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剣と魔法の同棲生活RPG※ゲーム制作進行中  作者: 坂水 雨木
第1章 銀の少女と砂乙女
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第20話 ソロではなく、パーティーであり

 街から四方のどこへ冒険に行くか、考えながらもだだっ広いオアシスにある唯一の建物へ足を向ける。


「ようこそショップへ(>∇<)へ」

「すみません、前にも会ったことありますか?」

「遺跡のおきゃくさま! ようこそ(⸝⸝>ヮ<)」


 見覚えあるなと思ったらやっぱりそうだった。例のショップ店員さんである。水色の髪の魔女衣装の美人さん。

 相変わらず表情変化が絶無。ただし声音の彩りは絶好調だ。


「ど、どうも。どうしてこんな砂漠でお店を?」

「これから発展する見込みのある土地です(*^▽^*)」

「そうですか……?」


 周囲を見渡して、唯一オアシスにあるショップを見て。

 ひゅぅーっと寂しげに吹く風を浴びて。


「見込みありです(^・֊・^)」


 なんだその、表情に出さず声でこう……ドヤ顔なのかよくわからない微妙にイラッとする感じ。


「いえ、まあ。はい。店員さんがいいならいいんですけどね」


 苦笑いを一つ。

 と、くいくい服の裾を引っ張られる。


「あの、ユーリ」

「うん? どうかした?」


 さっきまでの勢いはどこへやら。

 妙に大人しく、僕の想像する"箱入りお姫様"っぽいアヤメちゃんだ。上目遣いが僕の魂にクリティカルヒットする。


「えと、ん……ど、どなた、です?」

「あぁ、えっとね。この人はショップ店員さん。いろんなところでショップを開いている……モノを買ったり売ったりできる、雑貨屋の人かな」

「ようこそショップへ(>∇<)へ」

「っ」


 びくっとして、僕の後ろに隠れてしまった。

 なるほど。そういうことか。


「大丈夫、良い人だよ」


 初めての外界。初めての他人。僕は特例として、そりゃ人見知りもする。


「は、はい……」


 まだまだ瞳を揺らしているので、そっと手を握ってあげる。


「……んぅ」

「エイラも僕もいるから。平気平気。手、ぎゅってしておいてあげるし」

「ありがとうございますっ、ユーリ」


 店員さんとの自己紹介は、元気を取り戻したアヤメちゃんが華麗に熟した。他人との初対面もこれでクリアだ。


「――いっぱい買っていってください/(>▽<)/」


 そして例のSF的商品確認。


 "ポーション"

 "おにぎり"

 "うど~んにんじん"

 "レイズポーション"

 "日記帳"


 等々。買ったり買わなかったり。品揃えはそれなりに変わっていた。この街特有のものもあるのだろう。それこそ"オアシ水"なんてものも売られていたのだ。


 買い物を終える。


「またのご来店をおまちしています(✿◡‿◡✿)」

「またきますっ!」


 ぺこりと頭を下げる店員さんに、アヤメちゃんはニコニコ手を振っていた。良き哉。


 街の見回りを終え、大した情報も集まらず歩くだけ……。


「ふぅむ……」


 悩ましい。


 砂、海、雪、草。

 どれにするか、どこに行くか。

 事前情報がメイドからしか得られていないので、決めるに決め切れない。


 これは初めての冒険になる。大事なことだ。簡単には決められない。どうしようかね……。


 砂漠で悩むことしばし。ぱたぱたと元気よく駆けるアヤメちゃんをのんびり追って、オアシスの畔へやってきた。透き通った水が美しい。


「エイラ、このお水は飲めるのですか?」

「はい。有害物質、細菌ウイルス、呪術は検出されていません。ですが煮沸してから飲むことをおすすめします」

「ういるす……しゃふつ……?」


 可愛い子が首を傾げて可愛く尋ねている。

 アヤメちゃんって知識はあるはずだよね。アレかな。引き出しにしまって忘れちゃってる、みたいな。


「体に悪い物質はありませんが、あったら怖いので火を通しましょう。煮沸=沸騰です」

「沸騰はわかります! そうなんですねー。じゃあ今飲むのは我慢ですっ」

「アヤメちゃん、喉乾いてるの?」

「いいえ! わたし、いつもいっぱいお水飲んでますから!」


 えっへんと胸を張った。可愛い。しかしいつも水飲んでたって喉は乾くだろうに。


「アヤメ様は貯水能力も保持しているので、水の飲み溜めが可能です。無論、食い溜めもですよ」

「……なるほど」


 もうどうにでもなれ。

 笑顔の少女に菩薩の眼差しを向ける。いっぱい食べて飲んで育ちなさい……。


「ところでユウリ、悩みがありますね?」

「えっ」

「んっ!」


 アヤメちゃんもびっくりしているが、僕もびっくりしている。何故わかった。


「エイラはあなたの心拍数、血流、瞳孔の変化、筋肉の収縮及びその他変調を観察しています」


「こわっ」


 さすがに怖い。なんてものを観察しているんだ。


「悩みがあるなら打ち明けるべきです。エイラたちはあなたの何ですか?」

「それは……仲間だよ」


 未だ碌に冒険していないとはいえ、僕らは家を同じくする仲間。


「今後の予定に悩むなら、誰より相談する相手がいるでしょう」

「そこまでわかってるのか」


 エイラに誘導され、傍でそわそわしている美少女を見つける。


「……ユーリっ」


 呼ばれ、彼女の気持ちを悟る。


 そうか。そうだなぁ。僕ら、パーティーだもんね。


 ソロに慣れて、仲間に相談するってことを忘れてた。今の僕にとって、アヤメちゃんは大事な仲間なんだ。


 どこに行くかも、何をするかも、一緒に迷って一緒に決めよう。


「アヤメちゃん、ごめん。一人で悩んでた。僕ら、仲間だったね」

「えへへ、いいです! ちゃんとお話してくれたので許してあげますっ」


 ニコリと笑って許してくれる。懐が深い……これは女王様だ。


「ありがとう。じゃあ……アヤメちゃん」

「はいっ!」

「最初の冒険は、どこ行きたい?」

「さばくですっ!!!」


 きらっきらに笑っての即答である。少しだけ苦笑する。


「お、おぉ……もう決めてた?」

「えへへ。ユーリが聞いてくれるの待ってましたっ」


 頬を掻く。そうか。待ってたか。


「そっか……ありがと」

「えへへ~」


 この子は本当に、僕が思うよりよっぽど"自分"を持ってる子だ。

 幼く儚く見えるけれど、その実、ちゃんと強い意志を持って自分で考えて決められる子。


 僕が導こうとか、決めようとか、そういう指導者・先輩目線はやめよう。

 アヤメちゃんは立派な淑女で冒険者の仲間だ。


「エイラ!ユーリ! お水にお空が映っています!!すごいですよっ!!」

「静止した水面は鏡のよう、と謳われることもありますから。世界には本当に空を写し取ったような水面も存在します。探しましょう」

「~~!! ぜったい見つけますっ!!!」


 ……淑女、にはちょっと早いかな。立派なお子様レディだ。


「砂漠、行くかぁ」


 僕の呟きに、アヤメちゃんがしゅたっと立ち上がってニッコリ笑む。


「いっしょにさばくのぼうけんです!」


 少女の太陽スマイルに、僕も釣られて笑ってしまった。


 最初からアヤメちゃんとエイラに話せばよかったな。仲間って、いいね。

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