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90話 蝶より華より大切にされてます

「わたくしの宝になにもしていないと、この剣に誓えるか?」

 わたくしは目の前のむさ苦しい男の首筋に刃を突きつけて問いかける。

 今日だけで何度この台詞を吐いたのかもう分からない。

「も、勿論です! 何もしていません! オレなんてふ、触れてすらないです!!」

「同じ空間にはいたか? 空気は? 同じ空気を吸ってはいないな?」

 少しでも動けばすぱりとその首が落ちる男は首を横に振ることも出来ずに声だけで主張する。

 だが触れていなければ良いわけではない。

 空間、果ては同じ屋根のしたにいたのか、それすらわたくしのなかでは重要事項だった。 

「そ、れは……その、はい! もちろ――」

「即答できない時点でアウトだ、わたくしの宝と同じ空間にこんな輩がいる時点で有罪だ」

 あからさまに動揺した男の首をわたくしは一閃、切り落とす。

 ゴトリと音を立てて地面に転がる首は砂ぼこりが舞ってそこがよくお似合いだ。

 わたくしの宝と並ぼうなんておこがましいにも程がある。

「……わたくしがいながら易々とハイネを連れ去られるなんて言語道断、厳しく律しなければ」

 あの日わたくしはハイネが誘拐されたのと同じ場所にいた。

 それなのに守れなかったなんてどれだけ厳しく自分を戒めても自身を赦すことなど到底出来やしない。

「ああ、ハイネ、その白く柔い肌にこんな薄汚い奴らの指が食い込んだと思うと、自分が刺されるよりも心が痛む」

 あの太陽の光を知らないのではないかというほどに白く、どんな肉よりも柔く脆い肌、それにこんな男どもが触れたと思うと心が張り裂けんばかりに傷んだ。

 出来ることなら変わってやりたい。

 ハイネはある日から人が変わったように感じることが多くなった。

 それは確か9歳の誕生日の頃。

 今までのわんぱくさもありながらおしとやかだったハイネが気付けば手のつけられないお転婆に成長した。

 多分その間のハイネの変化に気付いたのはごく一部の人間のみだろうけど。

 まぁ、だからなんだというのだろうか。

 例え、もし、何かあったとしてもハイネはハイネに変わりない。

 9歳より前のハイネも大切な末妹で、9歳より先のハイネもまた、大切な末妹だ。

 わたくしの愛する宝だ、それは誰にも覆せない。

「きっと怖がって怯えている、待っていなさいハイネ、必ずわたくしが助けて見せる」

 わたくしは無数に転がる屍を一瞥すると血を払って剣を鞘に仕舞う。

 蝶より華より愛しい大切なハイネにわたくしは誓うと後ろを振り返ることなくそのまま歩を進めた。

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