24話 最高のイベントと最悪のイベントが同時に発動しました
魔法祭でのユーリ誘拐イベントを攻略してから少し。
強襲にあった余韻を残しつつも皆が皆普通の学生生活に戻りつつあった。
事件を起こした集団はユーリの持つローズクォーツの姫の力を盲信しているカルト教団だった。
まぁ、私はその主犯のことも知っているがそれを伝えるのは止めた。
相手は狡猾だし、信じてもらえるかも分からない。
それに、これ以上イレギュラーを起こしたら次の展開がどんどんと読めなくなりユーリたんを攻略するのが難しくなるどころか何か大きな事件に繋がってもおかしくない。
そういうことも踏まえて判断したものだ。
そしてまた、問題もというものは解決するとすぐにまた発生するもので、学生という身分としては仕方ない問題が目の前に立ちはだかっていた。
「ハイネ、ありがとね、勉強見てもらって」
図書館で勉強を始めて暫くして休憩時間にすればユーリがこちらに顔を向けてお礼を言ってくる。
「別にいいのよ、勉強出来るのだけが取り柄だもの、まぁ、それもあの器用王子には叶わないんだけど」
そう、学生の本分は勉強。
そして勉強をすればテストというものが付属してくる。
つまりは今は学期テストの為のテスト習慣だった。
「本当はシグナに教えてもらおうと思ったんだけどなんか、まだ立ち直りきってないみたいで……」
シグナありがとう、立ち直らないでくれて。
そう、本来ならこの立場、ハイネに勉強を教えるのはシグナ。
なのにシグナが全然ショゲナから戻らない為私にお鉢が回ってきたといわけだ。
つまり、今回の問題はとても私得なもの。
むしろ得しかない。
だって推しに勉強を教えるという名目上合法で二人きりになれるからだ。
いくらいつもつるんでたり騎士だろうと図書館勉強にまで毎回ついてくるわけではない。
しかもユーリは意外と勉強は出来ないほう。
反対に私は意外と勉強が出来るほう。
というのもローズクォーツの姫が好きすぎて公式が上げている設定なども網羅しているしゲーム中に出てくる説明文も全て覚えているからだ。
それでも補えない部分に関しても幼少期から強みとするために勉学に励んでいるから問題ない。
そこまでしたのにあの王子から答辞を奪えなかったのは悔しいが。
とりあえずはこの気を逃さず絶対に距離をもっと詰めて見せる。
「シグナもとっととショゲナから回復すればいいのにねー」
「ハイネが弄るからってのも立ち直れない理由のひとつだと思うけどねー」
私の言葉にユーリは苦笑いしながら突っ込みを入れてくれる。
私なんてと最初に言ったのはあっちなので喧嘩を売られたと判断してことあるごとに弄ってたけどまさかそれが吉と出るとは思わなかった。
まぁ、別に嫌いで弄ってるわけじゃないしその辺りはユーリも理解してるから笑ってるんだろう。
シグナ本人のことは知らないけど。
「君達」
だけどそんな平和な時間というのは永くは続かないようだから世界はよく出来ていると思う。
かけられた男性らしい低めの声に嫌でも身体が萎縮する。
「っ……」
ギギギっとそちらに首を向ければ立っていたのは猫背で白衣を来た眠そうな男性だった。
緑色のさらさらした短髪にハイライトの入っていない深く淀んだ黒色の瞳には生気が宿っていない。
「はい?」
「ここは図書館だから声は小さくしてくださいね」
「あ、ごめんなさい……」
「それでは……」
男は私達の声に注意だけすると何をするでもなく図書室を出ていった。
本を持っていた様子もないが一体何故図書館に来たのか、それに……もうひとつ気になることがあった。
「今の人、魔法薬学の……」
私は確認するようにユーリに声のトーンを下げて話しかける。
「ジーク先生よね、こんなとこ来るんだねあの先生」
「……まぁそうよね、私も驚いてる」
やっぱり、あの人はジーク・エルメルダで間違いない。
ジークはこのアルミア魔法学園の魔法薬学の教員だ。
会いたくなかった理由は主に二つ。
一つはそう、彼が隠しの攻略キャラであること。
だからユーリとはあまり関係をもって欲しくない。
そしてもうひとつの理由はこの前のことがあってからの今日だからだ。
そう、彼は隠しキャラだけあって色々な秘密を持っている。
言ってしまえばこのゲーム世界の黒幕的なポジションだ。
ユーリのローズクォーツの姫としての能力を私的に悪用しようとして狙っている、そんなマッドサイエンティストなキャラ。
勿論ユーリ誘拐イベントにも関わっているから会いたくなかった。
そもそもこのイベント中にジークが現れることはないからこの時点で何かがまた食い違い始めたということにもなる。
また、今度は何が起きるか、そんなことを考える間も無く事は起きた。
「……あれ、何か外が明るい気が」
窓の外から大きな光が私達を照らす。
「っ……眩しっ……これは……! ユーリ、他の人も窓から離れて早く!」
その光はだんだんと大きくなってきて、私は慌てて窓の近くから離れるようにユーリを引っ張る。
私の声かけは意味をあまりなさずに光に寄せられて図書室の中にいた数人は窓のほうへ寄っていってしまう。
このままだと、まずい。
「え、どうしたのハイネ……って、きゃあ!」
私に引っ張られるままにユーリは窓から離れたものの、その次の瞬間には大きく床が揺れる。
床、というよりは校舎そのものと言ったほうがいいだろうか。
これは、本格的にまずいことになってきている。
このイベントは流れ上絶対に起きないと踏んでいたのに。
「……ユーリ、ごめんなさい!」
また大きく外が明滅し、次の瞬間には殆ど反射的にユーリを庇うように覆い被さっていた。
その直後に窓ガラスが割れる音と壁が崩れる音を聞きながら目を開いていられない程の明滅で目を強く瞑った。
「っ……ハイネっ……ハイネ!!」
ユーリに名前を呼ばれているのだけは理解できるのに、背中が焼けるように熱くて、私はそのまま意識を手放した。
やっぱり私以外にも転生者がいるのだ、ということを確信しながら。




