第3話 看板メイドin森ダンジョン
森である。
魔法陣にてワープし、見渡す限りの森林地帯に移動した。
「そういやダンジョンに吞まれたんだった」
思い出した。僕、普通に死にかけてた。
神様パワーでダンジョンの入口へ移動した……とも言えないか。後ろに魔法陣あるし。
――移動
「神様」
「さあ行くのです、童貞よ。あなたが二度目の魔法使い(笑)に成る前に」
「はいはい」
知ってた。
――移動
森に戻り、神様の間のことはいったん忘れる。
ここはダンジョン。
暫定森ダンジョン。神様に出会う前の僕は、謎のサル型魔物に襲われ死にかけたのだ。一撃必殺技を手に入れたので負けることはないだろうが……。油断はしないように行こう。
さておき、森だ。
緑と、草花と、木々と。ダンジョンにありがちな自然系である。魔物も環境に則した自然・森系統。火が弱点。ただし僕は火魔法を使えない。
「……行くか」
歩き出し、やけにアピールしてくる看板へ近寄る。
「……」
明らかに何かある。仕方ない。冒険者だからね。話しかけねばなるまいよ……。
「――さて、ようやくここに辿り着かれたようにございますね」
「え、誰? 看板……?」
ふわっと、幽霊のように浮かび上がる影。
その姿は。
「左様にございます。私奴、看板娘にございます。転じて看板メイド、と」
そう、メイド。看板メイドであった。文字通り。
「そういう意味の看板なのか……?いやそれより、誰ですか」
冷静になれ、ユウリ。美人の看板メイドに誘惑されては冒険者の名が泣くぞ。
「私奴のことを知りたがるだなんて……♡ 仕方のないご主人様です♡」
……はぁ。
「さようなら」
そっとその場を離れる。
艶っぽい言い方に逃げ腰になってしまう。それが童貞魂……。
溜め息を一つ。
いくらなんでもこんなんで終わるわけがない。再挑戦だ。
「まったく困ったご主人様にございますね……。おや?」
決意を秘めた僕に気づき、メイドが視線を寄越す。何やら悪戯な気配を感じる。
「うふふ♡ また私奴に会いたくていらっしゃったのですね。ええ、な・ん・で・も聞いてくださいませ」
――スゥ。
「なんでも……か……」
一瞬脳裏に過った思考を捨て去る。僕は童貞だが、変態ではない。いや変態だけど、時と場合を弁えられる常識的な変態なのだ。エロゲ世界には負けない……!
「とりあえず名前聞いてもいい?」
「――私奴、フユカゼミサキ、と申します。冬の風に実り咲き誇る美しき女と書きます。どうぞミサキと呼び捨てにしてくださいませ」
「丁寧にありがとう。僕はユウリ。ミサキは……ここで何してるの? ていうか看板だけど……ほんとどうなってるの……」
幽霊なのか、看板なのか、メイドなのか。はっきりしてほしいところだ。それはそれとしてメイド服は良いものだと思う。今後ともメイドを全うしていただきたい。
「私奴、少々上位存在と伝手がございまして。気ままに遊び倒してよい、と依頼をお受けした結果の今にございます」
「そ、そっか。……なかなか斬新な遊びしてるね」
「うふふ♡ これが昨今のメイドにございますよ♡ ご主人様、他にご質問はございますか?」
本物のメイドを馬鹿にするな、というツッコミは置いておくとして。
「えっと、なんでも、だよね……」
【選択肢】
1:ラスボスの倒し方教えて
2:パンツ見せて
3:ここはどこ?
……これも神様のせいか。だめだ。僕の心が勝手に!!
【2:パンツ見せて】
「もう♡ 仕方のないご主人様です……♡」
罪悪感と期待が同時に押し寄せてくる。そして。
「うわっ!? え……写真?」
目前、宙空にホログラムのように現れたパンツ――否、パンティ。
「こんなこともあろうかと、準備しておいたかいがございました♡」
「なんてエッチな看板メイドだ……」
黒いレースのパンティ。……いいね。
「それではパンティコンプリート目指し頑張ってくださいませ」
「え、なに?」
疑問に思ったのもつかの間。
『"黒レースのパンティ"を手に入れた!!!!』
鳴り響くファンファーレ!
浮かぶ文字列!
ユウリはこんらんした!
「いやなになになに!?!?!?」
「すべて集めた暁には、何か良いことがあるかもしれません。私奴も、その時を首を長くしてショーツを濡らして待っております……♡」
「音楽もアイテムも何もかも意味わかんないんですけど!?!?」
僕の発言は当たり前にスルーされ、ひどい下ネタを残しメイドは消えた。
なんなんだこれは……。
『※黒レースのパンティは戦闘中に使用可能です※』
「……」
オーケーわかった。システム的なアレね。BGMと同列ね。わかったよ。もう何も言わない。受け入れよう。
冒険者には適応力も必要なんだ。神様の言うエロゲ世界とやらにも適応してみせるさ。
「……けど」
パンティコンプリートってなんだろうね。
パンティコレクションしてコンプリートしたら、本物もらえたりするのかな。ホログラムな写真じゃなくて……。
「……がんばろう」
膨大な熱量。圧倒的執着。不屈の願い。それを人は……性欲と呼んだ――――。