記録されるということ
A群(地球)における記録とは、「戸籍」や「履歴書」、あるいは「監視カメラ映像」や「SNSの投稿履歴」など、出来事の痕跡を残すための概念であった。
しかしこの世界において、“記録”とは存在そのものを定義し、現実に縫い留めるための行為である。
記録されないものは、やがて存在しなかったことになる。
■ 1. GIAにおける“記録”の概念
GIAの中で使われる「記録」は、単なる履歴や文書情報ではない。
それは、対象の存在を“世界に確定させる”行為であり、言い換えればこの世界に“あなたがいた証拠”を植え付けるための処置である。
この世界では、記録されない現象は観測されないものと見なされる。
そのため、記録こそが秩序の基盤であり、GIAが活動する最大の理由となっている。
■ 2. 記録されると何が起こるのか
あなたが記録された瞬間から、世界はあなたを“存在するもの”として認識する。
空間的存在の安定化
→ 転位に伴う時空不安定や肉体の断裂が修復され、GIA世界の“法則”に適合した存在へと固定される。
歴史との照合
→ 必要に応じて、あなたの存在は“この世界における履歴”として埋め込まれ、世界の整合性が保たれる(ただし一般社会には公開されない)。
認識の共有
→ あなたの存在情報は必要最低限のレベルで社会的に開示されるため、一定の手続き下で他者との接触が可能となる。
■ 3. 記録されなかった場合
逆に、記録されないまま存在し続けると、次のような現象が発生する:
物理的消失現象(Reversion Drift)
→ 時間経過とともに周囲から“忘れられる”ように存在が薄れ、最終的には消失に至る場合がある。
この消失は肉体的にも精神的にも完全であり、最悪の場合、**“存在しなかった者”**としてGIAの記録からも回収不能となる。
接触障害(Cognitive Slippage)
→ 周囲の人間が迷入者を“見えない”と感じたり、“そこにいたことを思い出せない”などの認識障害を起こすことがある。
情報干渉
→ 過去の出来事に矛盾が生じ、歴史記録との齟齬が発生することで、“世界の整合性”に裂け目を作ってしまう。
■ 4. 記録は誰にでも可能か
記録の対象には一定の条件があるが、迷入者であるあなたはすでに条件を満たしている。
よって、本ファイルを受け取った時点で「仮記録」は完了しており、正式記録手続きは初期面談後に完了する。
ただし例外として:
明確な意識を持たない個体
転位時点で存在が不安定なもの(例:精神的統合のない多重存在)
外界からの異常干渉を受けた痕跡が強いもの
などは記録拒否の対象となる可能性がある。
この場合は、観測対象としての一時封鎖措置が取られ、回収または分析処置が優先される。
■ 5. 記録が失われた場合
GIAの記録は堅牢だが、稀に発生する“記録消失事案”も存在する。
記録汚染(Log Contamination)
→ 外部からの情報干渉により、記録データに歪みが生じ、事実と異なる形に上書きされる現象。
記録破損(Log Collapse)
→ 管理システムそのもののエラーや、強力な外因干渉により記録が物理的・論理的に破壊される現象。
このような場合、該当個体の“存在の安定性”そのものが脅かされるため、GIAは即時対応を行う義務がある。
■ 6. “記録”が意味する秩序
GIAはあらゆる事象を記録する。
それはただの報告ではなく、“記録することで秩序を保ち、未来を確定させる”という強い理念に基づいている。
あなたが今ここにいるのは、記録されたからだ。
逆に言えば、記録されていなければ、あなたは存在していないも同然だった。
この世界では、“記録”こそが最も根源的な秩序であり、
それがあなたを「現実に繋ぎとめる」ための、唯一にして最大の手段なのだ。