第8話 ショップ店員
そろりそろりと、樹木の影から部屋の内を窺う。
「なん、だ。アレは……」
ゆらゆらと揺れる影。
幽霊、亡霊、化生、亡者。
黒い影に手が生え、赤い目と口だけが目立つ。この世ならざるモノが、何食わぬ顔でダンジョンに立っていた。
さすがの物怖じしない僕でも、二の足を踏んでしまう。しかしここで踏み出してこそ冒険者。
「ええいままよ!」
いつか使ってみたかった台詞No3を吐きながら、モノノ怪の下へ。
「ようこそショップへ(>∇<)へ」
【選択肢】
1、攻撃する
2、対話する
3、実は美少女説に懸ける
ほほう……。
【3、実は美少女説に懸ける】
「店員さん。それ本物の姿じゃありませんよね」
「む……鋭いお客さま! しょうがないですね」
ぽわんと視界に雲がかかる。
晴れて。
「ようこそショップへ(>∇<)へ」
つば広帽子を被った、水色の髪の美女に大変身だ。
「本当に美人じゃん……」
「えへへ~、ありがと~(*/´ω`)」
照れ照れと声だけで伝えてくる。表情に変化はない。本当に微塵も、一切変わっていない。
「……なんだかギャップがすごいな。あのどうしてこんなところでお店を?」
「雑貨屋はどこにでも馳せ参じるのですっ<(`^´)>」
胸を張っている。ただし顔には出ていないし、棒立ちで腰に手を当てているだけ。とんでもなくキャラの濃い美人だ……。
「そうなんですか……。あの、ダンジョンの魔物とかではないんですよね……?」
おそるおそる、一応の確認である。
「しつれいです! ヽ(`Д´)ノプンプン」
「す、すみません」
ぺこりと頭を下げる。ちょっと申し訳ないか。そりゃ魔物と間違えられたら怒りもする。
「わかればよろしいで~す(^∇^♪」
どうにも、やりにくい人だ。ただでさえ美人ってだけで童貞には厳しいのに……コミュの難易度が高いぜ。
「おかいものして行きますか(?>_<?)」
「えっと、見せてくれると助かります……」
「任せて~!ようこそショップへ(>∇<)へ」
ズラリとアイテムを見せてくれる。
商品がどこにあるのかと言うと、普通にホログラムというか、空中ウインドウというか、やたらSFチックな感じだった。
ファンタジーでもゲームでもなく、妙にサイエンスフィクション風味。
感慨はさておき、アイテムである。
"おいしいおみず"
"エリくさー"
"洗濯ネット"
"おにぎり"
"ES"
他色々。
お水とおにぎりとESを買わせてもらう。ESはエネルギーシールドの略だ。
魔法防御力が高めの盾装備である。この世界特有の、装備しても見た目には大して影響ない系だ。
……そう考えるとちょっとエロゲっぽいな。
「色々見せてもらいました……。失礼しましたー」
「ありがとうございました(^_^)/~ 分身置いておくので、いつでも来てくださ~い(^~^)/」
そそそ、と小部屋を後にする。
「ふぅ」
良い買い物をした。しかし魔物でもないしダンジョン由来でもないなら、ショップ店員さんはどんな存在なのだろう。
ゲーム的に言うならば、どこの街にもある固定ショップのような立ち位置か。チェーン店的なアレである。考えても仕方ないか。
収穫はあったが、ダンジョン攻略には繋がりそうにないなと……。
「いつの間に……」
通路の真ん中に、謎の魔法陣が浮かんでいた。予兆も何もない。何がトリガーだったのか不明だ。……行くか。
「冒険者足る者、足踏みせず勇み進むべし」
格言その一。今僕が考えた。
いざ魔法陣へ。