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剣と魔法の同棲生活RPG※ゲーム制作進行中  作者: 坂水 雨木
第1章 銀の少女と砂乙女
37/43

第37話 VS男装教団幹部

 まずは様子見だ。相手の戦い方も能力も、何一つわからない状況で突貫はできない。

 BGMも盛り上がっている。緊張感ある、強者との戦いを演出してくれている。


「即死スキルを持っているようだがワタシには効かない」

「ッ」


 刹那の動揺を捨てる。ここまでの戦いを見られていたのだろう。迂闊だった。……しかし、一撃必殺を使わないと僕はただの足手纏いになる。


 考え方を変えるのだ。効かないなら戦法を変えよう。アヤメちゃんの超火力をメインにしていけばいい。


「ユーリ、ユーリ」

「な、なに? 戦闘中だけど……」


 あまり意識を逸らしたくないが、お姫様に裾を引っ張られてしまった。


「わたし、まだあの人のお名前を知りませんっ」


 ……どこに居てもアヤメちゃんは可愛いね。


「……じゃあ自己紹介しよっか」

「はいっ! わたしはアヤメです! この人はわたしのお友達のユーリ! あなたのお名前はなんですか~!!?」


 少し距離があるので大きく叫んでいる。可愛い。

 教団の兵士はというと。


「……おい、男」


 眉をしかめ僕を見ていた。残念だったな。僕は姫様の味方です。


「あ、僕はユウリです。よろしく」

「チッ。貴様もか。なんだそのガキは。どこから連れてきた」

「はぁ。人が名乗ったのに名乗り返さないとか、大人としてどうなんですか? 男装教団が如何に常識のないつまらなくて低俗な集団かわかっちゃいますね」

「そうです! 大人ならちゃんとお名前おしえてくださいっ!!」


 敵の人はものすごっく苛立った様子で銃を乱射してきた。


 ――ドガガガガガガ!!!


 主武装の一つは銃か。確かにそれっぽいのを持っているようにも見えたが、魔法の杖か棍か何かかと思っていた。まさかの銃。


 だけども。


「ふっ……!」


 避ける、避ける、超避ける。

 見てから回避、余裕です。


 強化された童貞だから。いや童貞職業とか嫌な――。


「――いっつう!?」

「ユーリ!」


 痛い。かすり傷だ……!

 弾丸が肩を掠めた。わかってはいたけど、僕の基礎ステータスは全然敵に追いついていない。まともなのは素早さくらいだ。


「大丈夫。かすっただけ」

「ユーリのカタキはわたしがとります!!!」

「――友よ、さらば」

「ただのかすり傷だけど!?!?」

「どこまでもふざけた奴等だ!!!」


 苛立った様子で、ズザァ!と距離を詰めた敵兵が手に持つ銃を突き出してくる。


 銃――ではない。槍銃だ。先端に鋭い刃がついていた。


 銃と槍を組み合わせた中遠距離の達人。それが例のあの人のバトルスタイルらしい。ちゃんと強い。けど逃げに徹することでなんとか戦えている。


「彼女の名前はロカです。冷槍のロカ。そう呼ばれています」

「!?!?!?」


 解説のエイラさん! 教団兵もとい、ロカに"動揺"の状態異常を付与だ。やるね!


「ふふーん、じこしょうかいしてくれなくても、お名前わかっちゃいますっ。エイラはすごいんです!」


 逃げ上手なだけの僕と異なり、アヤメちゃんは敵の銃槍をかいくぐり打撃を叩き込んでいた。

 槍の穂先を上手く合わせられ、すべて逸らされている。アヤメちゃんの超火力に気づいているのだろう。


 姫様がなんでエイラのことでドヤってるのかわからないけれど、可愛いからいい。


「ロカか……知らない名前だ」

「何故ワタシの名を知っている……貴様、ただの精霊ではないな……!」

「裏社会の人間ですからね。冒険者には知らない者も多いかと。特にユウリのような童て……初心者童貞には縁がありません」

「今言い直す必要あった???」

「対話するつもり無しか。……ふん……手早く片付ける……!!」


 ロカが呟いた次の瞬間、和装がひらめき視界に槍の軌跡が映る。無数の弾丸が僕の身を穿ち、連続槍撃を受けたことで背後に大きく吹っ飛んだ。


 アヤメちゃんが心配そうにこちらを見るが、向こうにも同様の攻撃が襲っているため言葉すら発せられないようだ。大丈夫、ギリギリ合った視線で伝える。


 地面を転がり、痛む体をすぐに起こす。


「危なかった……。パンツがなければ死んでいるところだった……」


 咄嗟にパンツをひらめかせて不死身になったのだ。死ぬかと思った……。


「……何故、生きている」


 向こうでロカが目を見開いていた。

 超びっくりしている。わかるよ、その気持ち。パンツとか不死身とか意味不明だよね。


 隙だらけだったのでアヤメちゃんが吹雪をお見舞いしていた。マントで体を隠し防いでいる。なかなかやる。


「何だ、その顔は?」


 ロカは防御しながらもイラッとしていた。わかるよ、その気持ち。僕も同じ事されたらイラつくから。パンツで不死身も、不意打ちもイラつくよね。


「アヤメ様、お怪我はありませんか?」

「ふふーん、"こうげきはさいだいのぼうぎょ!"ですっ。ぱんちで防御しました!」

「さすがです、アヤメ様」


 近くでは異次元の会話をしている二人がいた。

 先の全体攻撃をどうやってパンチで防いだんだ……。妖精連続パンチか。やはりアヤメちゃんは可愛い。


「……ふん、想定より力を持っているようだな」

「ハハ」


 空笑い。

 僕もいつか、パンツに頼らず戦えるようになろう。


「ふー……」


 深く息を吐き……地面を蹴る!


 ロカの銃弾にはいくつかの種類がある。

 浴びてきた感じ通常弾(小)・通常弾(大)・魔弾の三つがある。喰らっていいのは一つ目だけだ。残り二つは衝撃を受けて弾き飛ばされてしまう。


 避けて、受けて、受けて、受けて!


「貴様……!」

「一応の"一殺"!」


 穂先で身を貫かれつつ、"童貞一殺"を決めた。ロカの申告通り戦闘不能にはならない。


「「厄介だな……」」


 台詞が被る。向こうは僕の不死身が。僕は向こうの一撃必殺無効のカラクリが。


 不快そうに目を細めたロカは、わかりやすく僕から距離を取る。遠距離攻撃に徹し始めた。


「えいえい!えーい!!」


 ナイフで連続パリィを決めている最中、アヤメちゃんが新体操選手のようにぴょんぴょん跳ねながら近接戦を行っていた。リーチの差で不利なのは姫様だが、あの子にはそれを補うほどの身体能力がある。


「やぁー!えいやっ!」


 銀髪をなびかせ空を蹴り、当たり前に二段ジャンプをかましたかと思えば上空を蹴って急降下。槍を滑らせ下段蹴り。後ろに跳んだロカヘ追撃の連続パンチ。


 左、左、左とくるくる回転殴打を繰り返す。速度に乗った姫様の打撃が槍を捉えるも、ロカは柄を回転させ上から叩きつける。銃槍を棍の要領で使っていた。


「むっ!!」


 ふわり、とバク宙だ。そのままサマーソルトキックで槍を弾き、地面に手をついて大きく足を開き回転蹴り。重力に沿ってスカートが落ちる間もなく、ロカの銃撃槍撃を防いだ。


 激しい攻防の最中も、ロカはずっと僕への銃撃を行い続けていた。銃の角度を上手く操り、あらゆる弾丸をお見舞いしてくる。


 けれど、さすがのロカもアヤメちゃんの超近接戦闘を片手間で熟せはしないらしい。明らかに僕への意識が散漫になっている。


「チィ!」

「とぉー!!!」


 可愛い掛け声の割に攻撃は苛烈だ。宙に浮いたままひたすら下蹴りを繰り返している。上を取られたロカは鬱陶しそうに弾き続けている。


「……どうするか」


 助っ人に行きたいが、僕の能力じゃついていけない。ステータスが足りないよ。

 試しに気配を消して忍んでみるが、背後に寄った段階で気づかれてしまった。ギリギリナイフが届かない場所で腕に槍を突き刺され、ロカの正面へ投げ飛ばされる。


「はれ!? ユーリっ!?!?」

「ごめっ!!」


 ちょうど氷結魔法を繰り出そうとしていたところに飛ばされ、慌てたアヤメちゃんにキャッチされた。


「ユーリゲットです!」

「ゲットしないで!」

「えへ~♪」


 楽しげ笑顔なお姫様だが、敵は待ってくれない。


「死ね」


 チャージされた魔力が弾丸を打ち出し、青白いレーザーとなって僕らを襲う。ここまでで一番太く強大なエネルギーを感じる。


 接触は必至。であれば!


「アヤメちゃん吐息!!」

「ふーーー!!!」


 叫ぶ前に姫様の氷結吐息が前方に吐かれる。一瞬にして氷点下以下となり、衣服に霜が降りる。極大魔力のレーザーとぶつかり、熱と冷気が真っ白い蒸気を生み出す。


「"色欲流転"!!」


 ほんの僅かな隙にスキルを行使する。

 一撃必殺が便利過ぎてそればかり使っていたが、僕の職業には"童貞一殺"以外にもちゃんとスキルがある。


 "色欲流転"。メイン効果は素早さ上昇。倍率はなんと二倍以上。

 素早さだけならまだ周囲に追いつける僕だ。二倍となれば、アヤメちゃんとロカにも負けない!


「アヤメちゃん!!」

「ふーっ!!」


 返事はできない。"こおりのといき"の欠点は喋れないこと。

 呼吸を整え、足に全開の力を込めて踏み出す。お姫様横抱きキャッチ!!


「ふーっ!みぃあ!?」


 そのままレーザー範囲から脱出!


「見えているぞ!」


 そこに待ち構えるロカへ、アヤメちゃんを全力投球だ。一瞬の視線の交錯で、お姫様はすべてを察してくれた。


「みらくるぱ~~んち!!!です!!」

「チィィ!!?」


 そんな技はない!けど、運気全開黄金パンチでロカを殴り飛ばした。ヒュン!ズドンッ!!と壁にめり込み、ガラガラとトタンが崩れ落ちる。


「はふぅ……」

「アヤメちゃん、ありがと」

「えへ。ユーリこそですっ」


 短く言葉を交わし、固まらず次に備える。絶対にロカは死んでいない。僕の必殺技が効かないのだ。簡単には死なないし、アヤメちゃんの攻撃もきっちり防がれていた。


 ――ズガガガガガ!!


 予想通り大量の弾丸が飛んでくる。素早く身を伏せ気配を消した。隠密だ。


 正直、そろそろ戦いを終えたい。

 僕は不死身、アヤメちゃんはとても強く可愛い。敵は謎の力で僕らの攻撃の大部分を無効化している。


 どうにかその、いわゆる"戦闘不能無効"状態を解除しないといけない。


 常備品の煙幕を投げ、こそっとアヤメちゃんの近くへ。


「アヤメちゃん、相手のステータス変化無効とかできる?」

「んー……わたし、あんまり不思議ぱわーは使えません」

「そっか。ありがと」

「お役に立てなくて悲しいです……」


 しょんぼり姫。可愛い。

 大丈夫。可愛いだけで充分役立ってるから。


「おかしな力を持とうとワタシの古術を突破などできん。疾く死ぬがいい」


 煙幕を払ってロカが呟いた。

 古術ってなんだろう。


「古代魔術を現代風にアレンジしたものでしょう。威力も効率も下がりますが、使用難易度を著しく下げているようです」

「解説ありがと」

「教団は独自に改良したそれら魔術を"古術"と称しているようです」

「了解。突破方法はある?」


 弾丸をパリィし続ける。不死身は不死身でも、少々腕が疲れてきた。


「ユウリ、一撃必殺スキルを重ね掛けしなさい」

「何それ。そんなことできるの?」

「アヤメ様と手を繋ぎ、ラブ&パワーで絆ゲージを解放するのです」

「了解――なんて!?!?」


 ちょっと何言ってるかわからなかった。


「わぁっ! 愛と元気とキズナぱわーで戦うんですね!!」

「聞こえてたんだね……」


 ひたすら接近戦を試みるお姫様だが、先の攻防以来ロカは上手く逃げ回るようになった。僕らの遠距離攻撃の少なさを利用している。卑怯者め。


 アヤメちゃんが僕の近くまで来て、キラッキラに目を輝かせて見つめてくる。その間もちゃんと銃弾は避けているのだから、この子のバトルセンスはとんでもない。


「はぁ……全部わかんないけどもういいや! やるよアヤメちゃん!」

「えっへへ~! いっしょに勝ちますよー! ユーリ!」


 ――ズドガガガ!!!


 銃弾の雨を掻い潜り、嵐のような槍撃を受け流し。

 アヤメちゃんの操る氷で道を作る。


「小癪な!」


 作るそばから砕かれる氷が塵となって宙を舞う。

 キラキラと輝く氷粒が集束し、凝縮し、大きな雪玉と化す。


「雪だるま攻撃です!」


 えーい!と可愛い叫び声が繋いだ手の先より響く。


 戦闘センス抜群なアヤメちゃんにより、相手の視界より外れた僕らの前に氷の道が作られる。


 地面ではなく、空へ。


「ふふーっ、空中階段ですっ」

「駆け抜けるよ!」

「はいっ!」


 眼下で雪玉が貫かれ引き裂かれるのが見えた。


 一瞬の惑い。

 僕らを探す敵の目は、地に立つ張りぼての氷分身に向けられた。


「――一手、貸しましょう」


 同時、エイラが気流を作る。

 僕らの背を叩き、突き落とすような急流だ。


「きゃ~~!! じぇっとこーすたーですっ!!!」

「勢いがつよすぎるっ!!!」

「ほら、さっさと終わらせなさい、友よ」

「了、解っ!!!」


 空を駆ける。

 アヤメちゃんがアドリブで作った氷の空床を踏み蹴り、さらなる加速で前へ――否、地へ。今の僕には、速度上昇の"色欲流転"が掛けられている!!


「!」


 ――瞬閃。


 刃を突き立てる寸前、ロカと目が合った。

 音に近い速度で落ちた僕らと、スキルか魔法かを行使しようとしたロカとの交錯は一瞬だった。


 何かを破るような感触。"童貞一殺"なのに、"童貞一殺"ではない一撃だった。


「ぬぐっ」

「ぴゃっ!?」


 ごろごろと地面を転がる。エイラのおかげで落下ダメージはない。アヤメちゃんは無事だろうか。あの子には怪我一つしてほしくない。


「あ、の……ユーリっ」


 声が聞こえた。どこから?……僕の胸元だ。


「ん……ありがとうございます。でもでも、ぎゅってしなくても、わたし、へいきです」


 困ったお顔。ちょっぴり頬が赤らんで見えるのは気のせいか。


 特に照れも焦りもなく、アヤメちゃんを怪我一つなく守れたという事実にほっとする。これが守護るということ……。


 感慨深く立ち上がり、少女に手を貸す。


「大丈夫? 痛かったらエイラに言うんだよ。僕は治癒魔法使えないからね」


 僕は自己治癒しかできないし、手持ちの回復薬よりエイラの治癒魔法の方が効くはずだ。


「ユーリ、心配しすぎです。へいきですっ」

「そっか。ならいいんだけど」


 自分の服をはたき、アヤメちゃんのお洋服も整えてあげる。途中でエイラが「雑です」と割り込んできた。


 女の子の洋服のことはわからないから助かった。


「……く、まさかワタシの古術を突破するとはな……!」

「うわ、まだ元気いっぱいだ……」


 僕ら二人の超強化一撃必殺技を受けて立ち上がるって、どんな体力してるんだ。古術とやらは完全に破った気がしたんだけど……。


 もう一度、武器を構える。


「ふん……少々侮っていた、ようだな。いいだろう。……ここは、ワタシが引いてやる。だが覚えてお――」

「やぁああーー!!」


 アヤメちゃんの突貫!


「ぐわーーー!!!」


 ロカの悲鳴!


「ええ……」


 僕は困惑した。

 問答無用と、突貫としたアヤメちゃんの正拳突きがロカの腹に突き刺さった。


 吹き飛び、壁に叩きつけられ倒れ伏すロカ。捨て台詞すら吐けない敵にちょっと同情する。


「ふふーん、わたしたちの勝ちですっ」


 ドヤっているアヤメちゃんだ。可愛い。


「あ!」

「ん?」


 とてとてと寄ってくる。可愛い。

 何の用だろうね。可愛いね。


「? どうしてニコニコしてるんです?」

「うーん、どうしてだろうね」


 アヤメちゃんが可愛いからだろうなぁ。ニコニコもしちまうぜ。


「よくわかりませんが、ユーリ、こっちですっ!」

「うん?」


 手を掴まれ連れられる。行く先には倒れたロカ。


「勝利のぽーずですっ!」


 そして、当たり前な顔でロカの背に足を置いていた。

 なんだ、ただのご褒美――いやいやいや。


「めっちゃ悪役みたいなことするじゃん! お行儀悪いからやめなさい」

「えー!!」


 ご不満顔。だめなものはだめです。


「みんなやってますよっ!」

「どこの修羅の世界だ……」


 アヤメちゃんの情操教育どうなってるんだよ。


「勝利とは、斯くあるべきです」

「元凶いたよ!!」


 アヤメちゃんの手を引き、くどくどと「死者も尊重しないとだめだよ」と伝えた。


「はい……。ご飯に感謝しなきゃです……」


 謎の理屈で納得してくれた。彼女なりの理解でも、わかってくれたならそれでいい。

 一息つき、そういえばロカはと。


「本当、に、ふざけた奴らだ……ッ!」


 再び立ち上がり、しかも壁に転移と思われる陣を開いていた。


「まだ動けるのか! 倒して情報を絞り取る予定だったのに……!!}


 主にエイラが。


「あー!!ジョウホウゲンが逃げます!!」


 僕も人のこと言えないけど、人間を情報源って言うのやめようね……。


「二度は、ない……ッ」


 憎々しげに僕らを見た後。

 スウィン、と音を立ててロカは消えてしまった。


 ……。


 と、とりあえず勝利!!


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