第30話 ピラミッド調査
僕らピラミッド探検隊は、あらゆる苦難を退け内部探査を続けていた。
強大な魔物、卑劣な罠、無限の如き迷宮。
時に逃げ去り、時に打ち砕き、時に知恵を巡らし。
ついに、ある終着点へと辿り着いた。
目の前に鎮座するは、ひとつなぎの宝物。
「……」
「!」
背後のアヤメちゃんから期待の眼差しを感じる。
けどごめん。これ中身パンツなんだよね。僕にとっての正念場だ。
「すぅ……はぁ……」
如何にしてアヤメちゃんを誤魔化すか。それがすべてだ。
「開けるよ」
「は、はいっ」
『"紫レースのパンティ"を手に入れた!!!!』
トラップはない。宝箱型魔物でもない。
中にはひっそりと収まる布。
湧き出る高揚感を抑え込む。
文字列もファンファーレも無視し、最速で布を取り去る――と同時に忍ばせた巻物が鎮座させる。僕渾身の早業だ。
彼女の目に布は映っていないはず。
「……ふむ」
それっぽく頷き、隣の反応を窺う。
「それは、なんです?」
純粋な瞳!緩い疑問!美しい瞳は僕の手ではなく巻物だけを見つめている!!僕の勝ちだ!!!!
「……ふー。えっとね」
一安心した。が、僕もこの巻物が何かは知らない。エイラから渡されただけなのだ。
開いて。
「なんだこれ。レシピ本?」
「お料理です?」
「かな」
「おや。レシピ本を入手したようですね。自宅で調理が可能となりましたよ。これでアヤメ様に美味しい食事を提供できます。よかったですね、ユウリ」
「え、う、うん」
しれっと解説を入れてくる。これ作ったのあなたですよね……。
「わぁぁ!! ご飯ですねっ!!」
お姫様は大喜びだ。ぴょんぴょん跳ねてる。可愛い。
「ついにわたしもお料理をする日が……!!」
「アヤメちゃんにはまだ早いから僕が作るよ」
「アヤメ様は今しばらく食事専門でよいかと」
エイラと被る。アイコンタクト。目はないけど伝わった。アヤメちゃんはお子様姫だから、お料理は危険だ。
「む、むぅ……二人がそう言うなら、しかたないですっ」
ちょこっと拗ね気味だが受け入れてくれた。頭を撫でてご機嫌取りをしておく。
ともあれ、レシピ本とやらを手に入れた。家に帰ったら調理ができるらしい。改装をすると言うから、後日試してみよう。
――宝箱から離れようとした時。
「(私奴は今、ご主人様の心に直接話しかけております)」
「っ!?!?」
アヤメちゃんとエイラは料理について話し合っていた。食べたいもの選手権が開催されている。
くそ、気になるじゃないか。でも今は……。
「(うふ♡ 御可愛らしい動揺にございますね♡)」
メイドとの会話のほうが大事ある。
「……なに?」
「(私奴のパンティを入手したご様子で)」
「……うん」
だってパンツがあるって言うから……。仕方がないじゃないか。
「(私奴、ご主人様の感想をお聞きしとうございます)」
「……」
メイドは僕の心が読めるとか言ってたような言ってないような……。パンツの感想か。まだちゃんと見てないけど、紫色だったよね。
……。
「……いいよね」
エッチで。
清楚なのも、ちょっとエロティックなのも。全部いいよね。下着収集家の気持ちがちょっとわかってきたよ。
「(うふふふ、左様ですか。喜んでいただけて何よりにございます。私奴の雌の部分も悦びに満ちておりますよ♡ 私奴の大事なトコロに触れていたソレがご主人様の体に密着し温もりを浴びているかと思うと……♡)」
「……」
相変わらずのいかがわしいメイドだ。
「(……ふぅ。少々興奮してしまいました。ではご主人様、次はいずこかの看板でお会いしましょう)」
スゥっと声が遠くなる。
空気を読んで急いでいなくなってくれたのだろうか。いやいなくなるも何も、最初から目に見えないんだけど。
「ユーリー!はやくきてくださーい! いっしょじゃないとやですよー!」
ちょっと離れた場所でアヤメちゃんが僕を呼んでいた。ぶんぶん手を振り笑っている。やたら可愛い呼び文句だった。
頬を緩め、小走りで少女の下へ。
「えへ」
にぱっと笑みを浮かべるアヤメちゃんと、光玉のエイラと、ピラミッド探索を再開する。
先を進もう。ここからがピラミッドの冒険だ。
◇
ほどほどに探索し、途中でエイラの助言通りに進んだ。迷路も形無しである。
「第二階層ですっ!!」
「超広くなったな」
階段を上り見えたのは第二階層。開けた内装。迷路の体は失われ見通しが良くなっている。
「さっきは宝箱が全然なかったので、今度はたくさんあったら嬉しいですっ」
期待を含んだ眼差しだ。
「そだねー」
目でエイラに問う。
"ありませんよ"と返事をもらった気がする。悲しい。アヤメちゃんがしょんぼりしてしまう。もっと悲しい。
「どうにかしてください、ユウリ」
「無茶ぶりが過ぎる」
とりあえず思い出作りとか言って誤魔化すか。おしゃべりする時の思い出と考えれば……。
「……我ながら天才やもしれぬ、な」
アヤメちゃんといっぱいおしゃべりできるとか、これもう神の天啓でしょ。ありがと神様サンキュー。
「ユーリ! 魔物です!」
「またか」
ナイフを引き抜き、襲い来る群れを対処する。
鳥、魚、猫の集団だ。
ピラミッド内は全体が魔物の縄張りなのか、結構なモンスターが徘徊し襲ってくる。ここもダンジョンらしいが、エイラは「ダンジョンではない」と言っていた。なかなかどうして、ダンジョン外も危険が多い。
「ふー!!ですっ!」
アヤメちゃんの吐息吹雪で一部の魔物を氷漬けにし、動揺した相手を忍殺する。残りは姫君パンチで処理だ。
広々した階層を調べ、壁に囲まれたいくつかの小部屋を発見する。特にアイテムや宝箱はないので、ダミーと考えられる。
それっぽい場所に数度騙され、第一階層と同じ進み方で三階へ。
お姫様ががっかりしてしまったので、次こそは宝物を見つけたいところ。
「ん……あれ」
第三階層。
さっき見たはずの迷路だ。
「るーぷ現象というやつですね!!」
「嬉しそうだね……」
「はいっ! 楽しくて嬉しいですっ!」
ピラミッド内に太陽が生まれた。可愛い。
さてはて、ループ現象と来ましたか。モリザルのダンジョンを思い出すね。
結局ボスっぽいボスはいなか……そういえばいたかも。完全に聞き忘れていた。
「ねえエイラ。森のダンジョンにボスっぽい魔物がいたんだけど、催眠受けてたっぽくてさ。アレってエイラがやったんでしょ?」
「? いえ。エイラたちはそこまで手を付けていませんが」
「……」
……なる、ほど。
「……じゃあアレ、誰がやったの?」
「妖怪のせいでは?」
「適当過ぎる」
興味もまるでない言い方だ。
「おそらく男装教団のせいでしょうね。催眠上塗り魔法の検討をしておくので、ピラミッドのループを攻略してください」
「はい……」
釈然としない。けど今は目の前のことに集中しよう。
ループ攻略である。
【選択肢】
1、アヤメちゃんとおしゃべりする
2、とりあえずもう1ループしてみる
3、エイラに攻略してもらう
僕は仲間を頼れる男。
【3、エイラに攻略してもらう】
「エイラ先生」
「即断即決ですか。エイラは嫌いではありませんよ」
案外あっさり教えてくれそう。もっと「悩みなさい」って言われるかと思った。
「エイラ、は、ですが」
「え」
しかし、告げられた一言に拗ね姫様を察知する。
「むぅ~~」
「あー……」
我らのお姫様が頬を膨らませて居られる……お可愛い。
「わたし、ずるはやですっ」
ぷくぷく姫だ。
そりゃ何より冒険楽しんでる子が、攻略本読んでクリアなんてしたいわけがない。
「ごめんね。冒険だもんね。……一緒に攻略、しようか」
「はいっ、ピラミッド探検隊のほっそくですっ!!」
二人で頑張ってみよう。
ピラミッド内も細かく見て回れたわけじゃないもんね。
「~♪」
ピラミッドBGMを口ずさむ美少女の背を追って、再び探索を始めた。




