第6話 森の遺跡
「ほほー……」
転移。そして流れるBGM。迷宮っぽい音楽だ。
開けた視界には人工的な景色が映る。
森の中の遺跡、謎解きギミック。そういう類のアレだ。
床は黄色と緑のタイル。樹木の壁に複数の小部屋。それぞれの部屋に影が見えるので、内部で何かが起こる仕組みだろう。
遺跡内をしばらく歩き回り、小部屋以外には何もないことを確認する。
タイルのことも考えると、やはり天然ではなく人工と考えられる。
ダンジョンが意図を持って作り出した遺跡だ。
「……よし」
一つ一つ熟していこう。
手始めに、入口から一番遠い小部屋。
中にはロボットが一体。
「……」
攻撃は仕掛けてこない、か。おそるおそる近寄ると。
「エロ本、いるか?」
【選択肢】
1、いる
2、いらない
【1、いる】
ハッ、咄嗟に体が……!
「ここにはない……」
「いやないのかい!!」
叫びは部屋に木霊し、ロボは薄れ消えていった。
「なんなんだ……」
わけがわからないよ……。
内心呟きつつ、緊張を解き部屋を調べる。
謎の草藁。逆転した窓のようなドアのような何か。以上。
特に何かがあるわけではなかった。
考えつつも、隣の小部屋へ。いたのは見るからに王様な雰囲気の人。
「――儂が王じゃ」
「急すぎる……ていうかここダンジョンの中なので、普通に敵ですよね?」
いきなり話しかけないでほしい。勢いで攻撃しそうになった。危ない。
「やりおるの……ならば何故話をする」
「意思疎通できる時は対話から始めるべきかなと」
あと、この人弱そうだし。
「そうか。ならば、望みを言うがよい。褒美をやろう」
【選択肢】
1、結構です
2、ドロップアイテムは?
3、パンツ知ってます?
【1、 結構です】
「あ」
反射的に選んでしまった。そして王様は薄れ消えていった……。
「ほんとなんなんだよ……」
さっきから急に消えるじゃん。魔物だとしても役割果たせてないよ。ドロップアイテムかお金ください。あと経験値。
諦め、次の部屋へ。肉体に疲れはないのに、心は無駄な疲労を感じていた。
三つ目の部屋である。
部屋の内には騎士のような男性……すごく顔色が、悪いです……。
「俺は聖騎士。聖王様に仕える剣士だ」
【選択肢】
1、顔色悪くないですか?
2、ダンジョンに聖騎士なんているわけないだろ!
3、なんで女騎士じゃないんだ……。
【1、顔色悪くないですか?】
「バレてしまったらなら仕方ない。死ねぃ!!」
さっと選んでしまっただけなのに、勢いで斬りかかってくる。
咄嗟に跳び避け、既に引き抜いていたナイフを走らせた。
「っぱ魔物!!」
「ぐぬぁ……!」
閃光!討滅!
「顔が緑色過ぎるんだよ……」
相変わらずの一撃必殺で魔物は息絶えた。
残されたのは"ディスペルハーブ"とかいうアイテム。状態異常完全回復草らしい。
「……何も言うまい」
すごく毒喰らってそうな顔色してた人(魔物)からこういうのもらうとね、あんまり使いたくないよね。
そっとアイテムボックスへしまい、別の部屋へ。サクサク行こう。
「じゃんけんしようぜ! 負けたら天国な!!」
「いきなり過ぎるし最悪だ!!!」
【選択肢】
1、パ
2、チ
3、グ
ええ……。
【3、グ】
「ぐ、ぐーぱん……やる、じゃねえ、か……ぐふっ」
「か、体が勝手に……でもまあ魔物だからいいよね!」
人型の魔物はがくりと膝を折って崩れ落ちた。
じゃんけん勝利である。報酬は何もない。
「……はぁ」
部屋を後にする。次だ。
とぼとぼと通路を歩き、別の部屋へ。
外から内を窺うと、真面目な顔で瞑想している人がいた。和装のような、隊服のような。見たことのない格好だ。
僕が話しかけるまでもなく、先に声をかけてくる。
「よっ。最近暇しててなぁ。お前はどうよ?」
「超馴れ馴れしいな……あの、誰ですか?」
「かー! 忘れちまったか!? 俺はコウタだよ!ガキの頃、一緒に遊んだろ?」
記憶の奥底に眠る前世の記憶……。
言われてみれば確かに。
コウタ君。たぶん小中学校のどっかで同級生だった。遊んでいたかもしれない。
遥か昔の同級生たち。今頃どうしているだろう。皆、老人のはずだ。生きている人はいたとしても、まさか僕が異世界転生して意味不明な冒険してるとは夢にも思っていないだろうな……。
「もしもあなたがコウタ君……だったとして、ここで何を?」
「そりゃお前、ここで待ってるんだよ」
「何を?」
「男装嫌いなクソ野郎をぶっ殺そうと思ってたんだ!」
目を見開く。油断していた!!
【選択肢】
1、逃げる
2、先制攻撃
3、対話継続
【2、先制攻撃】
「この展開は先手必勝!!!」
油断はしても、短剣術は取り回しの良さが利点だ!
故に!
「必殺!!」
「ぐぁあああ!!」
悪は散った……。
奴は「男装嫌い」と言っていた。それすなわち、男装教団そのもの。
「……ふぅ、教団か。気をつけよう」
困ったものだ。
やはり信じられるのは看板だけ。神様もちょっとアレだったし……ほんと頼れるのが看板変態メイドだけとか色々終わってるね。
「……まあ、ダンジョン攻略しようか」
気を取り直してダンジョンである。
隣の部屋へ移り、村人っぽいお姉さんに話しかける。どう考えても魔物だが、対話を忘れてはいけない。
「あの」
「こんにちは」
「ええ!?!?」
猫だ。黒猫だ……。
「失礼、間違えました」
「うぇええ!?!?」
最悪だ!神様だ!!!!
「野生の 神が 現れた」
「なんで!? 何が!?」
くっそぉ、どうしてこんなところで……!!
「なんでも構いませんが、私は暇なので適宜あなたで遊ばせてもらおうかと」
「傍迷惑が過ぎる……」
暇だからで僕のところ来ないで。嫌な予感しかしない。
「さて、では私に話しかけてしまったあなたには試練を与えなければなりません」
やっぱりだよ!
「い、いやだ!!僕は逃げるぞ!!」
「残念ながら選択肢はありません。戦いましょう。闘争は悦びです」
「うわああああああ!!!」
【VS自称神/Battle BGM:God's proclamation】
――――――
――――
――
「そこそこ楽しかったです。褒美はあげましょう。ではまた、次の機会を楽しみにしています」
「もう来ないでください!!!!!!」
神様はしゅるりと消えた。
残されたのはボコボコにされ床に倒れ伏す僕……。
「……くそ」
なんで僕がこんな目に。
こんなの絶対おかしいよ!僕は……僕は……。
「はぁ」
回復しよう。
ささっとスキルで回復し、よろよろと立ち上がる。
神様の攻撃は防御しないと瀕死になるクソ技しかないので、守りに徹するしか生き延びる方法はない。……いや、今は不死身の黒レースパンティがあるからなんとかなるけど。
こちらの一撃必殺スキルは当然効果なし。避けて守って生き延びた。死ぬかと思った。
しばらく休もう。冒険には休息も必要なのだ……。