第31話 ピラミッド調査2
ピラミッド調査開始よりしばらく。
結構な時間が経過した。ここが二階なのか四階なのかそれより上なのかわからないが、僕らはちょっと気になった場所に立っていた。
「ふふん」
姫様はえっへんしてる。
「何かわかってそうだね」
「いいえぜんぜん!」
可愛い。何もわかってなくても可愛いから素晴らしい。
「場所はたぶん合ってるんだよね。それっぽいのここしかないし」
ピラミッド内には四方を壁で囲んだ構造が複数あった。
迷路の階層と壁の階層で二つに分かれており、壁の階層には小部屋がたくさんあったのだ。
意味深な建築方式。何故そんな構造をたくさん作ったのか。それは当然、何かを隠すため。
「さっきから小部屋みたいなのたくさんあるでしょ?」
「! ありました!」
お姫様は冒険が楽しすぎて小部屋に気づいていなかった様子。
「え、えへへ。気づきませんでしたぁ」
照れりとはにかむ。
超可愛い。君はそのままでいてくれ。考えるのは僕らの役目さ。
「でね。小部屋の中って全部空っぽだったんだけど、ここだけ柱が作られてるんだ」
「ふんふん……じゃあここから隠し部屋につながっているんですね!」
「たぶんね」
押したり引いたりしてもだめ。持ち上がる気配はない。叩いた時の音の違いも、亀裂も何もない。
「ふーむ」
どうしよ。
「ひみつの魔法はあったりしませんか?」
「魔法か……」
そういやここ、剣と魔法のファンタジーだった。男装教団とメイドのせいでエロゲー世界ってこと以外忘れてたよ。
「アヤメちゃんって秘密の魔法とか何か覚えてる?」
「いえ」
首を振られる。
「――古代魔術が必要なようですね。エイラが担当しましょう」
ふよふよ浮いて、当たり前に熟そうとしてくれる。
エイラならできるんじゃと思ったらやはりだった。さすがエイラ。
「"Zehurun Takar Shalu'eth, Emla Kurih Zohar"」
「えっ?」
謎言語に疑問を感じる間もなく、ゴゴゴゴ、と重苦しい音が響く。
「ぴゃっ!?」
重い音と共に大地が大きく揺れた。
バランスを崩したアヤメちゃんを咄嗟に支える。
「ぁ」
僕も僕で倒れそうになり、慌てて目の前の柱を掴んだ。
「ふー。あぶな」
数秒の出来事。我ながら素早い動き。判断が早いね!ナイス僕!
「ぁ、あのユーリ」
「はっ!?」
呼ばれ、腕の中の少女に気づく。
妙にあったかいし柔らかいし良い匂いするなぁとは思ったんだ。
「ごめん、アヤメちゃん」
僕は童貞だが大人童貞なので、慌てて突き飛ばしたりよろけたりはしない。
ゆっくり腕を外し、アヤメちゃんから一歩離れる。……困った。今さらドキドキしてきた。
「へいきです! ちょこっとびっくりしただけですっ」
ほわっと笑んでくれる。よかった。僕と違ってこの子はそういう異性的なものは気にしていないようだ。
「で、でもでも……あんまりぎゅってするのは、だめですっ。わたしの好感度が足りませんからっ」
頬を染め、困ったように笑う。
……ちょこっとは気にしているらしい。お子様姫だけど、ちゃんと乙女だ。
「……オーケー。うん。ちゃんと好感度稼ぐから」
「はいっ。えへへー、わたしもユーリの好感度かせぎ、頑張りますっ」
見つめ合ってはにかんで、なんだかなぁと頬を掻く。
"好感度"なんて言葉で言い表してはいるけれど、信用も信頼も友情も、全部込みでの好感度なのだ……。
やっぱり人間関係って、難しいね。数字で表せられるだけ、まだマシって感じかな。
「あっ、そうですユーリ!」
「うん?」
遠い目をしていたら呼ばれる。アヤメちゃんは。
「支えてくれてありがとうございます! えへへ~、わたしのお友達はとっても頼りになりますっ!」
眩しい笑顔で、ひどく気恥ずかしいことを言ってくれた。
重ねて頬を掻き、今度は僕が目を逸らすはめになった。ピラミッドの中も、なかなかに暑いぜ……。
「――親愛を確かめ合っているところすみませんが、古代魔術により隠し部屋への道ができました。魔物に襲われる前に行くのを推奨します」
「わっ、そうでした!」
「了解。行こうか、アヤメちゃん、エイラ」
「はい! ぼうけんの再開ですっ」
「はい。進みましょう」
エイラの案内で、ほんのすぐそこにあった別の小部屋へ入る。
魔術の影響で床の一部に正方形の穴が生まれていた。一切気づかなかったが、スライド式の床だったらしい。
アヤメちゃんと頷き合い、穴の中へ。下りやすい梯子状の穴だ。
降り立った先。隠し部屋は黄金に包まれていた。
一面金色で染められ、壁や天井にも金があしらわれている。独特な紋様は太古の文化か魔術の何かだろう。
小さく狭い部屋だが、時を感じさせない美しさを誇る、まさに"隠されし場所"であった。
「すごいですっ!!キラキラです!!!」
「だね。じっくり見たいところだけど――」
僕以上に興奮しているアヤメちゃんを制し、正面を見据える。
「――先にやることがある」
武器を構える。
正面には砂色の魔物。ヒト型で翼を持ち、佇まいから威圧されてしまう。
ふっと息を吐く。
アヤメちゃんが気を引き締めこくりと頷くのが横に見えた。よし、勝つぞ。




