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剣と魔法の同棲生活RPG※ゲーム制作進行中  作者: 坂水 雨木
第1章 銀の少女と砂乙女
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第23話 井戸底

「はぁぅー……」

「ユウリ、アヤメ様が溜め息を吐いています。今すぐどうにかしてください」

「むちゃぶりが過ぎる……」


 ピカピカ光って無理難題を言うのはやめてくれ。井戸の底で暗いから眩しいんだ。


「アヤメちゃんがしょんぼりするのも仕方ないよ。何もなかったんだし」


 井戸の底ダンジョン。

 特に宝物はなし。魔物も地上と変わらず。終わり。


 本当に何もなかった。


「むぅ~~~、ダンジョンなのになんにもないですー!」

「空振りも冒険の醍醐味だからさ」

「うれしくないです……」


 沈んだり怒ったり拗ねたり、忙しい子だ。


 慰め……ではないけれど、少しだけ話すか。

 人生経験豊富じゃないが、少しばかりアヤメちゃんよりは長く生き、物事を知っている。


 この子が"退屈な経験"を"楽しかった思い出"に変えられるよう、ほんのちょっとのアドバイスくらいならできる。


「ねえアヤメちゃん」

「はい……」


 しょんぼりお姫様に苦笑し、優しく続ける。


「井戸の底って、初めて来たでしょ?」

「はい。初めてです。……?」


 何が言いたいのかわかっていない顔だ。


 そう、初めて。僕もそうだけど、この子にとってはより新鮮なはず。

 何もかもが新しい。そういう育ちをしているから。


「こんな経験、きっとなかなかできないよ。いつか昔を振り返った時、"井戸の底まで行ったのに広いだけで何もなかったんだよねー"なんて笑い合えたりするようになるんだ」

「――!」

「冒険の思い出って、そんな何気ない失敗や発見の積み重ねが作ってくれるものなんだよ」


 この世界で生まれ育ち、僕もそれなりに経験してきた。


 魔物との戦い。小さな宝物の発見。ダンジョンから出て見上げた空の青さ。土砂降りの雨。木陰で野生動物と雨宿り。


 前世とは違う、たくさんの思い出。

 一つずつ重ねた冒険が、今の僕を形作っている。


 アヤメちゃんにも、そうやっていろんな"冒険"をしてほしいと思う。


「……ときどき」


 小さな声。驚きと、感謝と好意とその他色々を混ぜたような複雑な声音だった。


「うん?」

「ときどき、ユーリはとってもおとなですっ」

「大人……?」


 疑問の声はアヤメちゃんの笑顔に吹き飛ばされる。


「えへへ、わたし、思い出いっぱいつくりますっ」

「う、うん」

「いっしょにいっぱい思い出つくって、いつかお話しましょうねっ! ユーリ!」

「そうだね。いつか話そうね」


 微笑む。

 冒険の終わりはいつかの未来に過去を振り返って笑い合った時だ。


 それまで一緒に、たくさんの思い出を作ろう。失敗も成功も、楽しく積み上げていこう。


「(ニッコリ)」


 少し離れた場所で、エイラが満面の笑みを浮かべている気がした。何ならサムズアップさえしている気配を感じた。顔も指もないけど。


 さ、冒険の続きをしよう。



 ◇



 井戸の底でハートフルな思い出を手に入れた銀色姫一行。

 砂の大地に帰還し、廃墟の探索を再開していた。その最中である。


「ふむ、お二人とも、足を止めてください」

「はーいっ」

「あい」


 周囲を警戒しつつエイラの下へ。

 光玉は通りにある枯草で止まっていた。


「エイラ、なにかあるのですか?」

「……ある、ともないとも言えます」


 珍しく歯切れの悪い言い方だ。

 巧妙な隠蔽でも掛けられているのだろうか。


「これは古代魔術の一種です。エイラが普段使いしている探索術では引っかからない術式でした」


 アヤメちゃんがふんふん頷いている。僕もふむりと頷いておく。


「えへ」


 目が合ってニッコリした。可愛い。僕もニッコリする。


「……お二人とも、一切理解していませんね」

「ばれちゃいましたっ」

「ハハハ」


 さすがエイラ。素人の浅知恵なんてお見通しか。

 そりゃわかるわけない。なんだ古代魔術って。スキルとも魔法とも違うの初耳だよ僕。


「古代魔術とは、遥か昔に隆盛を極めた文明の技術を指します。当時より細々と受け継がれ、改良され一部の人間に利用されているものを現代魔術とも言いますね」

「魔法とは違うんだ?」

「はい。詳細は省きますが、複雑で面倒で、そのぶん融通の効く魔法だとでも思ってください」

「使ってみたいですっ!」

「冒険に疲れた時、お教えしましょう」

「やたっ!」


 美少女がぴょんぴょん跳ねてる。なんだ、ただの可愛いお姫様か。


「話を戻しますが、ユウリ」

「え、うん」

「何か、印を持っていますね?」


 じっと見られている。

 慌てて全身をまさぐり、ポケットも探して何もないことを確認する。


「何もないよ!」


 エイラは一度ピカッとして、ゆらりと揺れた。


「そうですか。でしょうね。エイラには見えているので問題ありません」

「え、なに、僕なんか連れてるの?幽霊とか!?」

「ゆうれい!!」

「アヤメ様、幽霊はいませんので期待しない方がいいですよ」

「はぁーい……」

「幽霊じゃないなら、なに……?」

「魔術の痕跡、人の目では見えない特殊な印です」

「へー。なんで僕にあるんだろうね」

「井戸の底で痕跡に触れたのでしょう。"加護"の影響かと」


 そっと息を吐く。

 また神様かぁ。


「あのあの、ユーリ、ユーリユーリ」

「はいはいはい、なんだい」


 そわそわしたお姫様に連呼される。

 疲れた心にアヤメちゃんの笑顔が刺さる。浄化だ……。


『MPが全回復しました』


 ……そういうのじゃないんだよね。しかもちゃんと回復してるし。加護よ、ふざけるのはやめてくれ……。


「ふふーっ、井戸のダンジョンで発見はあったんですねっ」

「あ。あー、そうみたいだね」


 アヤメちゃんがニコニコしている理由がわかった。

 井戸の底、ちゃんと収穫はあったらしい。


「思い出だけじゃなかったね」


 ぴょんっと跳ねて「はいっ!」と笑う少女に微笑む。


「井戸に赴いたおかげで、こちらの古代魔術を辿れます。どうやら転移の術が編み込まれているようです。移動先に危険はなさそうですが、行くならばお気をつけを」

「了解」

「もっちろんいきます! ぼうけんは続きますよー!」


 おー!と手を振り上げるアヤメちゃんに、僕も腕を振り上げ笑った。エイラも腕はないが声だけ続く。


 よし、行こう!

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