9、魔法と格闘
ここはホールグリットのいつもの木の下。
俺とシーエーさんは実戦形式で修行を行なっていた。
「火魔法“火玉ファイヤーボール”」
俺の手から放たれた火玉はシーエーさんの顔目掛けて襲いかかる。
「甘いな……」
シーエーさんはそれをスレスレでかわすと右足で地面を強く踏み込んだ。
これから俺の懐に入るつもりだろう……。
俺は二、三歩バックステップをとり、自分の間合いで距離を取った。
「おう!いい動きじゃないかゲッツァ!」
自分のしたいい動きはすかさず褒めてくれる。
シーエーさんのいいところだ。
「ただ、距離を取るのなら魔法で行くぞ!水魔法“水槍ウォータースピア”」
水の槍が俺へと襲かかる。
「電魔法“電足エレキ・フット”」
俺は自分の足に電流を纒うと、電気の力を使いその攻撃から間一髪で逃れる。
俺が電魔法で数少ない技の一つだ。
「へっへへ〜!どうだ。驚いたか!ってあれ?」
魔法を避けた一瞬でシーエーさんから視線を外してしまった。
もう目の前にはシーエーさんがいない。
……ということは……。
「甘いな!」
――ドス――
背後から強烈な飛び蹴りが飛んできた。
俺は数メートルほど飛ばされる。
「痛って〜!」
背中がジンジンとする。
俺はうつ伏せの体勢のまま右手で背中をさすった。
「戦いの最中に敵から目を離したらいけないぞ!」
「は〜い!」
確かに、あそこで目を離さなければまだ、食らいついていけた……。
まあ、負けただろうけど……。
「そして、接近戦を避けているのも良くは思わないぞ!格闘術だって教えてやっているんだから、実戦でやらないと成長しないぞ!魔法でも一番火力が出るのは近距離なんだから……。そこは積極的に行かないと……!」
「は〜い!」
的を得ている。
近接戦は避けていた。
でも、5歳が大の大人に近接戦なんて怖くて踏み込めないよな〜。
まあ、それは俺がまだまだ力不足ってことだから仕方ないか……。
「そして……」
まだあるのかよ〜……。
「水魔法を一回も使わなかっただろゲッツァ!」
ギクっ!
「そうだったかな〜?」
適当に誤魔化してみた。
口笛をピピ〜っと……。
「こういう時にこそ挑戦しないとできるようにならないぞ!一応、これは実戦で水魔法を使うための修行なんだからな!お前は電魔法と火魔法しか使わないで……まったく……」
少し、呆れ気味だ。
これがシーエーが一番気にかけているポイントだからな。
「すみませんでした〜」
俺は体勢をくるりと変えて仰向けにした。
「空きあり!水魔法“水玉ウォーターボール”」
――――――
急いで生成したのだが……。水が固まらず自分の顔へとかかってしまった。
「ったく……。水魔法“滝壺”」
シーエーさんが詠唱した魔法は俺の上に大量の水を作り出した。
「へ?」
「もっと水を被ってろ!」
そのまま水は俺の顔へと大量に押しかかった。
とても重い。
滝修行をしている住職の気持ちだ。
これは不意打ちを仕掛けた俺の責任だ。
全て被ってやろう。
それから30秒ほど俺はこの水を被り続けた。
「気が済んだか?」
「はい〜………」
もうこれは体力的にと言うより精神的にきつい。
滝修行とはやる意味があるものだ。
ほんとに……。
「それじゃあ少し休憩にするぞ!」
「へい〜」
それから俺たちは少しの間、休憩をした。
カルバーツが最前線へと旅立ってから大体、一週間ほど経過していた。
いつも通り、俺はこんな感じだ。
水魔法は難しいな……。
魔法を始めたのが3歳だから一年にひとつの魔法を覚えるペースで成長できている。
でも、水魔法をマスターするにはもう少し、かかりそうだ。
それに、半年前から花魔法を別のところで習っている。
花魔法は主に傷や体力の回復をさせる補助系の魔法だ。
でも、これが退屈で退屈で……。
書籍を読み込み、そのあとは実戦的にやるのだが……本当につまらないし、できるようにならない。
やはり、俺は身体を動かしていないと覚えない身体なのかも知れない。
花魔法はもう6年ほどかかりそうだ。
それだけ、苦戦している魔法だ。
そして、まったく手をつけていないのが土魔法と草魔法。
両方、なんか地味そうだ……。
でも、これは言い訳ではないのだが、この魔界最前線の街、ホールグリットには土魔法と草魔法を教えてくれる人がいない。
いるにはいるらしいのだが……、最前線での戦いに忙しいし、アポが取れない。
それに、いざ命をかけて最前線に来たのに、子供のお守りなんて笑われてしまう。
この世界にもこの世界なりの事情があるらしい。
休憩が終わると、今度は魔法なしでの実戦形式の戦闘だ。
これはすごい嫌いなメニューだ。
接近戦……。
長距離じゃない分、緊迫感があり、一発一発の重みが変わってる。
実際に魔物と戦う時には武器に魔法を込めたり、自分の拳に魔法を込めることにより威力を上げることができる。
先ほど使った“電足エレキ・フット”がいい例だ。
あれは自分に魔法を纏い、活用する魔法。
直接的ではない魔法。補助魔法のうちに入るのだろう。
でも、この修行ではそれ自体も禁止だ。
己の素の能力を引き出す修行となっている。
前世では人と殴り合うことななんて無かったが、魔法の無い世界だったため、素の能力をマスターしていたつもりだったが……。
全然敵わない。
まあ、年齢の差があるからな……。
側から見たら幼児虐待だ。
まあ、自分で望んでいることだから文句は言えないけど……。
シーエーの拳は右左に散らされる。
ジャブ、ジャブ、ストレート……。そして、膝が飛んでくる。
大事なのは怖がらずに相手をよく見ること。
そうすれば、シーエーさんも加減はしてくれているので当たることは無い。
しかし、ここからデフェンスもしながら攻撃に転じることがいかに難しいか実感している。
手数が多いととにかく厄介だ。こちらの意識をどこへと張っていいか分からなくなる。
左、左……。のタイミングで、俺は顔を半分でスウェーすると、その回転軸を使い右拳を思いっきり回す。
これは入るだろう……。っと思ったが、ガードで防がれてしまった。
「この攻撃は良かったぞ!……でも手数が少ない。もっと手数を増やしていけ!」
「はい!」
できてたら苦労はしないのにな……。
――ビキッ――
俺の左足に電流が流れるような衝撃が走った。
左のガードに気を取られていた俺の死角から右のローキックがお見舞いされた。
この攻撃には悶絶だ。
「タイム!タイム!」
すかさずタイムをかけると俺は足を抱えたまま右に左に転がる。
これは……。花魔法を覚えておけば……。すぐに回復できるだろうに……。
こういう時だけ、花魔法を覚えたいというやる気が少しだけ出る。まあ継続はしないけど……。
「上ばっかりに気を取られすぎだぞ!魔物だと、空を飛ぶやつから地面から襲ってくるやつまで幅広くいるぞ!常に周りを見ることを心がけるんだな……」
「ヒ〜い!」
痛すぎて曲がった口をしぼめて返事を返した。
これを毎日、繰り返す。
側から見れば拷問のようだが、俺は充実していると感じている。
あの頃、朝からサッカーに打ち込んでいた時と同じだ。
それが魔法に変わっただけ……。それに魔法はとても面白くて好きだ。
やはり好きなものができるのっていいことだよな!




