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1話 悪役令嬢ならやったらダメなことなんてないんじゃない?

 さて、初老のメイド服の女性、メイド長のエマから暖かいココアを貰って一息ついたところで現在の状況を整理したい。

 私は青葉蘭、別にブラックでもホワイトでもないごくごく普通の会社勤めのOLで、誰かにぶつかられた衝撃で線路に転落してその短い生涯に幕を閉じた

 はず、なのだが。

 ここは見るからに天国でもないし勿論地獄でもないわけで。

 それは自分が痛い程によく分かっている。

 姿見に写るこの姿は、この見た目だけでいえば優しそうにすら見えるこの少女は。

 ハイネ、ハイネ・リューデスハイムだ。

 ハイネ・リューデスハイムとはとあるゲームの登場人物の名前。

 そのゲームとは私が生前崇拝するレベルで傾倒していた乙女ゲーム「ローズクォーツの姫君」だ。

 ローズクォーツの姫君はよくある魔法学園を舞台にした乙女ゲームであり魔法の精に愛された主人公の少女が没落貴族でありながら国の名門魔法学園に入学することから始まる物語。

 果たして私はその主人公に転生したのかと言われればそれは否。

 まぁ勿論というようにローズクォーツの姫君、この物語にも恋の障害物となる人物がいる。

 没落貴族でありながら名門学園に入学した主人公を気に入らずに散々嫌がらせをしてくる私の大嫌いなキャラ。

 そう、それこそがハイネ・リューデスハイム。

 何の因果か私がこうして転生した先の人物なのだ。

「ほんっとうに……何で私がハイネに……」

 私は年不相応に唸りながら顎に手をやる。

 この際ゲームの世界に転生したことはまぁ、置いておこう。

 それが自分の愛してやまないゲーム、ローズクォーツの姫君のなかだったとしても。

 問題は転生した人物がハイネであること。

 私はこの作品のなかで唯一、このハイネ・リューデスハイムだけが大嫌いなのだ。

 所謂、地雷。

 何故なら、私の最推しはたくさんいる魅力的な攻略対象達ではなく、このゲームの主人公。

 魔法の精に愛された存在、ローズクォーツの姫と呼ばれる存在であるユーリ・ローレライその人である。

 つまりは自分の最推しに意地悪をする相手をどうして好きになれるだろうか。

「最悪だ……せめて、せめて誰か攻略キャラに転生出来てたら……」

 ローズクォーツの姫君には合計で5人の攻略対象が存在する。

 例えばその誰か一人にでも転生することが出来ていたなら作品の全てを履修しつくしていると豪語してやまない私がユーリたんを逆攻略することだって夢ではなかった筈だ。

「……ん?」

 そこまで考えてからふと、とあることを思い付いた。

 いや、天啓と言っても差し支えないかもしれない。

 私はこのゲームのシステムや設定、選択肢などを全て覚えている。

 つまりは例えば、ユーリたんと攻略キャラとの出会いも、エンディングに分岐させる為のフラグも、全て先回りして潰すこともしようも思えば決して簡単なことではないかもしれないが出来ないなんてこともないだろう。

 それならば全てのフラグをたたき割り、ユーリたんを私が攻略すれば、全てが上手くいき万々歳ではないか。

「でも……」

 そんなこと、してしまっていいのだろうか。

 ユーリたんは私がしあわせにするとしても他の攻略キャラ達の中にはユーリたんと出会うことで救われるようなキャラだっているわけで、それを私が横取りするなんて果たして人間として、どうなのだろうか。

 そう、考えたところで、私はあるひとつの結論に至った。

「そうか、したらダメ、なんてことないじゃない…!」

 そうだ、自分の幸せを望み、欲望を叶える。

 それの為に誰かの足を引っ張ったり、何かを蹴落とすことは一般的に言えば悪いことだろう。

 だがそれは私には適応しないのだ。

 そう、何故なら私は

「だって今の私は……悪役令嬢なんだもの!」

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