第18話 荒野の街
ひゅるりと風が吹く。
吹き渡る風に靡いた銀の髪が、太陽光を浴びてキラキラと輝いていた。
広い荒野。砂漠。けれど木と水はある土地。
「オアシスかぁ……」
オアシスと言えば簡素ながら砂漠の憩いの場、宿場町的に発展するもの、という印象がある。
実物は違った。ほぼ何もない。人っ子一人いないし、遠く砂地荒れ地にも人影はない。
「……」
家を出てすぐ、僕の視界には荒野が広がっていた。
乾いた風、荒れた大地。天然の砂岩に囲われた場所だけが透明な水を湛えている。
真の意味で砂漠に咲いた一輪の花。オアシスとなっているようだ。冒険の始まりにしては少々……いやかなり寂しい場所だった。
流れるBGMも当たり前に変化し、ちゃんと寂れた街感を醸し出してくる。
あと、超暑い。
「――――」
隣のアヤメちゃんは目を見開いていた。
外を、砂漠を、太陽を、丸い藍色の瞳で見つめている。
「アヤメちゃん。大丈夫?」
視線が動き、僕を見つめる。
次第に頬が紅潮し、口元が緩んでいく。可愛い。
『魅了をレジストしました』
はいレジスト。可愛いからどうでもいいよ。
【選択肢】
1、今後魅了レジストを表示しない
ええ……。普通選択肢って複数出るもんだろうに。
【1、今後魅了レジストを表示しない】
……不要だから別にいいけどさ。
「ユーリ! ここはどこですか!?」
「近い近い近い近い!」
慌てて身を引いた。
ふんわり甘い香りがしてドキドキした。
「ふむ……」
「な、なんすかエイラさん……」
「いいえ? 別に」
ものすっごく含むものある反応だけど、何も言わない。
言っても自爆するだけだ。
「ユーリ!エイラ! ここはどこですか!? あれがお空ですか!!?」
「なんだかふわってします!ふわって!さっきからふわふわなの、なんでしょうこれっ!!」
ぴょんぴょん跳ねてワクワク矢継ぎ早に質問してくる。
一歩離れたことに意味はなかった。即詰められ、背伸びしたアヤメちゃんに言葉を浴びせられる。
僕は、菩薩である。欲を失った地蔵。
にしてもこの子、思ったよりちっちゃいんだね。ハグしたら腕の中にすっぽり収まっちゃいそうな小ささだ。
「好感度不足なので実行したらあなたは死にますよ。それはそれとしてアヤメ様。上部の青いモノが空です」
一瞬にして湧き出した煩悩はエイラの口撃で霧散した。
「べ、べつに実行なんてしないけども??」
「やっぱりあれがお空なんですね! じゃああのピカピカなのが太陽ですか!?」
僕の発言は興奮しっぱなしのアヤメちゃんに遮られた。これでよかったのかもしれない。アヤメちゃんが離れてほっとしている自分がいる。
「その通りです。太陽。そして現在アヤメ様の足元にあるのが地面です。砂地ですね。砂漠地帯です」
「さばく……!!」
キラキラお目目。
やはりここ、砂漠のようだ。そりゃ暑い。
僕の頬が熱いのも、きっと砂漠のせい。彼女の残り香に心臓が跳ねたのもきっと、暑さのせいだ。
一度深呼吸し、頭を冷やしてから話す。
「砂漠か。昼は暑くて夜は寒いって聞くけど、僕たちこの服装で大丈夫?」
「アヤメ様は体温調節機能を保持しているので問題ありません。エイラは言うまでもなく。ユウリは……」
「僕は?」
「知りません。頑張ってください。最悪エイラがどうにかしてあげましょう。男のプライドがないのであれば、ですが」
「……」
【選択肢】
1、よくわかっていない顔のアヤメちゃんを頼る
2、男のプライドを捨てる
3、真の男を目指す
フッ……。
【3、真の男を目指す】
「己の尻は己で拭う。漢ってのはそういうもんさ」
「ですか。では頑張ってください」
そっけない。悲しい。
「……うん。でもほんとだめそうな時は助けてね」
「ふっ、ええ。友を助けるのは当然です。何時如何なる時でもエイラを頼ってください」
返しが瞬間過ぎる。迷いのなさよ。
「う、うん。ありがとう」
エイラって、結構頼られるの好き系だよね。本当、好感度が高すぎてこっちがタジタジになる。一体何をしたらこうなるんだ……平行世界の僕でしたね。
「わっ、またふわって!ふわってしましたよー!」
自らへの呆れは、キャッキャッしているアヤメちゃんに吹き飛ばしてもらった。そのまま風にさらわれないでね。おっと、風の前に僕がさらっちまうかもしれないぜ……!
「……」
エイラさん。ジト目はやめて。目とかないけど空気が伝わるの。
何はともあれ、問題は解決だ。後回しとも言う。
「ってアヤメちゃん。そのふわってしてるのが風だよ」
「やっぱりです! えへへ、これが風なんですね。……なんだか不思議です。ぼうけんの匂いがしますっ」
「ふふ、これから冒険するからね」
わくわくと胸を膨らませる(セクハラではない)少女に微笑み、砂漠オアシスの探索を始める。
色々気になる場所があるのだ。のんびり行こう。




