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短編小説

とあるギルド員の事件簿~辺境の村から来た少年が常識外れの強さをしていた件について~

作者: 東稔 雨紗霧

シリーズっちゃあシリーズですがこれ単体でも問題なく読めます

 「冒険者登録をしたいです!」

 「はい、畏まりました。文字は読めますか?」

 「はい!」

 「ではこちらに記入をお願いします」



  冒険者になりたいとギルドにやって来た少年にトドロキはギルド加入申請用紙を用意し、軽い説明をする。

 少年は緊張した面持ちでペンを動かし、記入が終わった紙をトドロキは受け取り確認する。



『名前  リク

 性別  男

 年齢  14歳

 出身地 ハジハジ村

 特技  無し』


 「ハジハジ村ですか、確か魔境に近いこの国の最西端に位置する村ですよね?」

 「はい!今まで出会った人達はみんな聞いた事が無いって言ってたのに、職員さんはご存知なんですね」

 「ええ、ギルド職員ですから各地の地名と位置はある程度頭に入っておりますよ。ハジハジ村には別のギルドがあった筈なのですが、どうしてこちらのギルドに?」

 「その、俺の村に来た冒険者のギーブさんって方がこの街のギルドで登録しているって聞いて、俺、あの人に憧れてて……」

 「なるほど」



 冒険者ギルドでは登録した冒険者に『ギルドカード』が発行される。

 カードには冒険者の氏名、性別、ランクと加入した際のギルドの地名が記入される。

 地名に関しては冒険者がランクアップした際や活動拠点を変えた際にその手続きを担当した地名に変更され、大抵の冒険者は本拠地としている地名を登録するが稀に「このギルドが好きだから」とか「お世話になったから」と推しギルド感覚で本拠地とは別の地域のギルドで登録している冒険者もいる。

 冒険者ギルドはこの国の各地にあり、各地のギルドは連携しているので手続き的には何の問題も無く、彼の様に推し冒険者と同じギルドの地名を冒険者カードに明記したいからと態々登録しに行く者も一定数いるのだ。



 「特技は無しと記入されていますが、魔物と戦闘になった際に身を守れる武器はありますか?」

 「えっと、このナイフがあります」



 少年は腰ベルトに付けていたナイフを鞘ごと外してカウンターに置く。



 「ナイフで魔物との戦闘経験は?」

 「あります」

 「お一人でですか?」

 「はい、ここまで一人で来たのでその道中で何度か」

 「では、冒険者として登録したい職種等はありますか?」

 「えっと、俺、自分がどの職種に向いているのか分からなくって、ここのギルドで適性職を判断して貰えるってギーブさんが言っていたので見て欲しくって」

 「なるほど、分かりました。では早速適性職診断を行いましょう。エスメラルダさん」

 「は~い」



 背後に呼びかけたトドロキに明るい声で返事をしながらエスメラルダと呼ばれた女性職員がやって来る。



「こちらのリクさんが適性職診断をご希望ですので、よろしくお願いします」

「承りました~。ではリク君はこちらにどうぞ~」

「は、はい!」



 トドロキにぺこりと頭を下げ、リクはナイフを腰に戻してエスメラルダの後を追って行った。

 その後、次々に来る冒険者や仕事を捌いているとエスメラルダが困った顔をしてトドロキの元へと戻ってくる。



 「トドロキさ~ん」

 「おや、どうかされましたかエスメラルダさん?」

 「ちょっと私の判断では手に余るな~と思いまして~」

 「おやおや」



 眼鏡のブリッジを中指でクイッと押し上げたトドロキはカウンターを他の職員に任せてエスメラルダと共にギルドの一角、診断場所にしている訓練所へと向かう。



 「リクさん、申し訳ありませんがもう一度診断をやり直してもよろしいでしょうか?」

 「は、はい」



 冒険者には大まかな職種として剣士、格闘家、狩人、槍使い、盾使い、盗賊、魔導士、テイマーがある。

 それぞれそこから魔法剣士や聖騎士、白魔導士等の派生した職種へと自身に合った戦闘スタイルを見つけて極めていく。

 その為に適性職診断をする際には全ての職での初級技術に該当する内容でテストするのだが。



 「あ、あの、俺、何か失敗しましたか? やっぱり、俺程度なんか冒険者になれないですか?」

 「いいえ、リクさん。寧ろ逆です」

 「え?」

 「才能が有り過ぎて適性職が絞れないんですよ」



 リクは剣、弓、槍、盾、鍵開け、斥候、魔術、調教、それら全ての技術において高い能力を持っていた。

 剣を振れば用意されていた訓練人形を一撃で真っ二つにし、弓は百発百中、槍を使えば訓練人形の胴体が泣き別れする程の穴が空き、盾で軽々と敵を吹き飛ばす。

 鍵穴に針を突っ込めば二秒と経たずに錠は開かれ、耳を澄ませば訓練場内の人間の位置全てを正確に把握し、回復やバフ、結界等を担う白魔術、攻撃や妨害、デバフ等を黒魔術も難なく使え、用意されていた魔獣を容易く従えてみせた。


 これは判断に迷って助けを求める訳だとトドロキは納得する。

 エスメラルダはその人物の向き不向きを判断するのに特化した鑑定眼を持っており、その才能を生かして適性職診断を行っているのだがその彼女ですらリクの成長率は未知数だと言う。

 その説明をトドロキはリクにするが、何故か彼は浮かない顔をしていた。



 「それって、結局はどれか得意な物が無くてどれも中途半端って事ですよね。俺、故郷では剣も弓も槍も魔術も全部誰にも勝てなかったんです。村のみんなは凄く強いのに俺は村で一番弱くって、二歳下の妹ですら一人でワイバーンを捕まえられるのに、俺は一人だとワイバーンを殺すしかできなくって、よく馬鹿にされてました」

 「リクさん、普通ワイバーンはAランクがパーティーで討伐する物です」

 「ドラゴンも一撃で撃ち落とせないのに……え?」



 一度、眼鏡を押し上げたトドロキは屈んでリクと目線を合わせて優しく微笑む。



 「リクさん」

 「は、はい」

 「貴方の『自分は中途半端だ』と言う評価は間違っています。正しくは『貴方は誰よりも才能に溢れており、何にでもなれる』です」

 「で、でも……」

 「故郷では剣も弓も槍も魔術も全部誰にも勝てなかったとおっしゃいましたが、それは一人の人間に対してですか?それともそれぞれ別の方ですか?」

 「えっと、剣はアーサー兄さん、弓はベンじいちゃん、槍はフーリンおじさん、魔術はニコラ姉さんです」

 「それぞれに師事していた方がいたのですね。では、それぞれの方々は貴方が勝てなかった事以外の能力でも秀でていましたか?」

 「……え?」



トドロキの言葉にリクはパチクリと目を瞬かせた。



 「……考えた事も無かったです」

 「リクさん、人は誰しも向き不向きがある、それは当然です。貴方の周りにはその『向き』が特に特化した方々が多かったのでしょうね。貴方の言う中途半端は他に器用貧乏とも言い変えられますが、逆にお聞きします。器用貧乏の何がいけないのでしょうか?」

 「……」

 「確かに何か一点に秀でているのは素晴らしいですが、その一点だけではどうしても弱点が生まれてしまう物です。ですが、器用貧乏であればその弱点も自分で補う事が出来る。つまり……」

 「ごくりっ」

 「貴方の憧れるギーブさんの様に単身でSランク冒険者になる事も夢では無いと言う事です」

 「!!」

 「では、これらの事を踏まえてリクさん。私は貴方が冒険者として大成出来ると信じています。その為にもまずは貴方はご自身の能力の高さと強さをきちんと正しく認識して下さい。実力に伴わない自信の無さと謙遜は不要な軋轢や争いを生む種になります」

 「は、はい!」

 「貴方の認識と世間での常識の齟齬を無くす為にリクさんにはまずいくつかのパーティーへと見学加入をして頂きます」

 「見学加入?」



 聞きなれない言葉に首を傾げるリクにエスメラルダが説明をする。



 「冒険者に憧れてはいるけど~、具体的にどんな事をしているのか知らないな~って人とか~自身の適性職に迷っている人が実際に魔物と戦っている冒険者の様子を見学して考えたいな~って人の為にギルドでは見学する為にパーティーへ加入できる制度があるのよ~」

 「見学加入できるパーティーの指名はこちらで決めさせて頂きますが、学びになる事は多いかと。如何ですか?」

 「……俺、見学加入します!」

 「分かりました、では手続きをいたしましょう」



 屈んでいた背筋を伸ばし、トドロキは見学加入申請をする為にリクと共にギルドカウンターへと戻った。



 「では、明日リクさんが見学加入する為のパーティーがここに来るので時間に遅れない様にして下さいね」

 「はい!」

 「渡した紙にはクエストを熟す際の注意事項と冒険において必要とされる基本の物が書かれているので良く目を通しておくように」

 「はい!」

 「ではまた明日」

 「ありがとうございました!!」



 振り返りながら大きく手を振って笑顔で去って行くリクにトドロキも手を振り返す。

 彼の姿が見えなくなってからポツリと感慨深気に言葉を漏らした。



 「流石、噂に名高いハジハジ村ですね。14歳にして単身でワイバーンを狩りますか」

 「トドロキさ~ん、一人で納得していないで説明を貰っても良いですか~?」



 トドロキの言葉を耳聡く聞き付けたエスメラルダが椅子ごとトドロキの近くに寄って来る。

 ギルド内を見渡し、カウンターに暫く人が来なさそうだと判断したトドロキは眼鏡をクイッと押し上げ、エスメラルダの雑談に乗る事にした。



 「ええ、良いですよ。そもそもエスメラルダさんはハジハジ村をどの程度までご存知ですか?」

 「えっと~、高レベルの魔物が多数生存している魔境に最も近い場所にあると言われている村ですよね~?」

 「ええ、そして在籍している冒険者が最も多い場所とも言われています」

 「まあ、魔境に近いからそれはそうでしょうね~」

 「ちなみにこの在籍している冒険者の殆どはハジハジ村で生まれ育った町民の方々で、ギルドに登録できる14歳以上の方は基本的に皆冒険者登録をしているそうです。その理由は魔物の素材を少しでも高く買い取ってもらう為です」

 「ギルドに所属している方が手数料とか掛かりませんもんねぇ~」

 「ええ、そして彼らの多くは農作業のついでに出て来た地竜や放牧している牛を守るついでにドラゴンを狩ったりしています」

 「……そんなついでで狩れる存在でしたっけ~?」

 「ついでに言えば彼らにとっての冒険者登録は駆除した害獣を手数料無しで買い取って貰える資格に過ぎない物で、冒険をして名を上げる広義の意味での冒険者の意味で考えている人は少ないそうですよ」

 「はえ~、あれ? じゃあ、リク君はその環境で何で広義の意味での冒険者になりたいって思えたんですかね?」

 「十中八九ギーブさんでしょうね。エスメラルダさんは彼と面識はおありで?」

 「いいえ~、ギーブさんってばトドロキさんが推しだから~って毎回トドロキさんの所でしか手続きしませんよね~?」

 「彼の趣味は冒険者を勧誘する事で各地で冒険者に向いてそうだなと判断した方に声を掛けては冒険者職の布教活動を行っているそうですよ」

 「奇特なご趣味なんですねぇ~」



 身も蓋も無くそう言い放ったエスメラルダにトドロキは笑う。

 奇特な趣味だと、最初はトドロキもそう思っていた。



 「ギーブさんがそう言った活動をして下さっているお陰で内のギルドは新規加入者や登録者が他のギルドよりも多いんですよ。そのお陰で他のギルドよりも多めに予算が割り振られているんです」

 「え、そうなんですかぁ~?」

 「予算が多ければ設備や冒険者の方への補償等の支援も充実出来る上に、こちらが皆さんへとそう言った手当を厚くすれば冒険者の方々もこのギルドへ根付き易くなり、更にはクエストで訪れた他の地域でここの良さを語って加入者を増やす……そう言った好循環になっているんですよ」

 「はぇ~、凄いですねぇ~」



 ちなみに言うと、リクがこのギルドに来るだろうと言うのは事前にギーブからトドロキに手紙が届いていた。

 手紙には『素質は十分にあるんだが、周りの環境に押されて発揮できないでいるんだよ。なんとかトドロキさんの方で良い感じにしてやってくれや!』と書いてあったのだが、それはエスメラルダに話さなくても良い事だ。

 そうしてトドロキがギーブから頼まれた通りに良い感じにしていった結果、見学加入体験の後に正式に冒険者登録をしたリクはあっと言う間にAランク冒険者へとランクアップしていった。



 「今度、Sランク冒険者のレンさんと一緒にレッドドラゴンを討伐しに行く約束をしたんです!」

 「おや、それは良かったですね」

 「はい!レンさんは本当に優しくって、色んな事を俺に教えてくれて本当に良い人なんです!!」



 鼻息荒く、目を輝かせてレンがどんなに凄くていい人なのかを語るリクにトドロキは微笑む。

 レンは嘗て仲間から役立たずだと罵られてパーティーから追放された過去のある男だ。

 その経験からパーティーを組まず、基本的に一人でクエストを熟している。

 明るく素直で自分の事を純真にしたってくれるリクとであれば彼もまたパーティーを組んでも良いと思える日が来るかもしれない。

 いくらSランクで強いとは言っても何事にも不測の事態は付き物だ。

 一人では何かがあった時に大変だと心配をしていたトドロキはこのままレンがリクに絆されてくれる事を願うばかりだ。



 「あ、じゃあ俺そろそろ依頼者さんの所に行かなきゃなんでこれで失礼します!」

 「ええ、お気を付けていってらっしゃいませ」

 「はい!」



 笑顔で手を振って出ていくリクを手を振り返して見送ったトドロキはさて、と眼鏡を中指でクイッと押し上げる。



 「次の方、どうぞ」


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