87話 君がいないと始まらないなんて思ってたんですか?
「お、来た来た、何だボンボンの王子様じゃねぇか、コイツ殺して報酬でるならこりゃ当たりだな」
鈍い光に触れると次に私の目の前に現れたのは見るからに族だと分かる輩達だった。
そこまで人数もいない辺り相手の頭は私達を過小評価しているらしい。
「……なるほど、どうやら外れを引いたようだけど」
ハイネがいない時点でここは外れ、多分狙いはセリムなんだろうけどこの魔法を用意した人物はそこにこだわりがなかったんだろう。
そして
「君達には悪いがこれは君達にとっても、外れだね」
あの中の誰がこの場に来てもそうだったが私が相手に選ばれたのはさらに不幸と言ってもいいだろう。
「はぁ? 何が言いたいんだよ?」
「分からないかな、君達程度なら下すのも容易い、そう言ってるんだ」
察しの悪いリーダー格に私はわざわざ口で説明して、それから自身の杖を引き抜く。
「……言ってくれるじゃねぇか生まれが良いだけのクソガキが、殺せ!」
それを合図に相手も臨戦態勢を取ると一斉に向かってくる。
「……何とでも言ってくれ、君達の言葉はどうやったって私には届かない、それに早く行かないといけないからね」
どうやら何か隊列も組んでいなければそこまで作戦も立てていないらしいそれを崩すのは簡単なことだ。
「ライトアローセプテム」
私は杖を構えると比較的得意な光魔法を放つ。
「っ……!」
「ぐあ!」
弓なりに行き交う光の弓矢は簡単に族達を一層していく。
「……な、なんでこんなっ! ただのガキだってアイツ、言ってた筈じゃ……」
「確かに私はセリムやユーリの前じゃあ見劣りするが、魔法適正は高だ、弱いわけないだろう?」
セリムは最上、ユーリは全知、その二人と見比べてしまえば確かに私の適正は低いけど世間一般的に言えば高だって充分に高い。
「くそ! 何手間取ってんだ! 早くやれ! っぐ!」
騒ぐだけ騒いで動かないリーダー格には詠唱破棄した風魔法で鎌鼬を浴びせかける。
「……それに、私は戦場を知っているから、他の人より少しだけ非情になれるから」
私はララ様には勿論及ばないけど戦場で人が死ぬ瞬間を目にしたことが何度かある、だから人が傷付くことや死ぬことに、少しだけ体制があるといえばいいのか何なのか自分でもよく分かっていないけど、多分あの中ならララ様の次に非情だ。
だって、これだけ相手を一方的になぶっても、何も思わないのだから。
「……もう少し出力をあげようか」
オレは言いながら魔法のギアをひとつあげる。
ねぇ、知ってるかいハイネ。
君は多分私は何もしなくても何でも出来る完璧超人で、大きい感情を持たなくて、誰にだって優しい、そう思ってると思うんだ。
だけど本当は違う。
本当の私は自分の身内じゃなければ容赦なく矢で射貫くことが出来て、入学生答辞や学力テストで1位を取るのは誰にも見えないところで努力しているからだ。
それに存外負けず嫌いだから何かと君に負けると悔しいし、ユーリとのことだって嫉妬したりする。
だけど、君がいるから、競い合える人がいるからこそ私は日々を精一杯生きれているのが事実だ。
実際にあの日ユーリとハイネに出会った日のことをいまだにたまに夢に見るくらい、私にはあの日が人生の分岐点だった。
自分で何かを決めてやり抜こうとしたのもあの時が初めて。
だから早く帰ってきて、また私と競い合おうよ。
君に独りは似合わない、辛い目に合うのだって柄じゃない。
君がいないと何も、始まらないのだから。
「……こんなものかな」
私はある程度のところで魔法を終息させる。
もう今この場で立っているのは私一人だけど地面に伏せって呻いている男たちは多分みんな死んではいない。
殺しても別に構わないけど多分それはハイネの望むところでもないし。
「他のみんなは、心配するまでもないか」
一瞬、他のみんなの心配をしそうなったけど誰をとってもみんな一癖も二癖もある人たちだからその必要はないだろうと結論に至った。
ここが何処だか分からない以上これ以上の行動には移せない、だけどそれは既に対策が打ってある。
「……さてと、早いところ行かないと」
私は位置情報を伝搬する魔道具を確認して、すぐにひとつの信号に向かって駆け出した。




