40、然らば2
それから俺は3日間ちゃんと学校へと行った。
最後の学校になるからな……。
隣の席のレオにも会えなくなるからな……。
そう考えると色々とあったからな。この学校ではな。
ラーク姫は相変わらず、朝も放課後もしっかりと修行をしてから帰って行った。
こういうところもさすがだよな……。
出発当日の夜が訪れた。
この日は最後の学校をしっかりと噛み締めて授業を行なってきた。
そして、レオ、コング、テオスなどなどのクラスメイトの顔をしっかりと見てきてやった。
これでもしかして会うのが最後かもしれないからな……。
いい思い出はなかったが、一応な。一応。
夜は遅いが、おばさんは起きててくれている。
この3日間はおばさんの十八番料理を散々振る舞ってもらった。
この味は俺の中で生き続けるだろうな……。
出発はいつも通り俺が芝生の場所に行けばラーク姫が出てきてくれるのかな?
出発手順に関しては何も話していなかったな!まあ多分それでいいだろう。
もう人が誰も外をうろつかない時間となってきた……。
よし!
俺はしっかりと準備をした荷物を担ぎ靴を履く。
その様子をおばさんは後ろから見守ってくれていた。
「じゃあ行ってくる!」
そう言うと、おばさんは俺の頭の上に手を置いた。
「行ってらっしゃいね!」
優しい言葉をかけてくれた。
今まで、込めてくれた愛情全てが俺の心を満たしていく感じがした。
すると、急に俺の家の玄関が開いた。
誰だ……まさか抜け出すことがバレていたのか……。
と思ったがそこには見覚えのある仮面姿の少女がいた。
「ラーク姫!なぜここに?」
「いや、なぜって今日が出発だからじゃん!」
「いやそうですけど……なんで家を知っているのですか?」
「だって姫さまだもん!当たり前でしょ!」
姫さまだから知っている?
姫さまというのはこの国のすべての家を把握しているのか……?怖いものだな!
ラーク姫は仮面を外した。
「ラーク姫……ラーク姫さま……え?なぜここに?」
いちばん驚いていたのは他でもなくおばさんだった。
それもそうだろう……。
俺とラーク姫の関係なんて話した事がなかったからな!
ラーク姫はそんなおばさんの表情を見ると静かに頭を下ろした。
「夜遅くにすみません。本当はここにくる予定ではなかったのですが……私がおばさんに何も言わないで連れて行くのは違うのかなって思ってきました……。魔界に行きたいという私のわがままにゲッツァ君を巻き込んでしまいました。申し訳ないです!」
いや、ラーク姫は何も謝ることなんて……。
俺だって魔界へはいち早く行きたかったし!
すると、おばさんは頭を下げるラーク姫の頭を撫で始めた。
身分とか気にしないのか……?とかも思ったけど、
「こういうところを見るとカルバーツ君の娘さんだね〜!いいのよ!ゲッツァだってねいつかは魔界へ行くって言っていたからね。それが少し早くなっただけだしね。魔界へ行くきっかけを作ってくれてありがとうね!」
そう言うと、おばさんはラーク姫の頭からそっと手を下ろした。
「ゲッツァ!ラーク姫に絶対に怪我させちゃダメよ!しっかり守ってあげるのよ!」
「はい!!」
おばさんのベクトルが急に俺に向いたことで反射的に返事をしてしまったが……守るのなんて当たり前のことだ!
俺はおばさんの一言でさらに決意を強めた。
「じゃあ2人ともドンと行って来なさい!」
おばさんは俺らの背中をそっと押してくれた。
「はい!」「はい!」
俺らは家を出て沖へと向かった。
ラーク姫は何やら大きなバックを持っている。
俺よりも大きく重そうだ。
「ラーク姫!俺が荷物を持ちますよ!」
「いや、大丈夫だよ。もう私たちは背を任せ合う仲間なんだからね!そんな気を遣われると困るよ」
「気を使うとかじゃなくて。ここでラーク姫の荷物を持たなければなんとなくおばさんに顔向けができないような気がするんですよ!」
すると、ラーク姫は少し吹き出すように笑った。
「何よそれ。じゃあお言葉に甘えさせてもらうね」
そして、俺はラーク姫から荷物を受け取ると目的の船がある沖へと向かった。
「う〜ん……左から2番目のアレに乗ろうか……」
「はい!」
漁船。立派ではないが、悪くもない船だ。
ラーク姫は船を前にすると乗り込む前にポケットから小さめの袋を取り出し、錨を結びつけている場所にその袋も結びつけた。
「なんですかそれは?」
「お金よ!この国の姫としてはただでは奪えないからね!」
真面目だけど、姫だという自覚は忘れていないな。
「よし!じゃあバレないうちに出発しますよ!」
俺は船に飛び乗ると、荷物を開いているスペースへと置く。
「ラーク姫も乗りましょう!」
俺はそう言い、ラーク姫へと手を差し伸べる。
「うん!」
ラーク姫は俺の手を受け取ると引き寄せるようにして船へと乗り込んだ!
ついに出発だ!
この国には長い間お世話になったものだな。
6年間か……。
ラーク姫はもっとだからな……。
ラーク姫も色々な思い出を噛み締めるようにこの水の国を見渡している。
「じゃあ出発しますね!」
俺は錨を外すと船はゆったりと連れ始めた。
そして俺は陸と船の間をそっと押し蹴ると船は沖を離れるようにして出発した。
「ついにだね!」
「そうですね」
俺は船の後ろの方へと行く。
「水魔法“噴水”」
俺は勢いよく水力を発生させると海面に叩きつけるように放つ。
――――――――
船は大きな反動をつけるとその魔法の勢いを受け取るようにして凄まじい推進力で発進して行った。
「ふ〜う……休憩休憩!」
俺はそう言うと揺られる船にそっと腰を下ろした。
「ゲッツァ君、これって方向あっているよね?」
「はい、多分大丈夫だと思います」
ラーク姫が持ってきた地図を開くと俺は指を刺した。
「ここから俺らはこのまま南の方へと進んでとりあえず、ナルーモナルっていう街へと向かう」
そうするとラーク姫はほうほうっと頷いている。
「で、ナルーモナルに着くのは明日の夕方とかだと思います。とりあえず着いてから詳しい予定を決めましょう!」
「わかった」
そんな会話をしているとラーク姫が俺の顔をずっと覗くように見てきた。
なんだなんだ?何か腑に落ちないのか?
「なんですかラーク姫?俺、俺何かやりましたかね?」
ラーク姫は俺をずっと見つめている。
あれ?どうしたんだろう?
――――――――
「ゲッツァ君さ、ラークって呼んでくれない?」
え……え……?
「いやいや、ラーク姫は姫ですから……そんな馴れ馴れしくは……」
俺は焦っている。
いや、呼びたいけども……ラークって。
「私たちはこの国から脱走してこれから追われる側の立場なのよ!それなのに姫なんて呼んでいたら他の人にバレちゃうじゃない?だからそういうリスクのことを考えて姫とは呼ばないでってこと!」
ああ……そういうことね。
まあいいけどね。ラークって呼べるのはいいことだよ!
「それと、敬語も禁止ね!もう私はこの国を出て一般人なんだからね。ただの同級生に敬語ってちょっと不思議な感じがして嫌だから」
敬語は流石に……。
でも、呼べるのは関係性としては向上しているからな。
「ラーク…………」
「うん?なに?」
ラークは俺の顔を覗き込むように見てきた。
かわいいいい!
この破壊力に俺は大丈夫なのかな?この先。
「やっぱり敬語はちょっと……」
「いや、ダメです!敬語は使わないでください」
「でも……」
「ダメです。姫からの命令です!」
「でもさっき姫じゃないって……」
「姫からの最終命令です!大人しく聞きなさい!」
そんな会話をしながら俺たち2人は水の国を旅立った。
正直に悲しい別れなんかはあったけれど、それ以上に楽しみの方が勝っているという感じ。
ここから魔界の最前線までは果てしなく遠い。
しかし、どんな事があろうと俺はラークひ……いや、ラークを必ずカルバーツに合わせて見せる。
朝日が昇る前の海面上で2人はゆったりと船に揺られてながら矛先を魔界へと向けた。




