エピソード7
「共に悪役になりましょうか」
そんな姫の言葉に、王子は感謝を述べた。
そして、王子はメリアッセンヌを呼び出し、婚約者候補から、内定を変更すると伝えた。
「殿下! それは、それは、あまりにも酷すぎます! 今までの姫様の献身を! 仇で返すと言う意味ですか!?」
本日の護衛として指名しておいた騎士は、王子が思った通りにメリアッセンヌを守った。驚き倒れたメリアッセンヌを抱き止めたまま、主君に反発する。王子はそんな騎士の姿に満足して、伝えた。
「ジュドー。お前も本日限りで私の解任する」
「……なぜですか!? 忠誠を誓ってきたではありませんか」
「お前の忠誠は本当に私にあるのか? メリアにあるのではないか?」
王子の言葉に言葉を詰まらせた騎士が、一度俯く。そして、顔を上げて王子を睨んで宣言した。
「……道を誤る主君に助言をするのも従者の役目です」
「……ジュドー、お前は隣国王女アイリアよりもメリアッセンヌとの婚約の方が価値があるというのか? 言葉によっては隣国と戦争になるぞ?」
王子の忠告に、騎士は慌てて黙る。しかし、視線は王子を睨んだままだ。
「……今の発言の責任をとって、殿下の護衛を辞します。ですから、せめて姫様を……姫様の献身に応えて差し上げてください。この方は、何も不義を働いておりません」
王妃となるべくして生まれ、王妃となるべく育てられ、王妃となるべく努力し続けたメリアッセンヌ。そんなメリアッセンヌの努力を無に帰すなと騎士が忠告する。
「そうだ。メリアに瑕疵はない。瑕疵があるのは、私だけだ。だから、メリアには最大限の配慮をしようと思う。メリアは自由の身だ。メリアには王家に養女として入ってもらう。そして、この私の瑕疵を止めようとしたお前には、褒章として王の養女を娶るのに相応しい爵位を授けようと思う。どうだ?」
頭の回る王子のことだ。すでにそのように動ける算段がついているのだろう。そう思い、差し出された甘美な提案に、騎士の瞳は揺れ動く。そして、手の中で意識を失っているメリアッセンヌを見て、決意したように顔を上げた。
「……姫様のご意志を尊重ください。この方は、何も悪くない」
騎士からの最大限の了承だ。メリアッセンヌ次第ではあるが、愛し合う二人が一緒になる未来が見えて、王子は嬉しそうに笑った。
「……ルーおにいさまのことだもの。もうそう決めて動いてしまっているのでしょう?」
目を覚ましたメリアッセンヌに、王子が今までのことを説明した。己でも気がついていなかった想いを、本人の前で指摘されたメリアッセンヌは頬を染め、視線を逸らした。そして、呆れたようにそう王子に答えた。
「メリア。私はね、妹のように可愛いメリアに幸せになってほしいんだよ」
「ルーおにいさま。あなたはきっとアイリア様に焦がれているのだわ。わたくしの、本当にお兄様のように大切なお方。わたくしは、あなたの幸せを願って身を引くわ。わたくしが一度王家に入れば、家との均衡は取れるでしょう。でも、わたくしがルーおにいさまの瑕疵になるのは嫌だわ。王妃にならない無価値なわたくしですもの。わたくしの瑕疵としてくださいな」
そう主張するメリアッセンヌの頭を撫で、王子が答えた。
「私のかわいいメリア。おにいさまの役割を奪わないでおくれ。妹分を守るのはおにいさまの仕事だろう?」
泣きながら、笑い合う二人をそっと支えるように騎士とアイリア姫が手を伸ばす。そうして四人は共に笑い、上を向いて立ち上がった。
後に、歴史書にこう残された。
「瑕疵ある王子として玉座に着いた賢王ルディは、アイリア妃と共に穏やかで豊かに国を納めた。夫婦仲はとても良く、笑いの絶えない王家であったという。この時代に発展した技術は今も使われているものがいくつもあるのは、周知のことだろう。また、ルディの義妹として前王の養女となっていたメリアッセンヌ姫は、近衛騎士ジュドーの治る侯爵家に降嫁し、侯爵領で名産品をいくつも生み出した。いまなお銘菓として残っているものも多い。こちらも夫婦仲は良好で、賢王ルディやアイリア妃との交流も盛んであったという」




