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剣と魔法の同棲生活RPG※ゲーム制作進行中  作者: 坂水 雨木
第1章 銀の少女と砂乙女
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第19話 目的地

 荒野の街(仮名)にはオアシス以外にいくつかの建物がある。一軒のお店と、看板。終わり。


「……」


 さておき、看板である。ざりざりと砂の多い地面を踏みしめ、看板の下へ。


 神様は言っていた。「看板は大事ですよ」と。僕もそれは思う。看板は大事だ。


 しかしどうしても身構えてしまうのは何故だろう。仲間ができて、セクハラメイドとのトークを素直に楽しめなくなったのだろうか。


 こう、エッチな何かを家族友人に見られた時みたいな感覚。


「(私奴は今、ご主人様の脳に直接話しかけております)」

「っ」


 危なかった。身構えておいてよかった。

 ぴくってしただけで済んだ。


「エイラ! あのお空のふわふわは雲ですか?」

「はい。雲です。食べると甘いソフトクリームもありますよ」

「ええー!! 雲もソフトクリームも!ぜったいいつか食べますっ!!」


 パーティメンバーの二人はよくわからない会話をしていた。


 空を見上げて雲に手を伸ばすお姫様の可愛らしいことこの上ない。楽しそうで何より。でも雲は食べられないと思う。


 仲間たちから目を逸らし、再度看板へ。


「おやご主人様。奇遇にございますね」


 看板、もといメイドである。本日も幽霊的に薄く登場していた。


「……結構頻繁に話してる気がするんだけどね。というかミサキ、聞いていい?」

「うふ♡ 本日の下着の色は――」

「それはいい……いや一応聞いておこう。参考までに」


 深い意味はない。ほんとに。


「うふふ、本日は……あら」


 嫋やかに微笑んだかと思えば、何やら首を傾げている。嫌な予感がする。


「前にも聞いたような展開だ……」

「私奴、偶然下着を穿いておりませんでした♡」


 知ってた。……知っていたくなかったなぁ。聞かなかったことにしよう。


「……オーケー。質問だけど、こう、ミサキがぼんやりホログラム……って言ってもわかんないか」

「ホログラムにございますね。ええ、魔法的にご主人様の知る科学を再現していると思っていただいて構いません」

「……うん。そっか。了解」


 なんで通じるのかは……まあ、うん。いいや。ミサキが看板なのに薄っすら幽霊みたいに姿見える理由がわかったからいい。


「それ、で」


 と、話す前に視界の隅で銀糸が揺れる。


「ユーリーー!!」

「はいはい! そんな大声出さなくても聞こえてるよ」


 しゅぱっと風のようにやってきた少女とのパーソナルラインを手で示す。そうでもしないとグイグイ距離を詰められてしまう。嬉しいけど、嬉しくない。童貞を舐めるな。


 我らがお姫様はさっきからずっと、とっても興奮している様子。元気いっぱいで可愛い。けど近いからね。ちょっと離れようね。


「えへへ。ごめんなさいですっ」

「ううん。謝らなくてもいいよ。それよりどうかしたの?」


 てへりと笑む少女に微笑む。


「いっしょにぼうけんですっ。ユーリ、誰とお話していたのですか?」

「あぁ、うん」


 看板を紹介する。


「この看板は看板メイドのミサキ。変態だけど悪い人じゃないよ」

「かんばんめいど……メイドさんですね! 知ってますっ。なんでもできちゃうすごい人です!」

「フッ――そう、私奴は万能メイド。家事育児運転護衛教育暗殺、なんでもござれなミラクルメイドにございます」


 シニカルに気取ってみせるメイドは、普段の僕のソレにも近い。気が合いそうで嬉しいよ……。


「わわっ、急にお顔が見えましたっ」

「投影術の一種ですね。魔法ではなくスキルに該当します――いえ、一部魔法も混じっているようです」

「すごい不穏な単語混じってたけど……まあいいか」


 少々感心した様子のエイラ。

 護衛だ暗殺だと物騒な単語は皆がスルーしているので僕も聞き流しておく。


 きゃっきゃしているアヤメちゃんに、メイドが「御可愛らしい……お持ち帰りしてもよろしいですか?」と宣っていて、エイラに拒否られていた。


 残念ながら当然である。

 僕のパーティーメンバーをお持ち帰りしないでくれ。


「アヤメちゃん。今ね。このメイドから冒険のヒントをもらってたところなんだ」

「わぁぁ! お助けきゃらですね!」


 うん、と頷く。キラキラな目でミサキも浄化してくれないだろうか。


「アヤメ様、エイラ様。私奴はメイド。転じて、冬に吹き渡る風に実り咲く美しい花、フユカゼミサキと申します」


 件のメイドは何事もなかったかのようにさらっと自己紹介を始める。このメイド、鋼鉄の心を持っているらしい。


「えへへ。わたしはアヤメです! 駆け出しぼうけんしゃです!」

「エイラはエイラです。よろしくお願いします」


 自己紹介もほどほどに、ミサキからヒントをもらう。


「――なるほど。ではこの"何もない街"のことからお話致しましょう」


 メイド曰く。


 ここは未だ名前のない荒野の街。

 僕たちの行動次第で発展の余地がある土地。実感はないが、交通の要衝に当たると言う。


 東に砂漠。

 北に雪原。

 西に草原。

 南に河海。


 魔法的に天候や季節が捻れているらしく、東西南北で明確な差がある特殊な土地がここ。街自体は砂漠の特色を帯びており云々かんぬん。


 僕がオアシスだと思っていた水は、実は雪解け水が地下から湧き出したものらしい。たまに街全体が白く染まるのは、北の影響とかなんとか。


 なんだか物凄い土地に繋がったなぁと思う。エイラは「アヤメ様の四季折々を感じたい」という願いを汲み取った結果です、と言っていた。なら仕方ない。


「昨今、未開の地である"荒野の街"近辺に男装教団が拠点を構えようとしている、とメイドゴシップがキャッチ致しました」

「なんだメイドゴシップって」

「皆様が四方のどこへ行かれるかはわかりかねますが、冒険が目的なのであれば、すべてを巡ることでしょう」


 僕の発言は華麗に流され。


「全部いきます!」


 話は進む。


「うふふ、ええ、是非世界を巡ってくださいませ。どこへ行くかは皆様次第。お好きに御選びください。ちなみに初心者コースは東の砂漠にございます」

「初心者コースって、そんなアクティビティみたいな……」


 どこへ行くかで悩み始めてしまったアヤメちゃんと共に、いったん看板メイドにお別れを告げる。


 砂か、雪か、草か、海か。

 確かに悩ましい。

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