第41話 街の変化
テントや石の建物がある中、とりあえずはサクが入っていった建物へ行く。ドアを開けて入ると、鉄と石の部屋が迎えてくれた。
「来たんだね。まだ熾したてだから期待はしないでおくれよ」
へそ出し肩出しスポブラのような軽い格好で、サクがやってくる。
不思議なことに、これだけ露出が激しくてもドキドキすることがなかった。
彼女の境遇故か、筋肉故か、もしくは単純な僕の好みか。
好みの場合、アヤメちゃんばかりにドキドキしている僕がド変態ロリスキーになってしまうので考えたくない。
「はぁ……」
溜め息で思考を散らす。
近くではフリフリと綺麗な銀髪を揺らすアヤメちゃんが「これはなんですか?」「これはこれは?」とエイラに聞いて回っていた。
ツカツカと、石の床を叩いてサクが隣に立つ。
「あの子、良い子だね」
「はい」
「大事にしてあげるんだよ」
「ええ」
「こんなナリのアタイが言うのもアレだけど、女ってのはいつまでも夢見てるもんだからね」
「夢ですか」
僕がイチャイチャラブラブ童貞卒業を夢見ているようなものだろうか。……いや今のそんな低俗な話じゃないか。
いや?僕の夢は低俗じゃないけど???
「ああ。好いた男に守られたい――そういうもんさね」
ふざけたことを考える自分を殴り消しておく。
サクの凛々しい横顔から、アヤメちゃんの可愛い顔へ。
「じゃーん! これでわたしも剣士です!」
「アヤメ様に剣士適正はないので、振り回すと危険です。下ろしてください」
「はぁーい……」
どう見てもお子様と保護者なやり取りに微笑ましくなる。
「……くく、あの子にはまだ早いかもしれないね。ユウリ、気張りな。長命種は大変だよ」
「……まだそういうのじゃないんですけどね」
まだ。
一応は。
好いた男、か。アヤメちゃんの"好き"は、いったいどんな色をして、どんな形をしているのだろう。
彼女の好きの何もかもがわからないけれど、少なくとも。
「……」
緩く首を振り、アヤメちゃんの下へ。
少なくとも、僕の"好き"はまだ恋ではない。
恋という感情を、僕はまだ知らない。
「悪いね、ユウリ。悩ませちまったかい?」
「……いえ、大したことないので。それより何か用があったんじゃ?」
サクは「あぁ」と頷きアヤメちゃんとエイラを呼び寄せる。
パーティーが集まったところで、ゴタゴタと机の上に物を置いていく。
短剣、盾、靴、腕輪、首輪、そして鎧。
気のせいでなければ、どれも僕かアヤメちゃんのどちらかが装備できる品物だ。
もしや、と目で問う。
「はは。そうさね。どうせ他に客はいないからね。試作って言うのもあるから全部とは言えないけど……一応、礼も兼ねてるんだよ」
ぽりぽりと腹筋を掻いて言う。良い腹筋だ……。
「わぁっ! くれるんですか!!?」
「だめです。お金は払おうね。ただでさえサクは貧乏なんだから」
「く……貧乏なのは事実だけどね。そうも言われると……くく、笑っちまうよ」
「え。サク……お金なさ過ぎて頭が……」
「そんなんじゃないさね。どうにも、"貧乏"なんてことが楽しくてさ。くくっ」
不思議そうな顔のアヤメちゃんを撫で、サクの抱いた気持ちに小さく微笑む。
細かく言うのは野暮ってものだ。
「アヤメ。完成したらあんたとユウリにプレゼントしてやるから、楽しみに待ってるといいさね」
「! はいっ!!」
和やかに、鍛冶場の熱を感じながらしばらく装備品を見させてもらった。
軽い別れを告げ、サクの鍛冶屋を出て別の店へ行こう――として。
ごく自然に露店を開くメイドを発見する。
黒髪ホワイトプリムが眩しいメイドと目が合ってしまう。
「――いらっしゃいませ、ご主人様、お嬢様」
「ええ……」
「ミサキ! こんにちはですっ!」
「はい、御可愛いお嬢様。こんにちは、にございます」
特に動揺なく笑顔で挨拶するお姫様。
きゃっきゃと女子トークに励む二人を他所に、なんでも知ってるエイラさんに尋ねてみる。
「ねえ、ミサキのこと知ってた?」
なんでいるのとか、実体じゃんとか、いろんな意味を込めての質問だ。
「? はい。彼女の保持エネルギーはエイラ以上です。単純な戦闘では9割負けます。存在を感知できないわけが……」
そこで何やら見下しの気配を感じ取る。嫌な予感だ。
「あぁユウリ。あなたは感知できなかったのですね。可哀想に。人間やめますか?」
「やめない」
「そう言うと思いました。なので死にそうな際はエイラがカバーしましょう。友の尻拭いも精霊の仕事です」
「うぐ……すみません」
予想通りにメンタルダメージを受け、ふよふよ浮くエイラを追ってメイドの下へ。
「ご主人様。私奴、新しく事業を御興し致しました」
「それは、うん……ただの露店だよね?」
「うふ♡ はしたないことをおっしゃらないで……♡」
「なぜ……!?」
何気にリアルメイド初めてなのに、全然初対面な感じがしない。相変わらず彼女の思考も理解できないし追いつけない。気疲れする。
全部メイドが綺麗で美しいから悪い。童貞に美人は効くぜ……。
「ミサキ。ここはどんなお店なのですか?」
「ふむ。――では商品をお見せ致しましょう」
一つずつ紹介してくれる。
ぬいぐるみ、ボディミルク、ヘアミルク、お菓子。
メイドにしては可愛らしいデザインの商品だった。洗練さや完璧さがない、手作り感あふれている。ボディ・ヘアミルクも既製品感がまったくない。
「プレゼントは親しくなるには手っ取り早いものにございます。タイミングを見計らってプレゼントし合うことを推奨いたします♡」
アヤメちゃんと見つめ合って、笑い合って。
「たいみんぐばとるですねっ!」
「プレゼントバトルだ!」
子供っぽい自覚はある。でもこれで良いと思う。
時には同じ目線に立つことも必要なのだ。いつでもプレゼントできるよう、いくつか手元に置いておこう。




