8、家族
俺はパジャマを持ち、パンツ、シャツをクローゼットから取り出すと風呂場へと向かう。
この家の風呂は案外しっかりとしている。
まあ五右衛門風呂みたいな感じだ。
俺がなぜ一番最初に入るかって……?それは火魔法で風呂を沸かす作業をしなければならないからだ。
「水魔法“水ウォーター”。続けて火魔法“火ファイヤー”」
俺は風呂いっぱいに水を注ぎ込むと、風呂の下を火力で熱し上げる。
これで風呂の完成だ。
この世界は発展はしていないが、魔法があるため、ちょっとの工夫でなんでも便利になれる。
機械がほとんどなくて機械音痴だった俺からは非常に住みやすい世界だ。
風呂を入り終わると先ほどの部屋へと戻る。
すると、シーエーさんとカルバーツが何やら話しているのが聞こえてくる。
俺は耳を澄ませた。
「ほんとに立派になってきたよ!あいつは……」
「そうか〜?まあ5歳だからな……。もう2つの魔法を覚えたことはすごいことか……」
「あいつは強くなるよ!」
「ああ!そうだな!」
俺の話が聞こえてくる。
とても気分が良い!陰口で良いことを言われている。これは最高の瞬間だ。
もっと直接的に褒めて欲しいものだが……。
「シーエーのところの息子はいくつになった?」
「あ〜今年で2歳だったかな?」
「もうそんなか……早いな成長は……」
「カルバーツのところはゲッツァと同じだったよな……!」
「ああそうだ!今5歳だな……」
次は親父話だ。
少し興味がある。このまま聞いておこう。
「シーエーのとこは少年学校に通わせるのか?」
「いや、去年くらいに水の国を出たよ……。やっぱり我が子となると、戦士にはしたくないよ!もしも戦士になりたいのなら冒険者になって自力でなってもらうしかないね!」
「そうか〜。そりゃあそうだよな……!ゲッツァには酷なことさせているのが申し訳なくなるよなたまに……」
いやあそんなことはありませんよ!
この人生には納得していますから。むしろ、大きくなったらカルバーツのような立派な戦士を目指していますから……。
「まあゲッツァはもう息子みたいなもんだからな!」
「ああそうだな!」
これはちょっと恥ずかしいな。
顔が赤くなってきた。
なんか入りずらいな部屋に……。
「娘に会えない俺にとっては本当にゲッツァが癒しだよ!」
カルバーツめ、酔っているのか?
いや、明日朝から戦争だから酒は絶っている。
そんな恥ずかしいことよくシラフで言えるな。
「……娘さまもね。元気にやっていると思うぞ!」
「ああそう信じているよ!」
カルバーツには娘がいるんだ……。
っともう十分話は聞けたし、このタイミングで……。
ゆっくりと扉を開ける。
「上がったよ〜!」
俺はあたかも先ほど風呂を上がったかのように振る舞う。
「おう!」「おう!」
二人とも口を揃えてそう答えた。
その後も、何気なく会話をしていたらいつの間にか俺は眠ってしまっていた。
5歳の身体は疲れに素直なんだな。
次の日の朝、起こされると目の前にはカルバーツの顔があった。
「おう。おはようゲッツァ!」
眠い目を擦りながらカルバーツの姿を眺めると、すっかりと戦闘服へと着替えている。
背中にはいつもの槍を背負い、昨日までの親父のような雰囲気は一切消えていた。
やはり、この姿のカルバーツはかっこいい。
「おファよう〜……もう行っちゃうの?」
「ああ……。次はまた一ヶ月後だな!」
また一ヶ月が後か……。それはそれで長いな……。
「玄関まで送るよ〜!」
「おう、悪いな」
俺は寝相の悪さで肌けたシャツを直すと、ベッドから飛び降り、玄関へと直行した。
靴を履かずに裸足のまま玄関を出ると、シーエーさんがすでにスタン張っていた。
「おはよ〜シーエーさん!」
「おはよう」
シーエーさんも本当はカルバーツの元で戦いたいだろうに……。俺が早く強くならないとダメだな。
そう思っているとカルバーツが玄関から出てきた。
陽の光で覚めてきた目がカルバーツのことをはっきりと映し出す。
やはり、筋肉質で、凛々しくてかっこいいな。
今や、世界最強の男だ。
背中に抱えている槍も陽の光にあたり、こちらを照らしつけている。
「じゃあ行ってくるわ!」
カルバーツは俺らの方を見て、ニッコリと言うと、背を向けて足を運ぶ。
その圧倒的な余裕を語る背中はまさに最強の証だ。
いつまでも、大きく見える。
「気をつけてな!カルバーツ!」
「やばくなったらいつでも駆けつけるからな!」
そんな言葉にカルバーツは後ろ向きで手を上げて答えた。
その仕草も憧れる。
カルバーツは俺らに背中を向けて歩き続けた。
しかし、5、6歩歩くと、急に足を止めた……。
「あれ?」
カルバーツは荷物を確認し出すと、急いでこちらの方へと戻ってきた。
一体どうしたのだろうか……。
「やべえ!パンツ忘れた!」
見送っていた俺たち二人はその場でずっこけた。
やはりどこか抜けている。
カルバーツは家の中へ再びと入り、家の中で大きな音を立ててから出てきた。
ここまでざっと10秒ほどだろう。
「じゃあな行ってくらあ!」
今度は小走りで俺らの前を後にするのだった。
やはり決まらないな……。この男は……。
シーエーと俺は顔を合わせるとプッと吹き出して笑い合った。
「じゃあ俺らも水魔法の修行へと入るか!」
「え〜電魔法がいい〜」
やっぱり、水魔法よりも電魔法や火魔法の方がかっこいい。
それに、なんだ草魔法って……。
ダサすぎるだろ!
草魔法を覚えるのは一番最後になりそうだ……。
「文句は言うな!俺が教えられるのも水魔法しかないんだから……それともあれか?また歴史の本でも読んでやろうか?」
「は〜い!がんばりま〜す!」
ここは折れることにする。あの本が一番退屈だ。
そして、俺らも着替えるといつもの木下へと行き、修行へと打ち込むのであった。




