第32話 隠し部屋の宝物
守護者を打倒し、丁寧に置かれた宝箱を開けていく。このピラミッドへの敬意は忘れない。丁寧にトラップを確認し開く。
『"レイズポーション×7"を手に入れた!』
「蘇生薬か」
「全部ユーリに使ってあげますねっ」
「……うん。ありがとうね」
悲しくて、嬉しい。
『"霊魂(砂)"を手に入れた!』
「おー」
「なんですか? そのレイコン?」
「僕も詳しくないけど、いつか役立つキーアイテムだよ」
「ふらぐですねっ!」
RPGも遊んでるだけあって、この子はゲーム的要素も理解できる。色々伝わりやすくて大変助かる。
『"水生みの短剣"を手に入れた!』
「武器か」
「ユーリが装備できる武器です?」
「うん。今使ってるのより強そうだ。アヤメちゃんは……」
「さっき猫さんからもらったのでいいです!}
「そうだったね」
この子はドロップアイテムを装備済みであった。
そして最後の宝箱。開けると
「巻物?」
中には巻物が入っていた。
エイラ曰く、簡単に魔法を習得できる使い捨て魔道具の一種、と。
砂漠で重宝される水系の魔法が入っているようで、ラストエリクサー症候群の僕は普通に保留しようと――。
「ユーリ!」
――そこに待ったをかけたのは我らがお姫様。
「なに?」
「わたし、新しい魔法覚えたいですっ!」
やる気いっぱいなアヤメちゃんだ。
【選択肢】
1、普通に手渡しする
2、ちょっと意地悪してみる
3、試練を与えてみる
……そうですか。
【2、ちょっと意地悪してみる】
「えー、どうしよっかなぁー」
「大丈夫ですっ、わたし、使いこなしてみせますっ!!」
むんっと気合を入れている。可愛い。
「でもなー。すごくレアっぽいしなー」
「むぅ、たしかにれあアイテムっぽいです……。で、でもでも」
困ってる、可愛い。ごめんね、出来心で。けどほんと可愛いから……。
「えと……んと……」
一生懸命考えてる。可愛い。
僕、アヤメちゃんが表情くるくる変えるの好きかもしれない。
「んぅ……」
いつも眩しいスマイルが沈んで陰っていく。
「だ、だめでしょう、か……?」
「あ」
お姫様がしょんぼりしてしまった……。ちょっと引き伸ばし過ぎたか。可愛いけど。……やはり可哀想なのは好きじゃないからやめよう。
「ごめんごめん。ちょっと意地悪してみただけだから」
「――」
アヤメちゃんは目を丸くして、すぐに。
「いじわるきらいですっ! ユーリのいじわるっ!」
「うん。ごめんなさい」
ぽふぽふと肩を叩いてくる。ほとんど力が入っていないのは彼女が優しいからだろう。本当、良い子じゃ……。
「……いじわる、あんまりしちゃやです」
ぽつりと、いじらしく呟く。
「あんまり? ちょっとならしていいってこと?」
問うと、そっと目を逸らされた。
「お、お友達なので、ジョウダン?とかジョーク?はよくあるって聞きました、から……」
恥ずかしそうに、ちっちゃな声で教えてくれた。
とんでもなく可愛い。
「……んぅ」
きゅっと自分の服を掴み、そわそわ羞恥に塗れている。
とても可愛い……。
「――ふぅ」
なんか近くから賢者タイムに入ってそうな声が聞こえたけど、無視しておこう。
照れてそわそわしているお姫様から顔ごと逸らして遠くを見つめる。特に意味はない。ただのかっこつけだ。
「じゃあ、はい」
「……ユーリ?」
そっと巻物を差し出す。
遠くを見たまま、ぶっきらぼうに振る舞う。気分は素直になれない少女漫画の主人公だ。断じてエロゲーの主人公ではない。
「――ダチの姫に、仲直りの印。たまに意地悪するかもだけどよ。……本気で姫のこと嫌いにはならねえさ。好きだから意地悪しちまうんだ。……いやキャラ違うとむずむずするなこれ」
一人芝居して、妙に恥ずかしく頬が熱くなる。これが墓穴を掘るってことか……!
「……!!」
「ユーリ!」
「は、はい?」
見れば、アヤメちゃんがやたらキラキラした目で僕を見つめていた。ちゃっかり巻物は受け取っている。
「あくしゅですっ!」
「え?」
「仲直りのあくしゅです!」
「あぁ」
言われ、ぺいっと差し出し手を掴まれる。
ちっちゃなお手てににぎにぎされる。
「えへへ~、仲直りですっ」
手は柔らかいし、笑顔は可愛いし。別に仲違いしてたわけでも喧嘩してたわけでもないけど、色々可愛くて困る。
僕の握手童貞が奪われてしまった……。
「――ふぅ……」
さっきより深い賢者の吐息が聞こえた。一応確認してみれば、普段より穏やかな光を放つ浮遊玉がいた。
何も言うまい。
「ふふー、さっきのユーリの演技は30点ですねっ!」
「急に採点!? しかも厳しい……」
「お友達にはほんとうのことを言ってあげるべきなのですっ」
えっへんと胸を張っていた。可愛い。けど採点厳しい。
やれやれ、これからは演技も磨かないといけないな。
『アヤメは"水風船の術"を覚えた!』
◇
隠し部屋探索より数十分。
「むむむ」
「どうしたのさ」
「ユーリ!」
「はい」
「ピラミッド探索が止まってしまいましたぁ」
しょぼんと肩を沈めるお姫様。
本当によく表情の変わる子だなぁと思いつつ話を聞く。
詳しく聞けば「隠し部屋にはさらなら隠し部屋があるはずなのに、見つからないので困ってる」とかなんとか。
なるほどしかし。
「ふーむ……」
さらに隠し部屋かぁと、ピラミッドならそういうこともあるかと納得するようなしないような。
「宝箱しかなかったけどね」
守護者っぽい魔物倒して、宝箱全部開けて、一通り壁も床も調べた。が、何もなかった。
「さいしゅうしゅだんをとるときが……やってきました!」
「最終手段?」
「はいっ。壁破壊のスキルを使いましょう……!」
「なんて物騒なスキルなんだ……」
胸を張っているところ悪いが、ピラミッドの中でそんなものは使わないでほしい。構造的に生き埋めになる可能性がある。
「危ないからやめようね」
「むぅ」
「頬膨らませてもだめ。もうちょっと隠し部屋探してみよっか」
「はぁーい……」
――しばらくして
隠し部屋の床壁天井をより細かく調べ続けること数十分。
丁寧に調査をしていると、エイラから「古代魔術の痕跡」があると言われた。
微弱すぎて近づかないとわからないレベルらしい。言うまでもないが、僕もアヤメちゃんも一切わかっていない。
「離れてください――Emlah’kesh Zahalim’eth, Suth'ra Zahir'ash, Mehar’sul(我が言霊に従い、秘されし道よ開け)」
再びの呪文により、前方の空間が揺らいだ。
現われたのは不思議な結晶。
「隠し部屋そのものは敢えて看破させ、より重要な場所は探査魔法にも引っかからないようにするとは……古代の魔術師もなかなか考えていますね」
何やら感心しているエイラだが、僕はアヤメちゃんに肩をパシパシされて変な気分だった。
「きゃー! 古代まじゅつすごいですっ!!!」
「そだね」
我、賢者。
距離感の近い同級生の美少女に絡まれる男子高校生の気持ちがわかった。こりゃ……効くぜ……。
真面目な話、アヤメちゃんが最初より距離を縮めてくれた気がして普通に嬉しい。
「ユーリ?」」
首を傾げられてしまった。ちょっと見つめすぎていたようだ。
「ううん、なんでもない。古代魔術すごいね」
「はいっ!」
探索を再開しよう。
「この結晶がスイッチになっているようなので、触れてから部屋を出て探索しましょう」
「了解」
「はい!」
この階層の左側に、影が連なる不思議な場所があったような。確認してみよう。




