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1トラック目 お休みの日にはみんなで海にでもいきましょうか

「夏休み、と言ったら……海でバカンス! これが定番でしょー!」

 太陽の日差しにかざされながら私は大きく背伸びをする。

 照りつける太陽は社畜時代は嫌いだったけど新しい生を生きる今は意外と好きに思えてくるから若さってのは大事だと実感する。

 ダンスパーティーも無事に終幕を迎えた私達は長期休暇、いわゆる現世で言うところの夏休みに突入していた。 

「ハイネ様、はしゃぐのは結構ですけどあんまはしゃぎすぎて怪我しないでくださいね、何かあって後でどやされるのオレですから」

「分かってるってー」

 いつものようにセリムに注意されながら、返した返事は自分でも分かるくらいに浮かれきったものだった。


「ハイネー、お待たせ、少し着替えに時間がかかっちゃって」

「わぁ……すごい似合ってるわ! やっぱり私の見立ては間違いないわね!」

 私より少しだけ遅く更衣室から出てきたユーリの水着姿はまさしく女神そのものだった。

 このイベントは店舗別特典CDに収録されていた通称バカンスイベント。

 CDの中では攻略対象達が誰が一番ユーリに似合う水着を選べるかという論争に発展していたけれど今この場には私がいた。

 ということで転生者の特権というか同じ女子の特権というか、まぁ何でもいいけどそれらをフルに使わせてもらってこうしてお互いに水着の選びあいっこをしようという展開に持ち込ませていただいたわけだが。

 フリルをあしらわれたオフショルダータイプの水着、そしてユーリのイメージカラーと同系色の薄桃色に統一されたそれは本当に、よく似合っていた。

 ドラマCDという媒体だったせいで見ることが出来なかった推しの水着姿、ちゃんと目に焼き付けておかなければ。 

「でもハイネもよく似合ってるよー」

「ありがとう!!」

 ユーリが私に選んでくれたのは王道なビキニタイプの水着に腰にはパレオを巻くスタイル、選んで貰ったときには服のセンスまで持ち揃えているのかと感心し、同時に推しに選んで貰ったという事実に感動に打ちひしがれた。

「お嬢様方、あっちでパラソル立て終わってるから荷物は纏めておこうか」

 きゃっきゃとはしゃぐ私達をアベルはいつの間にやら設置を完了していたパラソルのほうへ呼び寄せる。

 本当にこの王子は年を取るごとに完璧超人になっていくけど、一体何を目指してるんだろうか。

「……荷物の番は私がするから好きにしたらいい」

「あ、いや、自分がやりますよ、一応引率なんで……」

 一応、水着は着ているものの物騒な剣は相変わらず常備しているシグナが荷物番を申し出るけどそんなシグナに気を遣ってジークが声をかけたけど

「あれー、ジーク先生? 焼きそばとジュースはまだですかぁ?」

 この間のことを軽くちらつかせながら私はジークに圧をかけておく。

 ここでシグナが荷物番をしてくれていればそれだけ私がユーリと話をする機会が増えるのに、何を邪魔しようとしてくれてるんだ。

 それにあんな行列の出来た海の家に並ぶのははっきり言ってダルいし。

「……今買ってきますね、すみませんがシグナくん、荷物はお願いします」

 私に肩を叩かれたジークは飛び上がりそうになりながらシグナに謝ってそのまま海の家にかけていった。

 魔力欠乏症もすっかり完治したジークの顔色は日に日に良くなってきていると思う。

 今回の引率に関しては、もちろんそのことを笠に着てほぼ無理やり承諾させたようなものだけど。

「……ねぇ、君のところのお嬢様拍車かかってない? もちろん悪い意味で」

 誘ってない筈なのに何故かついてきているアニは隠すこともせずに呆れた様子でセリムに問いかける。

「ジーク先生に引率させたのもほとんど脅しみたいなもんだったしなぁ、ここが学校からそれなりに離れててよかったわ、王子にパラソル立てさせて教師を下僕にしてたなんてこれ以上目だって欲しくないし、悪い意味でな」

「そこの二人、聞こえてるんだけど……」

 アニの言葉に遠い目をして嘆くセリムを見てさすがに居たたまれなくなって目の前に本人がいることをしっかりと釘を刺しておく。

「ま、ボクはそもそも隠してないからねー、ね? オバサン」

「……ま、いいわ何でも、それよりもユーリ」

 そして相変わらずのアニによるオバサン弄りも慣れたもの、適当にスルーしながら隣のユーリに声をかける。

「どうしたの?」

「これ、羽織ってて頂戴」

 海をキラキラとした目で見ていたユーリはくるりとこちらを振り向く。

 確かユーリは海に来るのはこれが初めてと言っていたから目を奪われるのも無理はない。

 私だって過去の自分の時に初めて生で海を見たときはそれなりに感動した覚えがあるし。

 そしてそんなユーリに私は羽織っていたパーカーを脱いで手渡した。

「え、パーカー? なんで?」

 不思議そうに首を傾げながら問いかけてくるユーリたん可愛い、とか今は考えている場合ではない。

「えーっと、そうね、日焼け対策……みたいな? ユーリ肌白いから後から痛くなっちゃうでしょ?」

 私はとりあえず適当な理由をあげながら笑顔でそれを押し通す。

 確かに、私の選んだ水着を着たユーリは可愛い、とても、めちゃくちゃ。

 だけど、それを他の周りの男どもに晒すのは、はっきり言って気に入らなかった。

 実際には映像にはなっていなかったせいでそこまで意識がいかなかったのは私の至らなかった点だ。

 分かってる、これが現世なら彼氏ムーヴ乙とかそういう案件なことは、それでも私はユーリたんの肌をおいそれとそこらの誰かに晒したくはない。

 絶対に。

「そっか、ありがとうー」

「……」

「……何、その目は」

 私の熱弁にユーリは特に疑問を抱くこともなくパーカーに袖を通す。

 そして、その一幕を見ていたセリムの視線が痛くてつっけんどんにセリムに言葉を投げつける。

 キャッチボールじゃなくて、ドッチボールで。

「別になんも言ってないですけどねー、じゃ、ハイネ様はこっちをどーぞ」

 セリムはそんな私を笑うでもなく、何故か自分の着ていたパーカーをいそいそと脱いでこちらに突き出してきた。

「え、逆になんでよ」

 反射的に受け取ってしまいながら、意図が汲めずに私は聞き返す。

「……あの、まー、一応女の子なわけですし、焼けて痛いのは同じじゃないっすか?」

「……日焼け止め塗ってるけど」

 セリムは頭をかきながらさっきの私よりもしどろもどろに理由を呟く。

 そもそも日焼け止めは既に塗ってある。

 まぁそれはユーリも同じなわけだけど。

「ははっ、察してやりなよ、ハイネ」

「アベル……!」

 そんなやり取りを荷物を纏めながら見ていたアベルは堪えられないというように吹き出して、それからセリムの肩を持つ。

 そんなアベルにセリムは少しだけ焦った様子で名前を呼ぶけど、この二人本当にいつの間にこんなに仲良くなったんだろ。

 ダンスパーティーの時も思ったけど。

「まぁ、よく分かんないけど、ありがたくお借りするわ」

 ユーリにパーカーを貸して日差しが痛かったのは事実だし、そういうことならとりあえずありがたく借りておくことにして、私はそのままパーカーに袖を通した。

 一瞬、ふわっと香ったセリムの匂いは、ちょっと落ち着くって言ったら気持ち悪いだろうから言葉にはしないけど。

「……そうしてください」

「いやー、青春だなー」

 そんな私達のやり取りをパラソルの下に座って見ていたララは眩しそうに目を細める。 

「そんなこと言って、ララお姉さまは水着は着ないんですか?」

「わたくしは一応護衛も兼ねているからね、出来たら一緒にはしゃぎたかったが、それはまた今度の機会に取っておくことにするよ」

 私達が海に行くことになって、すぐに護衛がつくことが決まった。

 まぁ王子とか、公爵令嬢とかいるし何ならいろいろ事件に巻き込まれた後だし、最初は軍隊レベルの護衛がつきそうになったけどそこにララが口添えして、ララ一人が護衛に選ばれた。

 まぁ、そこらの一個小隊より断然強いしねこのお姉さま。

 それにこの世界が乙女ゲームの世界なのであれば攻略対象はどうやったって必ずイベントごとには現れるんだろうなっていうメタ的な思考にも陥ったけどとりあえず萎えるから考えないようにした。

「皆さん、焼きそばとジュース買ってきましたよ、ここ、置いておきますからね」

 海の家から戻ってきたジークはキャンプシートの上に抱えていた全員分の焼きそばとジュースを置くとそのまま私から出来る限り距離の離れたシートの隅に体育座りで収まる。

 毎度毎度のことなんだけど、本音はこんななよなよしたジーク・エルメルダマジで見たくないんだけど。

「……あの人このオバサンに一体全体どんな弱み握られたんだよ」

「まー、それは、秘密ってことで」

 そんな私達のやり取りを見ていたアニのドン引き台詞に私は茶化して人差し指を口許に添える。

「……せめて否定してくださいよ」

 弱みを握っていることを否定しなかったせいでセリムはさらに頭を抱えることになったけど、まぁご愛敬ってことで、ね?

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