4、生きている
限界だ……。
もう二日ほど何も口にしていない。命の鼓動が弱く感じる。
それはカルバーツも同じだろう……。息は荒く、必死になっては走り続けている。
魔物との戦いから逃れ、カルバーツはどこかを目指して走り続けている。
そこに、何かがあるのだろう……。
「もう少しの辛抱だゲッツァ!わりいな……」
カルバーツは常に優しい言葉をかけ続けてくれる。
そのおかげで安心して身を預けられる。
何なら沢山の睡眠も取れた。
でも、起きても起きても、そこは漆黒の森の中……。
果たして本当にこのまま大丈夫なのだろうか……。
カルバーツの足取りも重くなってきている。そうとう無理をしているのだろう。
――あれ?
微かにずっと奥に光が見えたような気がした。
「踏ん張れよゲッツァ!もう少しだ……」
その光に徐々に寄って行く。
あの光は日光か……。
ハアハア……。
お互いに息が切れてきている。あと一歩だ。あと一歩。
――――
晴天の日差しが俺たち二人に注ぎかかった。
あ、やっと抜けたようだ……。
今まで薄暗い森の中を永遠と彷徨っていたため、日の光に当たるとこうも気持ちよくなるものなのか……。
目の前には広大な大地が広がり、緑の美味しい空気が充満している。
「やっと……。抜けたぞ……ゲッツァ……」
カルバーツはその場へと倒れ込む。
危ない――と思ったがしっかりと俺は地面にぶつけないように両脇に手を通して安全を確保してくれた。
目の前には仰向けに寝転ぶカルバーツの顔がある。
これは……寝ながらの高い高いというやつか……。
「さっきまでよく顔も見れなかったけど……。お前、結構可愛いじゃねえか……!」
赤ちゃんが可愛いのは当たり前だ。でも、この前まで14歳だったのだ。複雑な感情だ。
でも、俺のことを守り抜いてくれたカルバーツの表情はどこか誇らしげだ。
戦っている時とは大違いだ。
「ゲッツァ……。お前の父ちゃんも母ちゃんも……かっこいい最後だったぞ!」
この世界での父の顔は見れなかった。でも、この男が言うのだから間違いないだろう……。
日差しが雲にかかり、一瞬だけ暗くなる。
「実は俺にも近頃、子供が生まれるっぽいんだよな……」
生まれるっぽい?とは……。生まれるのが確定ではないのかな……。
「でも、俺には会えないんだ……。娘なのか息子なのかも分からねえ……」
どうやら複雑な事情があるっぽい。
風が流れると、雲が動きまた日差しがカルバーツの顔を照らした。
「ロイズはな……。最後に子供をよろしくって俺に言ったんだぜ!」
ロイズは俺の父に当たる人物だな。
「ゲッツァ……。俺がお前を立派に育ててやるからな…………」
と言い終わると、カルバーツの腕の力が抜けていく。
力が尽きたのだろう……。まあ、あれだけ戦えばな。
それに俺の心臓の音も弱くなっている気がする。
生まれてからまともに何も飲み食いしていない。それに、ほとんどが戦場で心身ともにくるものがあったのだろう。
わずか、2、3日の人生だったけど、非常に刺激がもらえた人生だった。
俺のことを大切に思ってくれる人がいること……。どの世界でも愛してくれる。
本当に俺は幸せ者だな。
ありがとう。カルバーツ……。
♢ ♢ ♢
俺は目を覚ました。
次も転生とやらをしたのか……?
手足を確認すると両方とも短い。
これはまた赤ん坊に転生してしまったのか……。
辺りを見渡すとこれは……。何か小さな部屋だ。でも、どこか品があるような飾り付けの部屋だ。
――小さく揺れる――
どうやら馬車の中のようだ。
女が3人いる。結構良い馬車なのかな?
すると、一人の女が私のことに気づいた。
「ゲッツァ様……!」
ゲッツァ様……。確かにそう呼んだ。
「皆さん!ゲッツァ様が目を覚ましました!」
その女性は馬車の中で大きく叫ぶと、それを聞いた他の二人が俺の方へと寄って顔を近づけてくる。
「ゲッツァ様……」「ゲッツァ様……」
二人は口を揃えてそう言う。
ゲッツァと言うことは……。俺は死んでいないと言うことか。
この前とは違い、明らかに生まれたてホヤホヤというイメージじゃない。
そうか……。俺は生きていたのか……。
それに俺は様付けされるような身分だったのか……。
一人の女性が馬車のドアを開けると、大きく息を吸い込んだ。
「皆さ〜ん!!ゲッツァ様が目を覚ましました〜!」
――数秒後――
大きな歓声が馬車の外へと響き渡った。
この馬車の外には何人の人がいるのだろうか。
ざっと声では100人はいる気がする。
でも、生きていたという事実を確認できただけで嬉しい。
何たってそんなペースで死ぬのは嫌だからな……。
「そうだ……。起きたのならとりあえずおっぱいをあげないとだね……」
そう言うと一人の女性が薄い布を脱ぎ出した。
うわっ!このご時世じゃ規制されてしまう。
でも俺は赤ん坊だ……!思う存分……。
と、そんなことじゃないな。
あれからどうやって生き延びたのだ?
そうだ!カルバーツは……?
あいつは……。まさか死んでないだろうな……。
「うっと……よう!起きたかゲッツァ!」
この声は……カルバーツ!!
カルバーツは先ほど開いた扉からお飛び乗るように馬車の中へと転がり込んできた。
でも……状況的には……服を脱ぎ終わり上半身裸の女性が一人……。
カルバーツはその女性とゆっくりと目線が合う。
―げ―ん―こ―つ―
せっかく飛び乗ってきた馬車から殴り下ろされてしまった。
道で大の字に倒れているカルバーツは見事としか言いようがない。
「まったく……もう!」
上半身裸の女性は頬を赤めると、軽く布で自分の肌を隠す。
まあ何であれそれは仕方ない。
それから俺はしっかりと授乳された。
でも、不思議と興奮するようなことはなかった。これも赤ん坊だからかな……。
馬車はそれから移動すること一時間ほどで停車した。
「ゲッツァ様!抱えますね……」
俺は一人の女性に抱えられながら馬車の外へと出た。
――――
驚いた。
そこには要塞のように大きな壁に囲まれた街が広がっていた。
右には住宅街。人々が集まり、何やらこちらを向いている。
左には酒場、武器屋、酒場、飲食店、酒場。ほとんどが酒場だ。
大衆がこちらを見ている。どうやら本格的に助かったと思っていいらしい。
これを凱旋と呼ぶのだろう……。
だがしかし、そんなもてはやされる時間なんて無いほど、早く俺は運ばれた。
一つの部屋だ。
周りにはほとんど何もなくベッド横に花瓶と一輪の花だけ。素朴な部屋だ。
俺はベッドへと寝かされる。
ふ〜。これで安全だな。
運んでくれた女性が服を脱ぎ出した。
また授乳の時間のようだな……。
その時――トントン――とノックが聞こえてくる。
女性は急いで服を再び着直すと「はーい」と優しく返事をして、部屋の扉を開ける。
「すまねえな!」
カルバーツだ。
こいつは授乳時を狙っているのか……。いや、たまたまか……。
「カルバーツ様!」
「どうだ?ゲッツァの体調は?」
「はい!先ほどから元気で問題ありません……」
「そうか……。それは良かったぜ!一時は本当に死ぬかと思ったぜ!」
お前のせいでもあるんだぞ!死にそうになったのは!
「そう言えば……ダンテと赤ん坊はどうなったんだ?何か聞いているか?」
そう言えばそうだ。あいつらは無事なんだろうな……。
「はい!一昨日、このホールグリットへと到着をし、昨日人間界へと旅立たれました!」
女性は一礼をしながら丁寧に答える。
「お〜!それは良かった!」
カルバーツはどこか安心した表情へとなった。
「ゲッツァ様も明日、旅立たれますか?」
その瞬間、カルバーツは黙り込んだ。
「カルバーツ様……?」
「いや……。こいつは俺が育てる!」
「でも……そうなると、ゲッツァ様はずっと魔界でということになりますよね?」
「ああ!魔界で育てる!」
女性の方は目付きを変えた。
「それは少し身勝手すぎませんか?ゲッツァ様は人間界の未来そのものです!誰でも安全に人間界へと帰すようにと進めると思いますよ!」
「ああ!そうかもな……。でも、ゲッツァは未来、未来だからこそ!この常に危険な魔界に身を置くことが一番の成長できると俺は信じている!だからこそ……」
「じゃあゲッツァ様に万が一のことがあったらどうするのですか?」
「それは俺がついている!ゲッツァの身に何かあるようなことは起こさせない!」
「それをあなたが言えますか?ゲッツァ様を自ら危険な道へと預けて……!あの時、私たちがあの地域一帯を偵察していなかったらゲッツァ様は死んでいたのかもしれませんよ?偉くはありませんが私も赤子がいる母親です!そんなこと子供に押し付けるなんて……」
女性の方は涙声だ。二人がどれだけ熱い熱量で話しているかはこっちにも伝わってくる。
「……ロイズとの約束なんだ!」
「ロイズ様との……?」
カルバーツも涙ながらに語る。
「ロイズは最後に子供を俺に託すように言ってきたんだ!ピサロも……。だからこれは俺が責任を持ってゲッツァを育て上げる!ロイズのように……」
ロイズと言う俺の父親はここまで偉大な人だったのだと理解した。
あれほどの強さを持つカルバーツにここまで熱くさせるのだ。
相当な人物だったのだろう……。
「……わかりました。ロイズ様が亡くなった今、最前線の指揮を取ることになるのは2番手のカルバーツ様でしょう……。わたしがとやかく言うことでは無いですよね……」
「いや、ありがとう!少し俺も子供を育てるという身でありながら自覚が足りなかったと思ったよ……。これからもゲッツァのことを頼みます!」
これにて俺の件は一件落着だろう。
どうやら俺は魔界で育て上げられるらしい。
そもそも、魔界と人間界の差がよく分からない。
人間界は人間が住んでそうなイメージがある。しかし、魔界は魔界でこのように人が住んでいる。
それに、この世界では何が何と戦っているのだろうか……。
そして、白属性とは何なのか?
今わかることは、ここにいるカルバーツと呼ばれる青年に育て上げられると言うことだけ。
それにしても、生まれてから激動の連続であった。
魔法……。魔物……。魔王……。
俺は生まれた瞬間から、これらと戦っていく運命のような気がする。
これからも誠意一杯この世界でも生きていこう。
0歳の俺は固く胸に決意を抱いた。




