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剣と魔法の同棲生活RPG※ゲーム制作進行中  作者: 坂水 雨木
第1章 銀の少女と砂乙女
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第40話 名もなき荒野の街

 気恥ずかしくも絆深まるやり取りを終え、食事やシャワー、なんでもない話まで終える。

 疲労が溜まっていたのか、泥のように眠り、翌朝である。


 スッキリした気分で起き上がる。

 ベッド近くのテーブルには一冊の手帳。アヤメちゃんの交換日記だ。


「読んでから起きようかね……」


 呟き、開く。


「はは」


 可愛い文字でピラミッド調査と教団バトルについて書かれていた。楽しかった、次の冒険が楽しみ、と。


 ロカとの激しい戦いも、アヤメちゃんにとっては一つの思い出に変わっているらしい。勝ったからこそそう言えるのだろうが……それにしたってすごい。


 次は僕がお返しする番。

 困った。どんなことを書こうか。



 ◇



 数日後。

 時間が飛んだような気もするが、ピラミッドの状況調査に行ったり砂漠を調べたりと忙しく動いていた。ロカたち教団支部を潰して何か変化があるかと、冒険ついでに調べさせてもらったのだ。


 結果として何もなかったので良い。何よりアヤメちゃんが日々楽しそうだったので良い以外に言えることはない。


 調査も終わり、色々落ち着いてからの今日である。

 まったりゆっくり朝を過ごし、日光浴と散歩を兼ねて外に出る。


「……わぁ」


 出てすぐ、街の変化に気づいた。

 僕の後ろから隣に並ぶお姫様もまた察し、キランと目を輝かせた。


「街が育ってます!!!」


 大喜びなお姫様の言う通り。


 言葉選びはさておき、僕らの拠点が成長していた。具体的には建物ができた。

 何か骨組みは作ってるなと思ったが、こんなすぐできるとは。魔法様様である。ファンタジーおかえり。


「――おぉ、ようやく来たかい。待ちわびたよ」


 スタスタと僕らに寄ってきたのは街人Aの女性だった。なにげに初街人で嬉しい。ショップ店員さんは店員だし、砂漠は旅していても過酷過ぎて人なんかいなかった。


「もりもりです……!」


 街人の女性は金髪の、凛々しいマッチョだ。良い筋肉をしている。羨ましい。

 お姫様は人見知りを発動し僕の背に隠れてしまった。興味津々にマッチョを見ている。


「こんにちは。街が発展してて驚いたんですけど何かご存じですか?」


 知り合いっぽく話しかけられたけれど、ウルトラ社会人の僕に死角はない。敬語スキルは万全だ。


「やれやれ、気づかないようだね。アタイだよ、サクさ」


 マッチョさんは肩をすくめ、ニヤリと笑う。

 サクだって。――サク!?


「!?」

「!」


 言われてみれば面影がないことも……。


「……変わりすぎでしょ」


 僕の知るサクは爬虫類っぽい鎧着た山賊みたいな人なんだけど。確かにマッチョではあったが、こんな彫りの深いマッチョ女性ではなかった。


「聞いてないのかい? アンタのとこの精霊――エイラに呪術を解いてもらったんだよ」

「そうなんだ……」


 ちらとエイラを見る。


「治験は必要ですから」


 しれっと変なことを言っていた。まあいい。

 とりあえずサクは教団に呪いを掛けられ、それをエイラが解呪したと。そんな話のようだ。


 経緯はともかく、サクが元気になったのならよかった。やっぱ太陽光を浴びるのは大事だよ。サンパワー万歳。


「サクも街に住むのですか?」

「ああ。そのつもりだよ。まさかここに"ショップ店員"が居るなんて思わなかったけどね」

「え。あの店員さんって、そんなすごい人なんですか?」


 確かにキャラの濃い美人だとは思ったが……。


「なんだいユウリ、ショップ店員を知らないのかい?」

「すみません物知らずで……」


 曰く、"ショップ店員"とは。


 ・魔法使いの頂点足る、魔女の家系

 ・空間魔法の真髄を体得した魔女免許の取得者

 ・とてもつよい

 ・魔女の店在る処に発展の兆在り


 と。

 要はとても便利な雑貨屋だ。超安全なコンビニみたいなもんである。


「ショップ店員がいるなら、こんな何もない土地でもやっていけるからね。ちょいと古い伝手を使って、気の乗った奴らと街作りってわけさ」

「ほー」


 毒気の抜けた明るい表情。良い顔だ。


「サクはどんなお店なんですかっ?」


 相手が知り合いだとわかって元気になったアヤメちゃんは、サクの露出した腹筋をちょんちょんしながら聞いている。


「くく、アタイは鍛冶屋さね。故郷でも鍛冶はやっていたからね。ま、のんびりやっていくよ」


 サクに指を掴まれ遊ばれ「ぴゃ~♪」と喜んでいるお姫様だ。


 優しい眼差しに僕も頬を緩める。

 のんびり。のんびりか。


「うん。のんびりね」


 再出発なのだ。時間はある。足踏みしながら、時々立ち止まって生きていけばいい。長い長い、旅路なのだから。


「アンタらも気が向いたら店に来な。試作品でいいなら売ってやるさね。ユウリ、アヤメ、エイラ」


 サクは僕らの名前を呼んで。一拍置いてから。


「色々と、悪かったね……ありがとうよ」


 続けた。

 気恥ずかしそうに頬を掻いて自分の店らしき建物に入って行く。


「ユウリ、ユウリ」

「うん、うん。なに?」

「サク、ぽやってしてました!」

「ぽやって……?」


 よくわからないが、雰囲気の話だろうか。ぽやぽや。それっぽい。


「そうだね。元気そうでよかった」

「はいっ」


 アヤメちゃんと二人、笑い合う。

 サクはもう大丈夫だろう。あの笑顔が見られただけで、手助けしたかいがあったってもの。


 何はともあれ、街の店も見てみるか。

 ロカを倒してから何も情報がないんだ。次の冒険について考える材料がほしい。


「ユーリユーリ」

「はいはい」

「看板が呼んでますっ」

「あー……」


 建物の前に看板か。お姫様と一緒に湧き水池前の看板へ。


『メイドは副業が忙しいため一時休業中にございます』


 わざわざ知らせる必要のないことが書かれていた。別に書いてもいいけど、光ってアピールしないで。


「ミサキ、死んじゃったんですね……」

「死んではないと思うよ」

「さらば、メイドよ」

「勘違いを助長しないで」


 くすくすと笑うアヤメちゃんは冗談を言っていたようだ。

 可愛いので頭をなで繰り回しておく。


「きゃ~っ♪」


 可愛いお姫様と共に看板を後にする。

 またそのうち会えるだろう。さらば看板、さらばメイド。また会う日まで。

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