第17話 出立
隠し部屋から戻ってリビングである。
「ユウリ、あなたは根無し草の放浪男という話でしたね」
急な暴言……でもないけど、ちょびっと傷つく発言であった。
「色々語弊があるけど、概ね正しいかな……」
冒険を始めた途端、「あなたのぼうけんはおわってしまいました」を迎えたのだ。
そして神様に拾われ、今に至る。
「よく考えたら、ここ出たら元居た場所に戻れるのかも?」
「無理です。何故なら既に接続先を変更しているからです」
「そっかぁ」
無理らしい。さっきまで接続中と言っていたが、もう終わったのか。仕事の早い光玉なことで。
「ちなみにどこに繋げたの?」
「人目に付かない"冒険に適した土地"です」
「……冒険に適した土地?」
「ふふーっ、わたしがお願いしました!」
おお、急に現れて可愛い。
「アヤメちゃん。音楽聞いてたんじゃ?」
「エイラもユーリもいなくて寂しいので、こっちにきました!」
にぱっと笑顔。
ド直球で寂しいと言う美少女。なんだ、ただの天使か。
「うんうん。一人は寂しいよね。一緒に居てお話しようね」
ニッコリ。素直な天使姫は無限に甘やかしてあげよう。
「えへへ、お話ですっ。ユーリ、ぼうけんできる場所ですよっ」
「エイラにお願いしたって話ね」
彼女らしい要望だ。
曖昧だが、エイラが危険な土地を選ぶことはないし大丈夫だろう。
「詳細は外に出てからのお楽しみです」
「了解」
「はいっ!」
元気よく頷いている。和み。
「それで、ユウリ」
「うん」
「根無し草の話に戻りましょう」
その話、まだ続けるんですね……。
「はいはいっ。ネナシグサは、なんですか?」
「……」
ノーコメント。
「家を持たない哀れなユウリを指します」
「僕限定だったの!?」
「それは可哀相です……でも、もうユーリはネナシグサじゃありませんね!」
「ん?」
アヤメちゃんがニッコリと僕に笑いかけてくれる。眩しい笑顔だ。
『魅了をレジストしました』
はいはいレジストレジスト。
無駄だよ、笑顔は眩しくて可愛いままだから。
「ユーリはわたしのお友達で仲間ですから! お家もいっしょですっ!」
キラキラ。光輝く太陽スマイル。
「ど……そっか。あはは、嬉しいな」
危なかった。同棲だ! と叫びそうになった。危ない。
「ふむ。よかったですね、ユウリ。同棲ですよ」
「ぐぉ……くそ、僕が我慢した言葉を……!」
「ふっ」
ものすっごい鼻で笑われた。絶対「これだから童貞は」とか思われてる。でも童貞なの事実だから何も言い返せない……!!
「どうせい……?」
あぁ、またアヤメちゃんに不要な知識が……。
「アヤメ様、同棲とは、男女が同じ屋根の下暮らすことを指す言葉です。特に恋人関係にある男女が行う場合、"同棲"、が使われます」
「こ、こいびとっ……!」
ぱっと頬に桜が散る。髪の毛も肌も色素薄いから、照れ具合がとてもわかりやすい。そしてとても可愛らしい。
「えと、えとえと……っ」
アヤメちゃんが動揺している。何気に初な感じだ。
「そ、そういうのはだめですー!!」
お姫様は、ぴゃーっと別の部屋に走って逃げてしまった。
……ふぅ。
「あのお姫様、ちょっと可愛すぎるかもしれない」
「でしょう」
なんでエイラがドヤってるんだ。
「さてユウリ、今後はゲーム部屋のベッドを使ってください。いつ寝ても構いませんが、アヤメ様との冒険をお忘れなく」
「うん。了解です」
さすがにまだ寝ないよ。時間間隔は……わからないけど、元気も気力も充分ある。
冒険に行かなければ。
◇
「さて……」
アヤメちゃんの家――延いては今後の僕の活動拠点案内も終わり。
じゃあ次は、というところだ。
僕には使命がある。
童貞捨てる。ついでに男装教団討滅。
あとアヤメちゃんにご飯をいっぱい食べさせてあげる。
そのためにも外へ行かなければならぬ。今こそ冒険の時。
「ユーリ!」
「はい! なに……?」
びっくりした。急に目の前に現れないでほしい。
突発美少女遭遇は童貞には辛いって……。
「ぼうけんのことを考えていましたね!」
「えっと、よくわかったね」
「んふふ~、わたしのおでかけセンサーは万全なのですっ」
ニッコリ。
なんだ、お出かけセンサーって。可愛いか。可愛いなぁ。
「そっかそっか。アヤメちゃん」
「はいっ」
「ルームツアーも終わって、この家、外とも繋がったでしょ?」
「ですっ!」
期待した顔だ。
「ふふーっ」
ニコニコと満面の笑み。
ふっ、僕は童貞。
美少女の期待には完璧に答える漢。
「――つまり、冒険の時!」
「わぁぁ!! おでかけです!!」
元気いっぱい、期待いっぱいな銀髪美少女と共に。
さあ行こう。旅の始まりだ。
ぬるっと終わりましたが、実質ここまでがプロローグ。
第0章終わり、といったところです。真の冒険がここからスタートします。
引き続きよろしくお願い致します。




