26、これから・・・
ラーク姫は立ち尽くしていた。
なぜここに……。
――クラッ――
俺はその場へと倒れ込んだ。
気がついたら相当怪我を負っていた……。
身体中が悲鳴を挙げている……。
こんな時に花魔法が使えたらよかったな……。
「ゲッツァ君!」
ラーク姫はこちらへと全力疾走をして駆け寄ってきた。
ラーク姫は俺の元へと駆け寄ると担いでいたカバンの中を探り始めた。
――――――
「あった!」
取り出したのはフラスコのようなガラスの入れ物だ。
中には、薄い桃色の液体が入っている……。
怪しい……。
「ゲッツァ君!これ!」
その、怪しげな液体の入った容器を突きつけられる。
いや、これと言われても……。
「もう……仕方ない……」
そう言うと、ラーク姫は俺の上体をそっと持ち上げると俺を正座をしているラーク姫の膝下へと乗せられた。
え……?
これって……もしかして……膝枕……。
そんなことを考えていると謎の容器の蓋をポンっと外した。
そして、俺の口の中へと無理やりねじ込んだ。
――――――
「ん……んん…んんん!!」
俺の口には桃色の液体が広がった。
味は何もしない……。
「さあ、早く飲み込んで……!」
もう飲み込まなければいけない状況だ。
――ゴクン――
飲み込んだ瞬間、俺の体には変化が起きた。
先ほどまで流れていた血が止まり、痛みがだんだんと引いていった。
これは……花魔法と同じようだ……。
全て飲み込むとラーク姫は容器を俺の口元から離してくれた。
「これは……?」
「回復ポーションよ!しかも上級……」
「いつも持ち歩いているんですか?」
「うん!何かあったようで一応ね!」
うん……。女の子らしい気が効くところがある。
「もう立てるでしょ?」
あ……。
もう少し……とはいかないよな……。
俺の膝枕タイムは終了した。
立ち上がるといつも通りに体が動く……。
体の隅々まで見ても本当に傷が全くない!
これは感謝しないとな……。
「ありがとうございますラーク姫……」
「いえ、とんでもございません……。それより……どういった状況だったの?」
そりゃあそうだよな……。
こんな大男が4人も倒れているんだし……。
俺でも、あまり飲み込めていない部分ではあるのだが……。
俺は状況をわかる限り説明をした。
この4人はどこかの誰かから指示をされて俺の抹殺を頼んできたということ……。
そして、その者はレオの名前を発していた事……。
そして、ラーク姫の話曰くこの白い服装は城を警備するための兵士だということ……。
一体、この国の裏側で何が起きているのか……。
「っていうことで俺を襲って来たんだよな……」
ラーク姫は頭を抱えた。
「レオが負けたことによってそれを腹いせに襲って来たってことかな……?」
「多分、そうなんじゃないか?」
7歳が頑張って考察を始めた。
前世では頭を使うことがほとんどなかったが、この世界では幼少期から頭を使い込んでいるから優秀だ。
「まあ私たちで考えてもキリがないお話ね……。今日帰ったらお母さんに報告をしておくよ!」
お母さまということは……。女王ということか……。
この国で1番権力がある存在だ!
なぜかこの水の国には王がいない。
そのため、女王が1番の権力として君臨している。
「ありがとうございます……!それより……ラーク姫はなんでここに来たんだ?」
俺はそれが1番気になる……。
こんな人気がないところに……。
「ちょうどさっき自主練を終えて学校を出た時にこっちの森の方で何やら騒がしかったから気になって来てみたんだ!」
俺は少年学校の近くの森を選んだ自分を自ら褒めよう。
正直にラーク姫が来なかったら不味かったかもしれないからな……。
「で、来てみたらゲッツァ君が激しくやられていたから助けて今これ……ってわけ!」
「本当にラーク姫が来なかったら不味かったよ……」
「それより、4人中3人は1人でやったんでしょ!どうやったの?」
ギクっ
これは疑われているな……。
白属性のことは絶対に悟られないようにしよう……。
「相手の……不意を突いて……。まあ運が良かったかな……」
「そうなんだね……」
よし、切り抜けただろう……。
確かに、この状況では水魔法だけでは切り抜けられないからな……。
俺の実力を知っているラーク姫は疑って当然だろうな……。
「ところでレオの名前を出していたんでしょ?」
「うん!でも、レオの指示ではないって奴らが言ってたよ……それに……レオは今日は俺がやつけちゃったし……帰りにあった時もすごい形相で俺のことを見ていたもんな……」
やはり、レオの名前が出ていた以上、レオが無関係だとは言えなくなる。
「う〜ん……。」
ラーク姫も頭を悩ませる。
「もしかしてだけど……レオが私とゲッツァが仲良さそうにしていたのが気に入らなかったとかかな……」
え……?
そんな可能性があるの……?
「え……レオってラーク姫のこと……その……好きなの?」
こんなの本人に聞くのは違うと思うが……。
「好きかどうかは分からないけど……一応、レオは許嫁だからさ……」
え………………?
俺は言葉すら出なかった。
許嫁だと……。
「ラーク姫って許嫁……がいたんだね……」
平常心……平常心……。
「そりゃあ姫だからね……。王族や、上級貴族には大体いるもんなんだよ!」
………………。
胸が苦しい。
何故だろう……。
その言葉を聞いた瞬間、俺の何かが壊れたようだった……。
「ん?ゲッツァ?大丈夫?」
気がついた……。
「う、うん……大丈夫大丈夫……」
……大丈夫だ……。多分……。
俺は大丈夫だ……。
そりゃあ、ラーク姫は姫さまだからいて当然だったよな……。
俺は何かに期待していたようだな……。
「許嫁がいるのにラーク姫は他の男の人と仲良くしていてもいいの?」
そんなことが本当に聞きたいのか……俺は……。
「うん!お母さんとかにはあんまり他の男の子とは仲良くしないようにとかは言われるけど……まあ大丈夫でしょ!」
言われているのね……。
確かにレオが許嫁ならさっきの態度には理由がつく。
自分を負化した相手が自分の許嫁と仲良くしている瞬間を見たのだ……。
それにラーク姫は俺の裾を掴んでいた……。
俺が同じ立場だったら俺もあんなような表情になるだろうな……。
それに警戒したレオの両親やフェルナンデス家のものから狙われるのにも納得がいくしな……。
今日あった襲撃の糸口もなんとなく見えて来たような気がした……。
このような襲撃がエスカレートしていったら強くなることだけを考えてやっていけなくなる気がする……。
それにせっかく俺を支えてくれているおばさんにも迷惑だってかかるかもしれない……。
これは俺だけの問題ではない……。
俺がラーク姫に近づけば近づくほど、悪い方向へと言っている気がする……。
そうとも言い切れないが……可能性は十分にある。
それに一歩間違えればおばさんもやられていた……。
もっとこの事件を深く受け止めなければならない……。
「ラーク姫……」
ずっと黙り込んでいた俺がようやく話しかけてくれたことにラーク姫の表情は緩んだ。
「どうしたの?」
……仕方ないことだ……。
「今日の放課後、魔道場で約束したこと覚えている?」
「うん!教室では話さないっていうことでしょ?ちゃんと覚えているよ!」
「やっぱり……約束を破ってもいい?」
「ん?やっぱり教室でも気軽に話そうってこと?」
――――――
「いや……やっぱり学校では話さないようにしようってことに……」
………………。
ラーク姫の表情は曇った。
それはそうだろう……。いきなりこんな線を引くような提案をしたのだ……。
「なんで……?」
少し間を空けてからラーク姫は聞く。
「確信はないんだけど……俺とラーク姫が仲良くすることによって色々な人に迷惑をかけているような気がするんだよ……。今日のだって俺とラーク姫が仲良くしていたことによってレオの立場を恐れたフェルナンデス家の襲撃だってことだってあり得る!」
「確信はないんでしょ!」
怒っているのかな……。
声のトーンが低い。
「確信はないけど……可能性はある……。可能性があるなら可能性の目は潰したほうが良いと思う……。第一に家族には迷惑はかけられないし……」
「でも…………」
それに関しては何も返してこない……。
ラーク姫も何かを考えているようだ……。
しかし、無言の時間でも俺の目から眼光を離さない。
「あの男が言っていたんだ!今日、俺がこの場所を選ばなかったら俺が寝込んだ隙を狙って奇襲をかけてくるってね!その場合、俺はまだしも……おばさんにも手を掛けると言っていたんだ……俺以外の人が関係ない理由で巻き込まれるのは……」
ラークは真剣な眼差しで俺の話を聞いていた……。
――――――
「わかったわ……」
ラーク姫は立ち上がると後ろの方をくるりと向いた。
立ち上がる瞬間も頭の角度的にラーク姫の表情は見えなかった。
「学校では話しかけない……。迷惑はかけられないもんね……。私の配慮のない行動のせいでごめんね……」
何もラーク姫が謝るような問題ではないけど……。
「ラーク姫が悪いわけじゃないよ!俺も平民という立場でありながらラーク姫に近づきすぎたのかもしれない……。俺もごめんなさい……」
「平民だからって……!そんなこと私に言わないで!」
ラーク姫は声を荒げた。
「平民だからってなんで仲良くしちゃいけないの?私が姫だから……。私が姫なのが……」
ラーク姫は目を擦るような仕草を見せた。
後ろ向きでよく分からないが多分、涙を拭いたのだろう……。
声も掠れている……。
「ラーク姫……」
冷たい風が森という新鮮な酸素と共に俺らに吹き当てた。
会話のない2人には風の音すら大きく感じる……。
「ごめんなさい……取り乱しちゃって……」
「いや、大丈夫だよ……」
俺は優しく声をかけたが……。そんな優しさなんて何が意味ないことがわかっていた。
「明日からは話さないようにするに気をつけるね……」
「うん……」
俺にはこの一言しか言えない……。
「あと、最後に……あなたは子供なのにどんな大きいものを背負っているの?」
そう言われると、ラーク姫は荷物を担ぐと走って向こうのほうへと消えてしまった。
子供なのに背負っているものが大きすぎるのはお互い様だろ……。
俺は今日……初めて女の子を泣かせてしまった。
荷物を背負い、木陰に隠した買い出した商品を持ち、家へと帰った。
「遅かったじゃない!」
おばさんは大きな声で飛び出してきた。
遅いなんてもんじゃないだろう……。
明らかにおかしいし……。
傷はラーク姫がもらったポーションで治っても服はボロボロ。
只事でないことがわかる。
しかし、何があったかなんて口が裂けても言わない。
これは俺がこれ以上、おばさんに迷惑をかけないためだ。
「ごめんなさい……」
俺は90度で謝った。
問い詰められるかな……。
俺の心臓の鼓動は早くなる……。
どう言い訳をしようか……。
そんなことを考えていると、俺の白い髪の毛に暖かい感触が乗しかかった。
――――――
「いいのよ!お腹、空いたでしょ!すぐに作るから待っててね!」
問い詰められなかった。
ただただ、優しいおばさんの手の感覚だけが残った。
俺は謝っている時、どのような表情をしていたのだろう……。
人の表情が見れても自分の表情だけはどうしても見れないものだ……。
おばさんのことだから何かを察してくれたのだろうな……。
そこから俺は美味しく暖かいご飯を食べ、暖かい風呂へと入ったあり、布団へとついた。
寝れないな……。
前にも、眠れない感覚はあったが、今回はちょっと違うような……。
前はなんか心臓が跳ね上がり、俺のことを無理やり起こさせようとしていた感覚……。
でも、今回は静寂の中を1人で彷徨っている感覚だ……。
長い1日だった……。
本当に……。




