2、カルバーツ
どうやら泣き疲れた俺は寝ていたらしい。
あれからの記憶が無い。というかカルバーツの腕が先ほどよりも暖かいようだ。これは昼寝にちょうど良い体温だ。
それに先ほどからおかしい。それはカルバーツと隣にいるダンテが血を流している。
ミュウラはダンテの背におぶられながら寝ている。なんて呑気なやつだ……。とも言えないな。俺も寝ちゃったから。
カルバーツはえらく息が切れている。
そんな状況からあたり一面を確認する。
――――え?
驚いたなんてもんじゃない。なんか得体の知らない生物達に囲まれている。
どういう状況だと考えるが、あれはどう考えたって魔物だ。
先ほどの母が言っていた魔界やら魔物やら魔王やらの話が現実味を帯びてきた。
しかも、右側にいるのなんてドラゴンじゃないか?
緑色の鱗に鋭い牙、背には翼。確実にドラゴンと呼ばれるやつだ。
そのほかにも神話に出てくるような生き物ばかりだ。というか神話は知らないけど……。
俺は今まで本は読んでこなかった。
それはもちろんサッカーしかしてこなかったからだ。
神話とかゲームとかやっていたらこの化け物達の名前ぐらいはわかっただろうに……。
「くっ……。囲まれちまったな……」
「ああ……。赤ん坊を抱えながらだと戦いにくい……」
それは申し訳ない。呑気に寝ているミュウラと違って俺は心の中で謝る。
「ダンテ!あと魔量マジックストックはどのくらいだ?」
「半分あるかないかだ……。カルバーツさんは?」
「俺はまだまだ大丈夫だ……!三日間は戦えるぜ!」
魔量マジックストック……。なんだそれは……。
「一つ提案なのだが聞いてくれるか?」
カルバーツはニヤリと笑う。その瞬間、緑色い棍棒のようなものをもった化け物がカルバーツに襲いかかる。
完璧にターゲットを俺に絞ってやがる。
俺の目の前に化け物の牙が向かってくる。
あ〜終わりだ……。
――ドスッ――
目を瞑っていたので何が起きたかわからなかったが、緑の化け物は地面に大量の血を出しながら倒れている。
「っ……。まだ話の途中だっていうのに襲ってきやがって……」
カルバーツの肘は返り血で染まっている。
カルバーツが肘打ちで緑の化け物からわたしを守ってくれたのだろう。強いな……。
「それで提案ってなんだ?」
ダンテはダンテで警戒心を強めながら訴えかける。
ダンテはさん付けなのに語尾は敬語じゃない……。変なやつだ。
「ここは俺に任せてくれないか……?」
カルバーツはまたもやニヤリと笑う。
「どうゆうことだ?」
「だから、俺が殿をしてやるからお前はミュウラを連れて人間界に行けっていう話だ!」
ダンテは目つきを変える。
「何を言っているんだ!それじゃお前とゲッツァはどうなるんだよ!」
え?俺は連れてってくれない前提で話が進んでる?
「俺は最強だ!こんなところで死にはしない……。でも、子連れだ。どうなるかはわからない……。白属性は未来だ。どっちかに何かがあっても大丈夫な選択をしなきゃ行けないと思う……」
かっこいいんだっけど……。俺は残る側確定なの?
「でも……。それじゃあ……」
「な〜に、さらさら俺もゲッツァも死ぬつもりはないからな!ただただ、最悪な展開を考えての提案だ!」
どっから見ても頭を使わなそうな顔なのにこんな提案ができるのか……。人は見かけによらないな。
「……。わかった……。華魔法“上級癒華ハイヒールフラワー“」
何やらダンテが魔術のようなものを唱える周りが光り出した。
――――
光が収まるとカルバーツのボロボロな体が癒えていく。
「ったくいいのによ〜こんなの!」
「また会いましょう!では武運を祈ります!」
そう言うとダンテは方向を変えると飛び出していった。
待って〜。置いていかないで〜。なんて声は出せない。赤ん坊だから。
急に飛び出したダンテを魔物達は視線を写す。
「ギョギーー〜」
魔物達は気持ち悪い音を立てて一斉に襲いかかった。
これは……。万事休すか……。
「氷魔法“氷河期グレイショー・ピリオド”」
カルバーツが何かを呟いてからの一瞬、俺は瞬きをした。
――――視界が……。氷……。
視覚遮断をしていたのは一瞬だ。その一瞬で先ほどまで目の前にいた魔物達は凍りついているのだ。
え……?先ほどから驚くことが多すぎる。
いきなり体の傷が治ったり、目の前の景色が北極のようになったりと……。
なんなのだこれは……。
俺を抱えているカルバーツに表情を移すと、またもや笑みを浮かべていた。
「ふっ。お前は凍らないでよかったな!」
笑顔で俺に言ってくる。
全くよくねえよ!とりあえず状況が飲み込めない。
この氷の仕業はカルバーツか……?いや、目の前の化け物達は凍りついているのだ。カルバーツ以外、そんなことできない状況だろう。
カルバーツがこれをやった……。
それに、『氷魔法』って言ってたよな……。魔法?
先ほど、ダンテもなんとか魔法とか言っていた。
もしかして、この世界は魔法の世界なのか……?
そんなことを考えていると、凍った化け物達の後ろからまた大量の化け物達がぞろぞろと出てくる。まるで、スクランブル交差点が青になった時のように……。
「さ〜てとっ!いっちょ派手にやりますか……」
カルバーツがそう言った瞬間、亀の恐竜版みたいなやつが奇声を上げて襲いかかってくる。
「氷魔法“氷槍アイススピア”」
亀の首の部分に生成させられた氷の槍が突き刺さる。
「ギャアオオ……」
亀の化け物は断末魔をあげてその場で息を断つ。
続けて、翼が生えた小さいドラゴン?的なやつが3匹、こちらも奇妙な音を出して突進をしてくる。
――――
一瞬で3匹の首が飛び散った。
俺の目には見えなかった。でも、背中に収められていた槍が抜かれているのを見ると、なんとなく想像がつく。
槍先からは血滴がポタポタと落ちてくる。
「ここから先は一歩も通さないぜ!」
カルバーツは鬼の形相だ。なんならこいつが一番の化け物かもしれない。
しかし、魔物の群れは数千、数万といそうだ。
カルバーツが強いのはわかったが、どれほどここを耐え抜くのか……。
片手には俺を抱えている。流石に全部を倒すと言うことはないだろうな……。
「なあゲッツァ!これから俺はこいつらを全部倒す……」
全部倒すのかい!
「よく目に焼き付けとけよ!これがカルバーツの実力だってよ!って赤ん坊に言ってもしょうがないか……」
まあ確かにしょうがないかもしれない……。けれど、これを全部って……。
片手には槍。もう片手には俺。敵は万。
こんな戦いにくい状況でよくそんなことが言える。
カルバーツは魔物の大群の中へと飛び込んで行った。
これは生後1日やそこらで体験できないことだろう。
俺を抱えながら戦うカルバーツ。
怒涛の勢いでカルバーツを囲い、命が尽きるまで襲いにくる魔物達……。
血飛沫が空に舞う。




