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剣と魔法の同棲生活RPG※ゲーム制作進行中  作者: 坂水 雨木
第1章 銀の少女と砂乙女
34/43

第34話 門を越えて

 三度、勝利である。


 分身も融合もフュージョンもなんのその。アヤメちゃんのミラクルパワーで門番は文字通り粉砕された。


「えへへ~♪」

「あの、アヤメちゃん?」

「はい!」

「……そろそろ降りませんか?」


 門番との戦いは終わったが、僕の戦いはまだ終わっていない。

 色々ときつい。今までずっと生殺しってなんだよって思ってたけど、生殺しは実在したんだ。


 こんなの触ったり吸ったり嗅いだり揉んだりしたくもなる。おぉ性欲の神よ、この欲を――性欲の神って自称神様だったわ。


 急に萎えて冷静になった。神様すごい!


「やですっ!」

「や、じゃないんだけどね……」


 可愛いお返事。でもどうしよう。そのうち僕の腕が勝手に動いてセクハラして「エッチなのはだめです! きらい!」とか言われて気絶する自信がある。


「……なら、降りてくれたら後で別のごっこ遊び付き合ってあげるよ」

「えへへ~、お約束ですからねっ」


 言うや否や、躊躇なく、瞬き未満でアヤメちゃんが僕の上からいなくなっていた。判断が早すぎて嬉しい限りだよ……。


「了解、お姫様」


 約束についてはそれこそ後で考えるとして、だ。


「さて、門番。何か言いたいことは?」

「へッ、くたばれ盗人ども」

「負けをみとめなむぐぐ~~!」

「アヤメちゃんはちょぉぉっとだけお静かにね。交渉は僕に任せな」


 お姫様の口を手で塞ぎ、エイラに引き渡す。今だけは彼女の唇の感触を忘れよう。グッバイ僕の手のひら。いやでも間接キスくらい――。


「ふんっ!!」


 己の頬を張る。


「な、なんだ!? オマエ、頭がおかしくなったのかよ?」

「まあね、そんなとこ」


 取り憑かれているんだ……性欲という名の、煩悩にね。


「それより、ちょっと話が嚙み合ってなさそうだから整理しようか」



 かくかくしかじか。


 外で出会ったサクと言う名の女性。

 男装教団の正体。

 ピラミッドへ通じる道が教団に塞がれていたこと。


 かいつまんで説明する。



 半分ほどはピラミッド内の探索冒険が目的だったが……それは言わぬが花。もう半分は教団調査が目的なのだし、嘘ではない。


「ハハハ! なんだよ、それならそうと最初から言えよな! 早とちりしちまったぜッ! 悪かったな。オレは一回死んで生まれ直すからよ。そいつらどうにかするのは頼んだぜッ! じゃあな!」

「え、ちょっ!」


 呼び止める間もなく、門番は砂に溶けて消えてしまった。


「なんだよ死んで生まれ直すって……」


 いったいぜんたい、どうなっているんだってばさ……。


「あの門番は魔物ではなく、エイラたち精霊に近しい存在のようですね」

「え?」

「残機無限のピラミッド守護霊とでも思ってください」

「なるほど」


 さすがエイラ。わかりやすい。


「おはなし、終わりましたかー?」


 納得したところで、アヤメちゃんがぴょこっと現れる。


「お待たせ、ごめんね」

「かまいませんっ。悪者はいなかったんですねー。でもでも、もんばんさんのいたところに宝物がありましたよ!」

「宝物?」


 アヤメちゃんが見せてくれたのは、まごうことなき宝石だった。

 青の宝石。原石のようにも見えるが、それにしては美し過ぎる。これもまた古代魔術に関わる何かだろう。


「きれいですっ」

「そだね」


 アヤメちゃんは宝石に見惚れているわけではなさそうだ。美しいには美しいが、それだけ。宝より飯。美より食。まだまだお子様なレディである。


「……」


 宝石を見て、ふと僕は思いついてしまった。


【選択肢】

 1、君のほうが綺麗だよ

 2、宝石よりも美しい、君の瞳に乾杯

 3、アヤメちゃんはキレイよりカワイイだね


 …………。


【1、君のほうが綺麗だよ】


「――アヤメちゃん、君のほうが綺麗だよ」


 選んだのは定番の台詞だった。迷った果ての一番上さ。笑えよ、僕を。


「急にどうしたのですか?」


 照れなど微塵もない疑問。悲しいね……。


「宝石も綺麗だけど、元気に冒険してるアヤメちゃんの姿のほうが綺麗だと思ったんだ」

「そう、ですか……」


 あぁやめて。困らないで。童貞心にグサグサ刺さるからっ!


「えと、よくわかりませんが……ユーリはわたしが好きということでしょうか?」

「え?うん……うん、まあ、うん? うん。そういうこと……?」


 困った。そうなのかな。好きって、どんな感じなんだろう。守ってあげたいとか、ご飯を食べさせてあげたいとか、笑顔が見たいとか。


 そういうの以上の"何か"があると思うんだよね。好きとか、恋とか。……こんなんばっか考えてるから、前世でずっと童貞だったわけなんだけど。


「ん……そ、そうなんですねっ」


 あ、そこは照れるんだ。

 乙女心、ちょっと難しすぎない?


「えとえと、ユーリの気持ちはとっても嬉しいですけど……急にいろいろ言われてもこまりますっ。もっとえっと……ふわふわしてるときに言ってくださいっ」

「ふわふわ……」


 ふわふわはわからないけど、タイミング云々は正論だった。

 ごめん……出来心で言ってしまっただけなんだ。


「ふわふわですっ。好感度ゲットはたいみんぐが重要なんですっ」

「そっか。そうだよねー、ありがと」


 なでなで。

 ありがとうお姫様。ちょっと成長できたかも。


「えへ、えへへ~」


 頬がとろとろに緩んでしまっている。あぁ可愛い。


「えへ。今のなでなではとっても好きですっ。ばっちりですっ!」


 褒められてしまった。

 やっぱり考えてするより、自然な行動の方が良さそうだね。学び学び。精進していこう。


 にしても、宝石か。


「……そういえば、宝石入れられそうな彫像があったな」


 思い立ったが吉日。

 アヤメちゃんとの親密度を上げつつ、記憶にある石像へ。


 思った通りちょうどよい隙間がある。


 この石像は祈りを捧げる天使の像だ。彫像に宝石を嵌め込んでみる。


「……?」

「なにも起きませんか……?」

「……ほう。興味深い。ユウリ、宝石をエイラに渡してください」

「え、うん」


 取り外し、エイラへ。


「やはり。これは古代の儀式魔術に利用する宝石です。ですが」

「……が?」

「ですが、現代の術師が回路を破壊し起動キーを作り替えています」


 なるほど。


「ふんふん……」


 訳知り顔で頷いているアヤメちゃんを手招きし、ちょこちょこやってきた彼女へ耳打ち。


「(エイラの言ってることわかった?)」

「(わかりませんっ。ユーリはわかったのですか?)」

「(ぜんぜん)」


 二人でニッコリ笑って頷き合う。仲間だ。


「……ふぅ。お二人とも、要するにこれは、トラップです」


 少々呆れたような声。二人ではにかむ。


「トラップ……!」

「罠か……え。じゃあ今なんでセットしたのに起動しなかったの?」

「単に設置の仕方を間違えただけです。向きと設置位置がズレていました」

「えー……」


 不幸中の幸い……と思っておこう。


「トラップにかかったらどうなるのです?」

「本来であれば転移魔法陣が出現する仕組みですが……エイラたちの足元に魔法陣を生むようになっていますね。転移先はここより遥か東、大砂漠の流砂地帯でしょう」


 流砂=底なし沼の砂バージョンだ。超危険。頬が引きつる。アヤメちゃんも怖がっていることだろう。


「わぁっ! 行ってみたいです!」


 ……うちのお姫様は物怖じしない。


「だめだよ」

「危険です。本当に行きたいのなら、透過能力を獲得してからです」

「むぅ、仕方ないです。さきのばしです」


 ニコリと笑って先延ばしと言う。

 いつかは行くのかぁ……。その時はさすがに遠慮しようかな。


「いつかいっしょに行きましょうね、ユーリ!」

「うん、いつか行こうね」


 くっ……このぺらぺらな口をどうにかしたい……!


「――さてユウリ、アヤメ様。術式の修正は完了しました。宝石を台に嵌め、黒幕の下へ向かいましょう」


 姫様とコミュニケーション取っている間に、エイラは手早く解析を済ませてくれた。ありがとう。


「粗雑とはいえ古代魔術の知識を得ています。注意して腕力で押し通しましょう」

「腕力で押し通すんだ……」

「ふふん、わたしのぱわーの出番ですっ!」

「所詮魔術なぞ力のない者が扱う知恵でしかありません。圧倒的な力は知識を圧し潰すのです」

「れべるを上げてすてーたすでぶんなぐるっ、ですね!」

「あんまり汚い言葉は使っちゃだめだよ?」

「はぁーい、気をつけますっ!」


 それじゃあ宝石を入れてピラミッドの黒幕、とやらの顔を拝みに行きますか。

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