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好きな女の子に告白しようとしたら既に学年1モテる男子と付き合って、どうやら振られてたみたいです。〜 盛大に勘違いした俺が告白に至るまでの軌跡(奇跡)〜

作者:

 「なあ(かなで)? 今日機嫌いいよな。 何かあったのか?」

「ん。 ちょっと。 数学の点数良かった」

「へぇ〜。 俺は73点だったけど、そんな奏は何点だったんだよ?」

「100点」

「ぐはっ。 負けた。 完膚なきまで負けた。 すげーな奏。 いつも100点じゃねぇか」

「数学……得意だから。 でも、国語は苦手」

「あぁ。 確かに文法問題苦手だもんな奏は」

「うん。 また修くんに教えて欲しい」

「オッケー。 なら放課後にでも一緒に勉強するか?」

「ん……分かった」


 そんな会話を一人の女子と交わし、俺は席についた。高校3年の秋にさしかかる頃、俺、近藤(こんどう)(おさむ)にも遂に好きな人が出来た。

 それは今、会話を交わしていた同じクラスの東雲(しののめ)(かなで)だ。

 奏は無口で大人しい。小柄で華奢(きゃしゃ)で男からすると小動物みたいな子で思わず守ってあげたくなるようなそんな女の子だ。始めは小動物みたいで可愛い奴だなくらいにしか思っていなかったのだが、よくある気付いたら好きになっていたというやつだ。


「なぁ修。 お前よく奏ちゃんの機嫌とか分かるな。 俺には全然、分からねぇわ」


「えっ? 見りゃ普通に分かるだろ。 奏機嫌よさそうにしてたし」


「いや、全然分かんねぇよ。 奏ちゃんて普段から表情あんま変わらんし。 クラスでも分かるのはお前くらいなもんだぞ」


「そう……なのか?」


「自覚ないのかよ。でも付き合ってるんだろ? 奏ちゃんと」


「っ!! 付き合ってない。 今は……」


「そうだったのか? 皆お前と奏ちゃん付き合ってるかと思ってたんだが。 ひよっとかすると俺にもチャンスがあるかもしれんな」


「やめろ。 奏には手を出すな」


 そんな冗談と直ぐ分かる言葉にもついつい本気で反応してしまう俺は、奏にどっぷり浸かっているのだろう。ホント子供だ俺は。


「ははっ。 嘘だよ嘘。 でも、付き合ってないのなら早く付き合っちまえよ。 奏ちゃんて意外と陰で人気だからな。 お淑やかで可愛いってな。 他の男に取られてからじゃ遅いぜ」


「ああ…………分かってるよ」


 隣の席の山田から助言混じりの声をかけられたが、事実、奏は陰で男にモテている。俺と同じく華奢で小動物みたいで守ってやりたくなるような姿が、男心をくすぐるのか、男共から人気を得ていた。

 確かに俺は奏でとよく一緒にいる。ただそれだけの関係だ。今の関係は友達以上で恋人未満。それ以上でも以下でもない。細かい仕草や表情から感情が読み取れるからといってそれは他の男からしたら何のアドバンテージにもなっていない。

 今の関係が心地良いというのは確かにある。一緒にいるだけで、何気なく普通に言葉を交わすだけで、こんなにも嬉しく感じるなんて恋をしなければ分からなかった事だ。


 でも、もし振られたりでもしたら。友達以下の知り合いにすらもなれない関係に最悪なってしまう。奏と言葉を交わすこともなく学校生活をそのまま終わっていくのかと思うと死ぬほど怖い。

 それに付き合うには、たった3文字「好きだ」と言葉にして奏に伝えるだけなのに、それを言葉で発する勇気が俺にはない。

 ヘタレだと言われても、今の関係を維持したいと思うのは、きっと俺に覚悟が足りないせいだろう。


 山田からあらぬ事を言われた俺は授業が終わるまで動揺して奏と付き合う事ばかり想像してしまっていた。このままの状態で放課後の勉強は大丈夫だろうか? 意識し過ぎて勉強をちゃんと教えられるのかと、少し不安になった。



 ◇



 放課後、俺は奏と一緒に国語の勉強をする為に図書室に向かっていたのだが、少し奏の様子がいつもと違った。さっきまで嬉しいと言っていたのに、今は嬉しいどころか悲しそうな表情を浮かべている。

 数時間の間に何かあったのだろうか?俺はそんな事を思い奏に問う。


「奏。 何かあったのか? なんか様子が変じゃないか」


 そう奏に言うと奏は歩くのを止め、俺の方に向き直った。その時の奏の顔が俺には嫌な予感がしたんだ。


「一郎と………別れた…………」

「え………………?」


 一郎? 一郎ってあの宗一郎のことか? 学年でもトップクラスの頭脳明晰、スポーツ万能、極めつけが容姿端麗と学年カースト上位に入る(つくだ)宗一郎(そういちろう)。あいつはバスケ部のエースで去年も地区大会優勝。バレンタインじゃ本命チョコを30個以上貰ったって伝説を作った高校生ながらにして既に人生勝ち組のような存在。 そんな奴と奏は付き合ってたのか?


「そう……なのか?」

「うん……………………」


 嘘だろ。 嘘だと言ってくれ。奏は俺ではなく他の男と密かに付き合っていた。 しかも完璧超人みたいな佃宗一郎とだと?

 それは奏の顔を見れば分かる。 嘘ではなく本当に付き合っていて心から佃の事が好きだったのだと。 奏の涙を溜めて堪える姿に俺は心に大きな穴が空いたかのような喪失感を覚えた。 


「今日は勉強会中止にしよう。 奏もその方がいいだろう?」

「うん……………ごめんなさい(おさむ)くん」


 そう言って俺はその場を離れた。

 初めての感情。俺の心が悲鳴をあげた。好きだった奏が他の男を想い、あんな顔をするなんて、その場に長居したら今の俺はバラバラになって死んでいただろう。


 その後の俺は家に帰って死んだように過ごした。食べた夜ご飯は何の味もしなかったし、何を食べたかさえも思い出せない。いつの間に風呂に入って着替えたかも分からない俺はベットの上で大の字に寝転んでいた。


 はぁ。 


 溜息しかでない。 奏があんな顔するなんて。 


 冷静に考えたら、奏は可愛い。他の男が他っておくには勿体ない存在じゃないか。

 俺が知らない間に佃と知り合い、付き合って、知らない時間を一緒に過ごし、沢山思い出を作っていてもおかしくないだろう。

 想像すると涙が出そうだ。

 俺は自惚れていた。山田の言う通りだった。取られる前に付き合っておけと。それに奏をあんな顔にさせる佃宗一郎は一体何を理由に奏を振ったのだ?

 佃の噂はクラスの違う俺の耳にも入ってくる。人当たりよく面倒見の良い奴で、頭の悪い奴にでも誰に対しても平等に扱うような、はっきり言って悔しいがいい奴だと。

 互いの仲を取り持つのは好きじゃない。率直に面倒だからだ。だけど、俺は奏が好きだ。今回の件ではっきりと分かった。死んでしまうと心をえぐられた程、俺の心は奏一色に染まっちまっている。

 そんな奏が泣くほど悲しんでいる。俺は奏と付き合いたい。でも、奏が佃とまだ寄りを戻したいと考えているのなら、俺の気持ちはもうどうでもいい。後悔しているがこれは最初で最後だ。奏の幸せを一番に考えて佃との仲を取り持つよう動こう…………そう思った。




 ◇



 夜が明けて俺は一睡も出来なかった。ぐるぐると奏での事が頭を離れずに気持ちだけがどんどん(たかぶ)っていく。


 そんな時にいつもの公園で待ち合わせた奏の顔を見ると(まぶた)が腫れていた。


 なんだよ。奏、お前、一晩中泣いてでもいたのかよ。


「奏……………大丈夫か」

「ん………………大丈夫」


 顔見りゃ分かる。大丈夫な訳ないだろう。眼まで赤くして泣き腫らした顔して。あいつの事ずっと想ってたんだろう。苦しくて、辛くて俺みたいに一晩中考えて、それでも忘れられなかったんだろ? 俺の前だけでは強がるんじゃねぇよ。


「………………(かなで)

「うん」


 やめろ。 絶対に言うな。 奏の事を想うなら、その言葉は奏にとって迷惑だ。自己中心的な考えはやめろ。と、俺の頭の中でそう叫んでいる自分がいた。でも、奏の顔を見たら昨日の夜に押し殺した筈の感情が俺を抑えきれずに爆発した。


「好きだ」

「え……………?」


 唐突の告白に奏は驚いただろう。普段から表情は少ないが、明らかに驚いた顔をしている。だけど抑えきれない想いは俺の口からとりとめなく溢れ出てきてしまっていた。


「宗一郎の事なんて全部忘れちまえよ。 俺だったら、奏をもっと幸せにする。 もっと笑顔に変えてやれる。 どこの誰だか分からんような奴より絶対に奏を幸せにするって約束する。 だから奏、そんな悲しそうな顔するな。 俺がずっと一緒にいるからっ」


「――――――――っ!!」



 両手で顔を隠してはいるが、隙間から徐々に紅く染まっていく奏の顔は分かる。それが嬉しくてそうなっているのか何なのかは今の俺には分からない。でも、言わずにはいられなかった。 俺の感情が奏の悲しそうな顔を見たら抑えきれなかった。

 振られたばかりで気持ちの整理もついてないのに、俺にいきなり告白されて奏もきっと迷惑だろう。そう思った時だった。


「嬉しい……修くん」


 そっか。やっぱそうだよな。嬉しいよな。嬉……え? 嬉しい? 俺に告白されて嬉しいの? 迷惑とかじゃなくて? そうか。奏は振られて傷心して、俺に告白されて喜んで………。 あれ? いかん。 奏の感情が分からな過ぎて頭が混乱してきた。


「え? 告白迷惑じゃないの?」


「え?  迷惑じゃない。 それに『えっ?』て何? これ……………………冷やかしなの?」


 二人の間に思わぬ沈黙が訪れる。分からんが、今奏とちゃんと話しておかないと不味い気がした。


「だって奏は佃宗一郎と別れて傷付いて、昨日一晩中泣いてたんだろっ? それで俺も悲しませたくないからってお前の事好きだから一晩中考えて…………」


「宗一郎じゃない」

「え?」


「一郎って名前。 ハムスター」

「………え? ハム……スター?」


「昨日、授業中に一郎が死んだってお母さんからメールが来て、一郎とちゃんとお別れ出来なかったから悲しくて」


 え? え? えっ?

 俺はまさか、一郎の事を勝手に佃宗一郎と勘違いして焦って告白でもしたというのか?


 しかも相手はハムスターだと………?


 俺は………なんて事しちまったんだ。


 いや――――――――――っ!!!


 恥ずかしさ通り越して死にたいっ。

 今すぐ死にたいっ!

 誰かこの勘違いして告白したヤローを今直ぐに殺して下さいっ!!! お願いしますっ!!

 穴があったら入りたいっ!!

 存在が消えてなくなるくらいのところまでどうか俺を地中深くまで入れて下さいっ!!! 


 そんな死ぬ程恥ずかしそうになってる俺を奏は優しく手を握って応えてくれた。


「修くん……ありがと。 告白嬉しかった。 私も修くんの事好き」


「あ…………」


 なん……だよ。 俺が一番聞きたかった台詞を俺が望まない形で迎えてしまったじゃないか。


 でも、振られるより1000倍マシだ。形がどうあれ、俺は奏と両想いと分かっただけでも嬉しいし、恥ずかしいなんて、そんな小さなこと今となってはどうでもいいじゃないか。


「俺と付き合って下さい。奏」

「うん。 こちらこそ………お願いします」


こうして俺の壮大な勘違いから生まれた新しいカップルは、奏のハムスターに一郎と名前をつけた事から始まった。





   ◇


 付き合い始めてから三週間程経った時、俺は奏の家に初めて招待された。飼っていたハムスターを紹介してくれると言ってくれたからだ。


「奏が言ってたハムスターってこれか?」


「うん。 二郎と三郎」


「ネーミングセンスっ!!!」


「む〜っ。 名前に文句つけないでほしい」


「あっ、はい。 すいません」


「でも、一郎が修くんを告白までさせてくれた恋のキューピットだから、この名前つけたの間違いじゃなかった」


「そうだな。ヘタレな俺に勇気を与えてくれた名前だ。 今では俺の背中を後押ししてくれたと思って感謝してるよ」


「ずっと…………好きだったから……奇跡だよ」


「えっ? 奏」


「もう。 鈍感だな……。 大好きだよ」


 ちゅっ。


こうして二人は高校生活が終わった今も、いつまでも仲が良かったそうだ。

お終い。

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