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32話 もう一人の転生者はにわかでした

「で、今日もただいるだけですか?」

 早々に空いている椅子に勝手に腰かけるとジーク先生はその覇気のない瞳をチラリとだけこちらへ向ける。

「いるだけですよ、またお話しましょうよジーク先生」

 そう、最近は毎日ジーク先生の元へ通っている。

 大体は放課後だけど今日はさっきの流れで来たからまだお昼。

「……あなたも物好きですね、お茶でいいですか?」

「わざわざありがとうございます」

 困ったように言いながらも立ち上がってお茶の準備を始めるジーク先生に建前上お礼は伝えるけど決して目を離すことはしない。

 今日、必ずどこかで決定的な証拠をつかんで見せる。

「さすがに何も出さないわけにもいかないでしょう、どうぞ」

「ありがとうございます……それにしても最近は暑いですよねー、急に温度が上がってきて嫌になります」

 私はそれを受け取りながら、スムーズな流れで世間話へと移行させる。

 ここ最近の傾向を思い出すがジーク先生は作中と変わらず警戒心が強い。

 特に私にたいしての。

 だからこそ出来る限り自然な流れで聞き出さなければいけない。

「もうそろそろ夏も本番ですからね、熱中症には気をつけてくださいね」

 こうして会話だけしていると本当にただ先生と話しているだけ、という感じがするけど気は抜いたらいけない。

「……先生も気をつけてくださいよ」

 私も同じ言葉を返すけど、その気をつけては決して熱中症にたいすることではない。 

「そういえば、そろそろ聞こえてきそうじゃないですか? 夏の風物詩」

「夏の風物詩……ですか……」

 私はここだ、と自身の中でタイミングを計りながらあくまで自然に切り出した。

「蝉の声がうるさくて寝れない時とかないですか? そもそも先生目の下のクマひどいのに」

 あくまでただの世間話。

 そう認識させるためにわざわざクマの話までする。

 何故クマをこさえているのかはまぁ、勿論知っているわけだけど。

 毎回私はここを訪れる度にあることをしてきた。

 それはあからさまな誘導。

 うわこいつ絶対狙ってるな、って分かるような質問ばっかり投げ掛けたりしてわざと警戒心を上げておいた。

 勿論普通の雑談は雑談でよくしてきた。

 それは同時にこいつ率直過ぎて分かりやすいわって思ってもらうために。

 だから

「……クマは元からです、蝉の声は、最近はあまり聞かないですね、だから眠りの妨げにはなりませんけど……」

 こうして簡単に私のただの雑談に紛れ込まされたひとつの引っかけに引っかかってしまうのだ。

「ああ、ダウトですね先生」

「……何がですか?」

 私の言葉にジーク先生は少しだけ眉間にシワを寄せて聞き返してくる。

「私のこと警戒してるみたいでなかなか釣れなくて本当に困りました」

 まぁ、警戒されているならされているでやり方はいくらでもある。

 ありがとう、私のことバカなやつだって簡単に認識してくれて。

「だから、何の話ですか?」

「……知ってましたか? このローズクォーツの姫君の世界には、蝉は存在しないんですよ」

 それでも何のことか分かっていない様子のジーク先生に私はネタバラシをする。

 この世界には確かに元の世界にいたような動物や虫も存在するけどそれは全てではない。

 例えば、ウサギはいるけどうなぎはいない、みたいな。

 それもこのひとつ、蝉はこの世界には存在しない。

 ということは

「っ……」

 あ、やっと先生も理解したみたいだけど一応説明しておこうか。

「だから、それを知っているってことは、あなたもまた元は別の世界の住人だったっていう証明に他ならないんですよね」

 そう、地球かは分からないけど蝉を知ってる時点でどこか別の世界の元住人であると断定できる。

 これは動かぬ証拠になるだろう。

「……やっぱりあなたはどんな手を使ってでも排除しておくべきでした、そんなあなたも私が怪しんでいたように転生者ということですよね、全く、あなたのせいで私の立てたシナリオは全て台無しですよ」

 ジーク先生は一瞬歯を食い縛ったあとに諦めたように手に持っていたグラスを思い切り机に叩きつけるように置いた。

「……全てあなたが起こした事件、ということを認めた、ということですね」

「まぁ、その通りになりますね」

 私が促せばジーク先生は否定することもなくただ肯定する。

 この場合の全てはおそらくユーリ誘拐イベントとスターダストインパクト事件、そしてきっと私がユーリを苛めているというあられもない嘘を流したことも含まれるだろう。

 じゃないと辻褄が合わない。

「何故、そんなことを……あなたが元のジーク・エルメルダでない以上はローズクォーツの姫も必要ないでしょう、それに……スターダストインパクトに関しては起こした意味も分からない、まさか物語の統合性のためなんて言わないですよね……?」

 ゲーム中のジーク・エルメルダはマッドサイエンティストで、魔法にとても強い執着心を持ったキャラだったからローズクォーツの姫にご執心だったわけだけどこの中身の違うジーク・エルメルダがいくつもの事件を引き起こした理由はまだ分からない。

 ローズクォーツの姫君が好きすぎて私の作品のシナリオぶっ潰し具合が気に入らなかったから、なんて言われた日には何も言い返せない。

「……いや、そんなものではない、現実というのはもっと残酷なものだ、ハイネ・リューデスハイムではない誰かさん、スターダストインパクトに関しては……君への警告みたいなものです、これ以上自分の邪魔をすれば今度は死人が出るかもしれないよっていう警告」

「っ……そんなことの為にあんなことを――」

 私はジーク先生……に転生した誰かに憤って机を叩きながら立ち上がる。

「そんなことじゃないっ……!」

 床にグラスが転がったのも気にせずにジークは声を粗げた。

 本物のジークだったら絶対にしない行動だろう。

 彼は最後まで、ひたすらに色々な意味でもクールなキャラだったから。

「分からないでしょう、自分が今どれだけ命の瀬戸際に立たされているのかなんて、あなたがどれだけ恵まれているのかも、同じ転生者なのにここまで自分とあなたで境遇が違うなんて本当に笑えてきますよね」

 私が黙って聞いていればジークはつらつらとそんなことを語り出して、それから自重的に笑って見せる。

 そして

「教えてあげますよ、私は魔法適正が無です、無は低のさらに下で、この世界において魔法適正が無の人間は正常に空気中のマナを吸収できないから永くは生きられない、そんな人間に転生してしまった私の気持ちは誰も……分からない……! だから私はローズクォーツの姫を手に入れて、魔法の理解を深め、短命という呪いから解放される、その為に手段は厭わない」

 ローズクォーツの姫君ガチ勢の私が勿論知らないわけのない設定をつらつらと語っていくから

「はぁー」

 私は思わず大きくため息を吐き出した。

 知ってるに決まってる。

 少ないからこそ説明を省いたそれ。

 魔法適正が無の人間は大体二十代後半程で身体の中のマナを失って活動限界を迎える。

 元のジークも勿論その特性は持っていたし、自分の末路も察していた。

 だからこそ研究に没頭していたわけだし。

 まぁ、元ジークの場合は自身を治したいからではなくただ、生きている間にもっと色々な魔法や知識を後世に残したかったからって理由でユーリに執着していたわけだけど。

「な、なんですか……」

「その人の気持ちなんてやっぱり本人にしか分からないのもね」

 私の反応が予想外だったのかたじろぐジークに私はごちりながらにじり寄る。

「……何が言いたいんですか」

 最初に言い出したのはそっちなのだから私もそれなら言わせてもらおうと、未だに怒りの収まらない口を開く。

「私は、はっきり言ってあなたが羨ましいし自分がハイネ・リューデスハイムに転生したという事実にはいまだに何故ってたまに頭を抱えるわ」

 そう、例えユーリと親しくなれた今でも、私が心の底から安堵できたことはない。

 一度も。

 それも全て

「だって、あなたはこのゲームの攻略対象よね? とどのつまりは、ゲーム通りに進めていけば必ずユーリと結ばれるってことでしょ!? 私がこんなに頑張ってもいまだに手に入れることが出来ていない幸福が目の前にぶらさげられているっていうのに……そんなことばっかり考えてるなんてもったいなさすぎる、はっきり言って変わって欲しいくらいだわ」

 私が攻略対象じゃないからだ。

 ジークは攻略対象。

 そんな相手に転生した時点で勝ち組じゃないか。

 私なんていまだに私のせいで物語がおかしくなる度に自己嫌悪するし、他の奴らがフラグ立てようとする度にイライラも募る。

 だから本当だったら変わって欲しいどころか今すぐ変われと言いたいくらい。 

「っ……君は何を聞いていたんですか! どっちにしろ自分の命は永くはない、それなのに恋愛なんてしてる場合では――」

「あなたローズクォーツの姫君はプレイしてたって解釈で合ってる?」

 全く的を射ていないジークの癇癪を遮って私は聞き返す。

 ストーリーの流れを知っていたということは少なからずローズクォーツの姫君のプレイヤーであることは間違いないだろう。

「……ええ、まぁ、友人に借りて一応は」

「何周?」

「は?」

 律儀に答えるジークに私はさらに詰める。

「何周クリアしたって聞いてるの、FDはプレイ済み? 特典冊子は読んだ? ドラマCDは?」

「あ、一応二週は……FDとかは、全てやってないですけど……」

 私の圧に押されたのか自然とジークはかしこまって敬語になって、完全に場の空気はこちらのもの。

「……」

「……何ですかその目は」

 ジークの言葉を聞いて全てを理解した私の目を見たジークは不満げにそう呟く。

「……まぁ、それなら知らなくても仕方ないわね、ゲームのプレイの仕方に文句つけるのもお門違い、だって人それぞれのプレイスタイルがあるものね、でも、口が悪くなるけど言わせて頂戴……」

 そう、ゲームのプレイスタイルなんて多種多様。

 乙女ゲーのなかだけでも自己投影型とか色々別れるもの。

 だから全クリしろなんて押し付けは出来ないし、本当はこんなこと言いたくないけど、今だけは言わせて欲しかったから言うわ

「このっ……、にわかがっ!!!」

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