクォーツの姫君というゲームの世界。

 ゲームの世界なのだから何かイベントがあればそこにはトラブルもついてくるのが主だけど、このイベントは特典のドラマCDの内容で、乙女ゲームの特典のドラマCDというのは意外とこういう落ち着いたものも多い。

 見てる側からすれば何も問題は起きず、ただ彼らの日常を切り抜いただけ、まぁそういうものを覗き見るのが意外と楽しかったりするんだけど。

 パラソルを片付けながら談笑しているララとジーク。

 いつの間にやら仲良くなったお姉さん達と連絡先の交換をしているアニ。

 そして砂のお城を完成させようとしているユーリとそれを楽しそうに眺めているアベル。

 みんなそれぞれが今日の終わりをしっかりと受け止めているのに、私はまだ、少しだけ受け入れきれていないというのが事実なわけで。

 スイカ割りもしたしビーチフラッグもした、みんなで焼きそばも食べて、飛び入り参加したビーチバレーでは無事優勝をもぎ取ったり、ドラマCDを聞くだけでは補完できないみんなの楽しそうな顔が、目に焼き付いて離れない。

「また来たらいいじゃないっすか」

「セリム……」

 いつもならずけずけと入っていけるタイプのキャラなんだけど、少しだけ昔のことを思い出したりなんかして、どの輪のなかにも入っていけなくて、少し離れたところからみんなを眺めていたのに気付いたらセリムが隣にいて、私の杞憂なんてお見通しというように軽い口調で声をかけてくる。

 なんだろう、いつもこういう時に一番に気付いてくれるのはいつだってセリムな気がする。

「来年でも再来年でもまた来たらいいんですよ、別にこれが今生の終わりってわけでもないんですし」

「まぁ、そうなんだけど……」

 セリムの言っていることは正しい。

 この世界は確かにゲームの世界で、でも私達は生きている。

 だからまた来ようと思えばいつでも来れるのに、なんていうか、前世の自分があまりにも呆気なく死んだせいなのかたまに次がないかもしれないなんて弱気になってしまうことがある。

 あのまま生きていれば次の日には普通に友達と遊ぶ約束だってしてたのに、それを迎えることはなかったから。

 楽しめば楽しむほどに、少しだけ自分のなかに言い様のない恐怖がわき出てくるのもまた事実。

「ハイネ様って意外とそういうとこありますよね」

「そういうとこって何よ」

 呆れたように吐き出すセリムに少しムッとして返事をする。

「情緒があるっていうか、風情があるっていうか、こういうことの後っていつも人一倍感慨に耽ってるっていうか」

 セリムは私の視線を追って一緒に夕焼けを眺めて、それから一言一言選びながら言葉を繋ぐ。

「……ダメなの?」

 ダメなのなんて口にはしたけど実際のところはセリムの口調から何を伝えようとしているのかは理解していた。

「ダメなんて言ってないじゃないですか、良いと思いますよオレはそういうとこ」

「……そっか」

 そしてそれをセリムも気付いていて、それでもわざわざこうしてちゃんと言葉にしてくれるから、それだけで私は少しだけ安心することが出来る。

「そ、だからこれからもずっと、そのままでいてくださいね」

「……うん」

「さて! 分かってもらえたなら片付け手伝ってくれますか? あの二人に任せてたら多分一生終わりませんよ」

 少しだけしっとりした雰囲気をセリムは早々に砕くとビーチパラソルのほうを指差して見せる。

「……それもそうね」

 それを追って視線を向けてみれば何か盛り上がった様子でジークとララは会話していて、片付けは一向に進んでいる様子はなかった。

「ねぇセリム」

 私は立ち上がるとお尻についた砂を払いながら一足先に二人のほうへ向かおうとしていたセリムの名前を呼んだ。

「なんですか?」

 セリムはわざわざしっかりと立ち止まって、こちらに顔を向けて聞き返してくる。

「……また、必ず来ましょうね」

「それはオレだけじゃなくてみんなに言ってくださいよ、帰り道の馬車の中ででも」

「……うん、そうする! ねぇユーリー、私も混ぜてー」

「ハイネ様ー、片付けはー?」

 セリムのおかげですっかりいつもの調子に戻った私は呼び止めるセリムを無視して砂のお城の完成に向けて励んでいるユーリのほうへ駆け出した。

 そもそもアベルがユーリを一人占めしているのは許せなかったし、これくらいがきっといつもの私なんだと思うから。

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